Yurikawa Tamaki

揺川たまきです。短歌を作っています。東京大学Q短歌会を2023年3月に卒業して、無所属…

Yurikawa Tamaki

揺川たまきです。短歌を作っています。東京大学Q短歌会を2023年3月に卒業して、無所属です。

マガジン

  • 短歌

    これまでに作った短歌を公開しています。

  • つれづれ

    短歌と自分のこと、日常のことを書いています。

  • 短歌と写真

    これまでに作った短歌と、自分で撮った写真をまとめています。

最近の記事

  • 固定された記事

「夏の公園」揺川たまき〈短歌25首連作〉

入口にいつものコートがないせいで突然冬が終わってしまう 退職するひととしてきょうはお菓子とか紅茶をもらいニコニコしてみる 退勤のボタンを押すと機械からよろしいですかとやや責められて 終業のビルからふたり吐き出され目と目に分かち合うおなじ月 仕事から仕事終わりへ 前髪をわざと狂った風にあそばす 雑踏で押されてすこしふらつくと胸の小石がからころと鳴る 上澄みの夜を飲み込むわたしたちバイト終わりのラーメン屋にて 眼鏡のほうがすきだったなんて言えなくて無防備なその凹凸を

    • スキーしに行った短歌連作(2024年、晩冬)―揺川たまき

      スキー・スノボウェアのフロアに降り立てばそれぞれの羽でみな嬉しそう 人差し指、ひとより長いのかな、たぶん。手袋いくつもいくつも試す 試着室のカーテンゆれる 雪山を頭にえがく必要がある トンネルを出れば光で 天然水のラベルみたいな山あらわれる ゲレンデ横のラーメン・カレーののぼり旗 非日常をしてくれて、ありがと 斜面にてむりやり止まればななめってしまう遠くの白い山脈 ウェア、ゴーグル、帽子できみは膨らんで こわいな 見失っちゃいそうで 世界って実はメインは夜なのか

      • #2023年の自選五首を呟く by揺川たまき

        X(Twitter)で投稿しましたが、記録用に。 2023年にお世話になった皆さま、ありがとうございました。 2024年もよろしくお願いいたします。 眼鏡のほうがすきだったなんて言えなくて無防備なその凹凸をみた 真夜中の窓に映ったおれたちもクレーンゲームのあひるなのかな またきみはわたし以外が好きらしいわたしは置き傘とかしないのに 沢木耕太郎がかわりに旅してくれたから膝を抱えてるだけの土曜日 生きることの傷口みたいに花水木ほの赤く咲く街路うつくし

        • 「Nutrition」揺川たまき〈短歌9首連作〉

          クレープのサンプルは夜にひらかれて優しいゆびさきを待っている 買いもしない葡萄の粒はつやめいて開店前の冷えた朝日に マカダミアナッツほろほろ崩れてく口の中 これ、洗脳みたい 誕生日ケーキの上のロウソクを消すのってなんか縁起悪くない? ピザ屋まで 3キロ歩く ピザ食うたびこの日のことを思うんだろう ねむれない 卵焼き色のライオンのぬいぐるみは嘘だけどかわいい 天体ショーはショーではなくてぼくたちがアイスをなめるのと同じこと グレープのかたちのグミがグレープの味だか

        • 固定された記事

        「夏の公園」揺川たまき〈短歌25首連作〉

        マガジン

        • 短歌
          9本
        • つれづれ
          6本
        • 短歌と写真
          7本

        記事

          #2022年の自選五首を呟く

          2022年末にTwitterに載せたのですが、どんどん流れていってしまうので、 こっちにも載せようと思います。 #2022年の自選五首を呟く です。 *** ジンジャーエール、飲む前に嗅ぐときだけがいちばんおいしいけど飲みました なんとなく断れんくてついていったカフェのケーキの細さ気になる 折りたたみ傘を失くして雨の夜のユニクロのなか 服になりたい 鍵閉めてそのへんにきみのコートがある だけで嬉しかったのになあ、冬 薄すぎる三日月 薄すぎる信号機 寒くないのにマ

          #2022年の自選五首を呟く

          「口約束で」揺川たまき〈短歌25首連作〉

          もう何回目だろう東京に帰るのは行くとか向かうとかではなくて 雲が雲に落とした影を目で追った目でしか追えない場所にいたから 太平洋、音のはるかなあかるさに憧れるだけでよかった日々よ 新曲に慣らされている薬局でウィダーインゼリー買う深夜さえ イチョウの葉まだ小さくて黄緑ですね自分はずっと自分のまま 笑わせたのか笑われたのかわからずにとても感じるエアコンの風 コーヒーのかたちを変えるきみの唇ストロー咥えたり離したり ぼくら血のぬるさを運ぶ箱なのに口約束で

          「口約束で」揺川たまき〈短歌25首連作〉

          二つの逃避行――スピッツの「夜を駆ける」と穂村弘の"警官"短歌

          (1)はじめに 「夜を駆ける」(スピッツ)を初めて聴いてみたら、歌詞が素敵ですぐ好きになってしまった。と同時になんとなく穂村弘の短歌(警官が出てくるようなやつ)を思い出した。なんかどっちも逃避行だな……という印象を持ったのだ。  この記事では、両者を比較して読んでみたい。まずはそれぞれの作品を読み解いて、最後に比べてみようと思う。 (2)スピッツ「夜を駆ける」の逃避行 歌詞を読むと、どうやら特別な関係にある二人が市街地で逃避行ごっこをしているようである。解釈は人によって何

          二つの逃避行――スピッツの「夜を駆ける」と穂村弘の"警官"短歌

          『大正処女御伽話』について

          桐丘さな先生のマンガ作品、『大正処女御伽話』『昭和オトメ御伽話』が好きだ。 この二作品はそれぞれ単体としても楽しめるが、大正→昭和の順に時間が連続して流れていて登場人物も一部共通するので、合わせて読むのが面白いだろう。 (以下ネタバレあり、注意) とりあえずここでは、『大正処女御伽話』の自己批判的なところについて述べたい。 『大正処女御伽話』では、主人公たちのささやかで平凡な幸せを壊そうとする"羅刹"として〈珠代〉が登場する。彼女には彼女なりの信条のようなものがあるの

          『大正処女御伽話』について

          短歌50首連作「ばかでかいナン」/揺川環

          短歌50首連作「ばかでかいナン」/揺川環

          短歌50首連作「鏡を覗く」/揺川環

          短歌50首連作「鏡を覗く」/揺川環

          短歌6首(『日出処の天子』(山岸凉子作)に寄せて)

          ただ抱き寄せて欲しかったこと思いつくまでにしおれた紫苑の花よ おまえのその敬語つらくて稲穂すら凭れるものが傍にいる 脱皮する夢の苦しさ耐えかねて何度もおまえ、喚んでいるのに おまえが髪乱して誰かとくちづける朝の白さにまみれていたい 目を瞑れ おまえの中に住めなくていいからせめて滅ばせてくれ 海、それはすべてを呑むのだろうけどわたしのことはわたしで殺す

          短歌6首(『日出処の天子』(山岸凉子作)に寄せて)

          サンドウィッチマンのコント動画ばかり見ている

          このごろサンドウィッチマンのコント動画ばかり見ている。グレープカンパニーが公式チャンネルに動画をアップしてくださっているので、ありがたく見ている。 実は、お笑いとか漫才とかコントとかを全然見ずに育ってきた。あんまり私の家ではそういう番組を見ることがなかったからかな。なのでサンドウィッチマンの動画は、Youtubeを見漁っていたらたまたま見つけたという感じだ。 サンドウィッチマンのコントは面白い。ネタバレは良くないので内容は書かないけど。で、一回見ただけじゃ飽き足らず、二回

          サンドウィッチマンのコント動画ばかり見ている

          私と短歌②『世界中が夕焼け』から考えたこと

          高校一年生のときに穂村さんの短歌が好きになった私は、『世界中が夕焼け 穂村弘の短歌の秘密』という本を図書館で借りた。 歌人・山田航さんが穂村さんの短歌を読み解き、それに対して穂村さんがコメントをするという形式の本だった。 短歌を読み始めた(詠み始めた)ばかりの私にとって、穂村さんの短歌は意味がわかるものもあればよくわからないものもあって、どう楽しめばいいのかちょっと掴めないでいた。(わからない歌がある、ということが不安だった。間違った読みをするのが怖かったのだ。)

          私と短歌②『世界中が夕焼け』から考えたこと

          私と短歌①「雪のことかよ」

          短歌を作り始めたのは高校一年生のときからだ。 きっかけは色々あるのだけど、原点は百人一首だと思う。 物心ついたときから家の本棚には「まんが百人一首」があった。幼稚園児の頃に読んでいたのは確かだ。なぜ断言できるかと言うと、まんがには「小学生の皆さんは記憶力がいいから100首全部覚えられるよ!」というようなコマがあり、それを見ながら「わたしまだ小学生じゃないもーん」と思っていた記憶がはっきりあるからだ(なんと生意気な幼稚園児だろう)。 何度も何度も読んだので、まんがのコマ

          私と短歌①「雪のことかよ」

          短歌連作: 返す光に

          木苺の種がぴったり歯につまりそれを奇跡と呼べないでいる 真夜中の川は見えないけど見える町の明かりを背景として 黒板の数式ずらりとのびてゆく窓の向こうの夕闇のなか 包丁を洗った水が包丁の返す光に洗われている 「包丁を洗った水が包丁の返す光に洗われている」 この歌は、2018年9月28日付けの北日本新聞「北日本文芸」の歌壇で「天」に選んでいただいたものです。選者は佐佐木幸綱先生。「天」は初めてだったのでとても嬉しかったのを覚えています。 水や光など、きらきらしたもの

          短歌連作: 返す光に

          祖父との電話

          つい最近、私は二十歳の誕生日を迎えた。 誕生日の翌日の夜、祖父から突然電話がかかってきたので驚いて出てみた。誕生日に連絡するのを忘れてたよ、おめでとう、とのこと。何かあったときのために互いの携帯電話番号は登録しているけれど、メールや電話はふだんぜんぜんしないので少しびっくりした。でもすごく嬉しかった。春休みに帰省したときは祖父は手術で入院していたから、しばらく会っていなかったのだ。 コロナで東京は大変だね、でもそっちも大変でしょ、というような話をした。 祖父は、ちょっと

          祖父との電話