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多様なヘルシー観が交わる中で見えてきた「これからのヘルシー」の条件 / デザイン・リサーチ・プロジェクト 「銭湯で、“これからのヘルシー”を考える」 レポート 連載第2回(全3回)

連載第1回:Z世代のキーワード「ヘルシー」を、デザインシンキングの実践から探る
連載第2回:多様なヘルシー観が交わる中で見えてきた「これからのヘルシー」の条件
連載第3回:デザインシンキングにみる、リサーチの現在地

「銭湯で、“これからのヘルシー”を考える」プロジェクトは、デザインの力によってイノベーティブな「これからのヘルシー」を構想し社会実装することを目的に、博報堂ブランド・イノベーションデザイン/SEEDATA(博報堂グループ)と東京大学生産技術研究所のDLXデザインラボが共同で企画。三菱地所株式会社、日本たばこ産業株式会社(JT)、株式会社Xenomaの参画、東京・高円寺にある「小杉湯」の協力を得て、2月より一連のフィールドワーク、ワークショップとプロトタイピングを実施してきたものです。2020年12月には小杉湯にて、試作品の展示と簡易なヒアリングを通したオープンリサーチを行いました。

連載第二回の今回は、小杉湯での展示によるオープンリサーチのレポートと、そこから見えてきた「これからのヘルシー」のポイントをまとめます。

オープンリサーチで交わる多様なヘルシー観

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(展示の様子)

「小杉湯」の定休日、脱衣所や浴室をお借りして、それぞれのチームが作成した4つのアイデアの展示をおこないました。
来場者はアイディエーション活動に興味がある方から、小杉湯の常連さん、ご近所の方などさまざま。普段はお湯が張られ銭湯として使われる空間に、服を着たまま訪れる面白さに、来場者は日頃撮影できない銭湯内部の写真を撮ったり、フィールドワークのように銭湯内を観察したりするなどして楽しむ様子が見られました。

展示会場となった小杉湯から発想を得て、さまざまなプロダクトが誕生していることに驚き、興味を持ってくださる方や、そのプロダクトが体現している「ヘルシー」に共感し、実際に使ってみたいと答えてくださる方も。
小杉湯の菅原理之さんは、「ヘルシーの定義を読んで、感銘を受けました。銭湯の価値は、SNSや会社などの普段の関係性を崩しつつ、新たな関係性を繋ぐことにあるのだと気づきました。」と話してくださいました。

来場者の方へは感想を直接聞くだけではなく、「4コマ漫画」の形でも残してもらいました。プロダクトを自分ならどう使うか、その人なりのヘルシー観が垣間見えるような内容が印象的です。

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(左は「ring-ring」、右は「STAR TRACE」に紐づけた4コマ漫画)

プロダクトのアイデアは、ひとりの頭の中で考え完結するのではなく、多くの人の目に触れ、解釈されることで、新たな価値を発見し、ブラッシュアップされて成長していくものだと実感できるオープンリサーチでした。

自分や他者を認めてあげることがヘルシーにつながる

このような時代にあって、私たちが小杉湯でのフィールドワークと常連の方へのインタビューを通して考えた「これからのヘルシー」とは、私たち一人一人が、「自分の存在を、自分との関わり、そして、他者との関わりの中で肯定できる状態」ということです。そこには3つのポイントがあります。

1.  自分の感覚を信じること

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在宅しながらスクリーンと長時間向き合うような近ごろの生活とは対照的に、銭湯では水や光、音の響き、湯気など、五感に対して心地よい刺激がありました。まず五感や身体に立ち返って、自分自身の状態を見つめ、そこから物事を判断していくことで、他人や社会が決めた正義や意味ではなく、自らの思いや感覚を信じることができるのではないでしょうか。また、そのことが、他人と異なる自分を認める・肯定することに繋がるのだと考えます。

2.  他者をラベルづけせず、まるごと見つめること

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人間は常に変化していく存在ですが、しばしばそのことを忘れて人に接してしまいます。相手に自分が知らない一面があることを意識する、そのためのゆとりや落ち着きが必要かもしれません。こうした態度は、翻って、自分自身にも返ってくるでしょう。他者の目に映った、固定化された一側面を自分だと思い込むのではなく、自分の異なる可能性に目を向け、意識し、それを肯定できるようになるのではないでしょうか。

3.  理想とする世界を見つけ、そこに仮住まいすること

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いまの時代は、メディアを通して、様々な人物・風景・世界に触れることができます。そして、それを自分の世界に取り込み、生活を作り変えていく工夫ができれば、よりよい方向へ変わっていくことができるかもしれません。例えば、誰かのルーティンを生活に取り入れるように、理想の生活を自分の身体で実際になぞり、追ってみることで、自分の感覚の置き所がわかってきます。そのためにも、変化を恐れず、理想を仮置きしていくくらいの軽やかな態度が重要なのかもしれません。

“これからのヘルシー”のための8つのルール

小杉湯でのデザインリサーチや日々の暮らしでの気づきから、プロトタイプまでを振り返り、ヘルシーであるため/ヘルシーな社会や関係を築くヒントを8つのルールにまとめました。

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(イラスト:藤本月穂)

さいごに:お風呂で創造性が泡立つ? 

(DLXデザインラボ Miles Pennington先生のコメントより抜粋)

創造性を発揮しようとする時には、アイデアを創り出すために、一風変わったスタートポイントや刺激を探すのはごく普通のことです。スタートポイントが奇抜であればあるほど、アウトプットがより創造的になるということも多々あります。しかし通常は、アイデアを作り出そうとしているプロジェクトのテーマ自体は、極めて普通のものであり、明解なものです。しかし、今回のプロジェクトはそれには当てはまらないものだったかもしれません。なぜなら、課題設定自体が「銭湯文化から学んだことを、私達がよりヘルシーになるために、どのように引き出し、または、置き換え、日常生活に取り入れられるだろうか?」というものだったからです。その言葉を聞いた瞬間に、これは面白い経験になるだろうと思いました。プロジェクトの核となる目的は、創造的な推進力となり、魅力的なプロジェクトの興味深い始まりとなりました。
(中略)
ワークショップから湧き上がってきたアイデアは、本当に説得力があり、深く考えさせられるものばかりでした。毎日のコミュニケーションの喧噪の中に静けさを創り出す指輪から、健康と依存症の境界線を考えさせられるセレブ生活のフォローツール、密閉された小さなガラスの空間で私たちの世界を映し予測するミニチュアワールドまで。そして最後に「ハッピーみかん!」、これは私にとって舞台の主役となる果物であり、日本独特の銭湯のためのユニークなアイデアです。裸で座り、見知らぬ人と果物を分け合い、リラックスし、コミュニケーションをとり、社会的に絆を深めていく、ちょっと「キテレツ」シナリオかもしれませんが、これ以上に今私たちが面している制約や悩みの治療薬として望めるものがあるでしょうか?アルキメデスが天啓を得た瞬間から 2,000 年以上経っても、まだ、インスピレーション、創造性、革新性は、多くの人に愛されているお風呂の水面に浮かび出てくるのを待っているのです。

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(マイルス先生とプロトタイプ「ハッピーみかん!」)

連載第1回:Z世代のキーワード「ヘルシー」を、デザインシンキングの実践から探る
連載第2回:多様なヘルシー観が交わる中で見えてきた「これからのヘルシー」の条件
連載第3回:デザインシンキングにみる、リサーチの現在地

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構成・編集:藤本月穂
博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 イノベーションプラナー
東京大学工学部建築学科卒/同大学院新領域創成科学研究科社会文化環境学専攻修了。建築構造を学び、素材と構造の新たな関係や、複雑な3次元構造の自動生成を研究。
まだ無いものを計画し作っていくという建築と広告の共通点を手掛かりに、現在は博報堂ブランド・イノベーションデザインにて、リサーチ活動、ブランドビジョン策定や新規商品・サービス開発支援などに従事。


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