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「理想の彼女」・・・超ショート怪談。よーく考えて見てください。
『理想の彼女』
内野が持論を展開し始めたのは、午後10時を過ぎていた。
「なあ。幽霊って、突然現れたり、消えたりする。
時には別人を装って相手を脅かしたりするだろう。
だったら、自分の理想の顔になって化けて出られるかもしれないよな」
内野の心霊話はいつも面白い。俺は話を促した。
「ああ。そうだな。化けて出るって言うくらいだからな。
それに、恋人に成りすまして、男を危険な場所に誘い込む幽霊の話なんかもあるからな」
「だろう。それほどの力があるのに、どうして
自分を美しく変えようとしないんだろう。
血まみれとか、青白い不気味な顔とか、そんなのじゃなくて
奇麗で可愛くなって、男子をたぶらかしてやれるほうが
楽しいんじゃないの」
「楽しいから幽霊やっている訳じゃあないだろう」
「憑りついたりして、不幸にするくらいなら、
幸福な勘違いをさせて、かりそめでも良いから幸せになった方が良いと思うんだけどね」
「気づいてる幽霊はやってるんじゃないの?」
「そんなもんかな。あ、裕子。冷蔵庫に塩辛残ってたろう、あれ出してくれよ・・・」
そう言うと内野は、立ち上がって冷蔵庫を開け、自分で塩辛の乗った皿をとりだした。
「・・・大丈夫だよ、こいつも明日休みだから」
「ええ。お気遣いなく」
内野は俺に顔を近づけ、小声で呟いた。
「どうだ。美人だろう。俺ももう年貢の納め時かな。もうこいつといるとさ。外へ遊びに出かける気なんか無くなるんだよな」
「そうだな。わかるよ」
俺は内野の一人芝居を壊さないように相槌を打った。
最高の美人と同棲していると内野は言うが、俺は会ったことが無い。
他に誰も居ないマンションの中で、ずっと世話やきの彼女に話かけるような行動をしているのだ。
内野の様子がおかしいと友人から聞いて、様子を見に来たのだが、実際にこの目で見ると、衝撃は大きい。
だけどもしかすると、内野には本当に、絶世の美女が見えているのかもしれない。
何者かが彼の理想通りの姿をして、そこにいるのだ。
妄想、狂気、幽霊、妖怪。本当のところは分からない。
ただ一つ言えるのは、牧村が今、幸せだという事だ。
非の打ち所の無い美人が傍に居るなら、もう他の女性には興味を持てないだろうな・・・でも、世の中の為には、それも良いかもしれない。
内野のこれまでの悪行と泣かされてきた女たちの顔を思い出し、
俺は何も言わないことにした。
おわり
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