見出し画像

「交通整理のバイト」・・・あっという間に読める。超ショート怪談。


学生の頃、「楽で簡単で良い金になる」と言って
先輩が自分の代わりにアルバイトに入って欲しいと言ってきた。

内容は工事現場の交通整理。
道路の片側を掘り返して工事している間、
片側通行の車を止めたり活かせたりする、いわゆる「棒振り」である。

現場は国道から20分ほど入った山の中の2車線の道路。
ギリギリすれ違うくらいの道幅で緩やかなカーブが続いている。

カーブの向こうが見えないため、
俺ともう一人のバイト、年配のガンさんが
現場の手前と奥に別れて待機していて、
俺の方に車が来たら、反対側にいるガンさんに無線で連絡して
車が無ければ、俺の方を通す。
逆にガンさん側に車が来ていれば、こちらを一時留める。
それだけの簡単な仕事だ。
山の中なので滅多に車も通らないから大部分の時間は、
ぼおっと縁石に座ってガンさんからの無線を待っているだけ。

「これは楽だな」

超ラッキーと思いながら、時々無線を受けて棒を振っていた。

夜10時に始まった工事が、真夜中を過ぎた頃だった。

軽トラが一台、近づいて来た。
俺は赤く光る棒を振って、軽トラを止め、無線に聞いた。

「ガンさん。そっち、車来てないですか? 軽トラ通ります」

ジジッと低い音がして、ガンさんが答えた。

「大丈夫だよ。通して通して」

俺は安心して、軽トラに頭を下げて、進んでよいという風に赤い棒を振った。

ところが、
軽トラが走り出した途端、
反対側から、大型トラックが走って来て、
危うくぶつかりそうになった。

軽トラのドライバーが早めに気付いて急ブレーキを踏んだので助かったが、
両方の運転手から、

「馬鹿野郎!」

となじられてしまった。

俺は、何度も頭を下げて、軽トラを送ってから、
無線機でガンさんに文句を言った。

「ガンさん。大丈夫じゃないでしょう。車が来ましたよ」

「ああ。何言ってんだ。俺は、一台行くぞって言ったのに、
お前が大丈夫だって、言ったんだろう」

「そっちが大丈夫だって言ったんでしょう」

俺とガンさんは、無線機越しに怒鳴り合っている時、

又、俺の近くに一台の乗用車がやって来た。
喧嘩してても、仕事は仕事、俺はガンさんに

「一台通しますよ。そっちは大丈夫ですか?」

と聞いた。

「ああ。大丈夫だ」

それを聞いて、俺は念のために、道の中程まで出て確認してから、乗用車を通した。

しばらくすると、無線機から混乱した声が聞こえた。

ガンさんのようだが、興奮していて何を言っているか分からない。

その声がどんどん大きくなるな・・・と思っていたら、
ガンさんがこっちに向かって走って来た。
真っ赤な顔をして怒っている。

「この馬鹿野郎! こっちに車があるぞって言ってんのに、
車を走らせる奴があるか!」

「え~?ガンさんが大丈夫だって言うから走らせたんじゃないですか!」

俺たちの話は、全く噛み合わなかった。
だけど、すぐに理由が分かった。

ガンさんの無線機からは俺の声で、俺の無線からはガンさんの声で
同じ言葉を言い出したのだ。

「大丈夫だ~。どんどん通せ~」

「大丈夫だ~。どんどん通せ~」

俺はすぐにこのバイトを辞めた。

おわり

#朗読 #怪談 #交通整理 #恐怖 #道路 #不思議 #棒振り #ショートショート #謎 #無線機 #アルバイト #スキしてみて #事故

この記事が参加している募集

スキしてみて

ありがとうございます。はげみになります。そしてサポートして頂いたお金は、新作の取材のサポートなどに使わせていただきます。新作をお楽しみにしていてください。よろしくお願いします。