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「出会いの意味が、すぐに分かる訳ではない」・・・時間まぶりの伝言。旅で見つけた物語。


「時間まぶりの伝言」

「銀河の夢より、足もとの土っちゃ」

青年は、その教師の語る難しい科学知識や妄想のような天空の話が鼻について気にくわなかった

「ありゃ、時間まぶりさ」

時間まぶり、とは、退屈で暇をもてあましていることを指す。
夢や理想を語る事は、寒さ厳しい農村では
現実を見ない虚ろな時間に思えたのだ。

青年は、教師の授業中、常に虚ろな気持ちで窓の外を眺め、
何も得ることはないな、と考えながら卒業まで過ごした。
青年が農学校を卒業して数年後、その教師も農学校を辞めたことを聞いた。

教師は、実家の近くで実際に土に触れて作物を作る農家を始めたという。
同級生の何人かが、元教師の畑作業を手伝いに行ったと聞いても青年は、

「また時間まぶりの銀河の夢を話されるのがオチっちゃ」

と言って、近づかなかった。

それどころか、収穫間際の白菜をこっそりと盗んだりした。

「どうせ、わらすの遊びみたいな畑仕事、どこかに売るわけでもねっちゃ」

しかし、元教師は、気にもせず畑に立ち、病の時でもわが身を顧みず、訪ねてくる農民の相談に乗り続けた。

そんな噂話を耳にするうち、青年は通りすがりを装って
元教師の家を覗きに行くようになった。
そして、畑仕事をしていることを
確認するとなぜか安心する自分がいる事に気づいた。

しかし数年後、青年の元に元教師の訃報が届いた。


葬儀を終えた青年は、気がつくと、元教師の家の前に立っていた。

家の裏手に掲げられた伝言板に元教師が書いた言葉が
消されずに残っていた。

「下の畑にいます。宮沢賢治」

命の炎が消える最後の瞬間までこの村の人々と農業に寄り添っていた教師の生きざまが、その伝言板に残されているような気がした。

青年は、悔恨の情に涙した。
学生時代、照れと意地が邪魔をして素直に教えを請わなかったこと。
畑仕事を手伝わず、邪魔までしたこと。全てを後悔し一人泣き続けた。

「ごめんなしてくない。銀河の夢も足下の土も決して忘れねっちゃ」

しばらくして、伝言板の文字が消えそうになるたび、上から書きなぞって残そうとする青年の姿があった。

     おわり


先日、親しかった友人が亡くなりました。
夢を追いかけ続けて、最近ようやくその一部がかなったばかりでした。

人はいつ亡くなるか分かりません。
常に自分のやりたい事、人がやっている事に、真摯に向き合う事が大事だと思います。




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