「伝説の橋」・・・超ショート怪談。河童伝説を訪ねる。

「伝説の橋」

大学の怪談研究会の旅行で、
河童伝説のある古い橋にやって来た。

かつて、この橋は何度掛けても水に流されてしまい、
酷い時には、年老いた祖母が幼い孫を残して橋ごと水に流され
亡くなったこともあるらしい。

その後、橋をかけ替えようとした時に、水の中から河童が現れて工事を手伝った。おかげで橋は無事に掛けられて、今も当時の姿で残されているのだという。

私たちは、橋の上でポーズを取ったり、遠目から橋を眺めて見たりして
沢山の写真を撮って、大学に帰って来た。

「あれ？　この緑色、何だろう」

部室で、その橋を撮った写真を確認している時、
私はおかしなものが写っている事に気が付いた。

橋の真ん中あたり、川の中に立つ橋脚の根元に
何か緑色の塊が写っているのだ。

拡大していくと、緑色の人のようだ。
川に半身を漬けながら、橋脚にしがみ付いている。

「これ、河童かも！」

一度そう思うと河童にしか見えない。

とんがった口、手の指に水かき。そして頭には皿。
明らかに河童だ。

「やった。凄いのが撮れた。みんなちょっとこれ見てみろよ」

私は隣の部屋にいる部員たちに見せたくて声を掛け、
喜び勇んで写真を拡大した。

『ムーに投稿しようか、いや、テレビ局に持ち込むか』

そんな事を考えながら、拡大した写真を見直した。

河童の顔が大きく見えると、何か元気がないように思える。
ぼおっとして虚ろだ。

「やはり百年も橋を支え続けると、疲れるのかな」

だが、すぐにそれは違う事に気が付いた。

河童の頭の後ろに、何か黒い人影が見るのだ。

「仲間の河童か？」

とも思ったが、様子が違う。人間の年老いた女だ。
老女は長い髪を振り乱して、河童の首にしがみ付き、
その頭の皿に口をつけ、水を飲んでいる。

水を飲まれた河童は、目の焦点が合わず、
気を失っているように見えるが、
その腕は、しっかりと橋の橋脚を抱えている・・・いや。
抱えさせられている。

私は直感的に、その理由を感じ取った。
可愛い孫を失った年老いた祖母が
河童をその橋に縛り付けているのだと。
そして、この先ずっと、河童は老女に頭の皿の水を飲まれ続け、
老女の望む通りに橋脚を支え続けるのだ。未来永劫。

一瞬、河童の背中に貼りついた老女と目が合ったような気がしたが、
気のせいだった。
次の瞬間には、写真から河童も老女も消えてしまっていたのだ。

私の横にやって来た部員たちを、
「何でもない」
と言って追い返し、私は黙ってその写真を人の目に付かぬように捨てた。

伝説は美しいほうが良い。

　　　　　　　　　おわり

＊写真はイメージです。

写真はイメージです。

#朗読 #怪談 #伝説 #呪い #河童 #川 #老女 #恐怖 #ショートショート #怖い #孫 #祖母 #洪水 #山の中 #不思議 #謎 #スキしてみて