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マーク原則の綻び

守備において『マーク』は欠かせない要素の一つである。相手にゴールを決めさせない、パスを出させない、ターンさせないためにはマークが重要になってくる。攻撃側は相手のマークを上手くかわしながら攻める必要があり、マークを外したり、マーカーとのデュエルに勝つ必要がある。

今回は浦和vs福岡の試合から良い攻撃をするためのマーク原則の攻略法についてまとめていく。


緻密な設計の3-4-3プレス

まず試合の流れの中で浦和の4-3-3のビルドアップに対して、福岡の3-4-3のプレスという構図が目立った。

福岡のサイドへと限定してWBとワイドCBの縦スライドでボール刈り取る守備は非常に緻密に構築されていて完成度の高いものだった。

福岡は下の図のようにCFのザヘディがアンカーのグスタフソンをマーク。シャドーが浦和の両CBへとプレスをかけてSBへとパスを誘導して、プレスのスイッチを入れた。CBからSBへのパスが出るとWBが飛び出して対応、それに連動してワイドCBが浦和のWGへタイトにマークしてボールを奪い取る場面がいくつかあった。

1:53の福岡の3-4-3プレス

福岡のプレスの強みは非常に緻密に設計されており、ボールサイドへ圧縮した際には逆サイドのワイドCBとWBがボール中央へと収縮して、最終ラインで常に+1を作っていた。更には逆サイドのシャドーがピッチ中央に絞って中央のスペースを埋めることで、ボールサイドと反対のボランチを解放。そのボランチがプレスバックしてロングボールのクリアボールのセカンドボールを対応する。

例えば、15:58の場面では浦和の右サイドへボールを誘導して、RSB酒井へボールが入った時にLWBの前嶋が飛び出して圧力を強める。酒井が前線にロングボールを蹴る際にはRCB田代とRWB湯澤がスライドして+1を最終ラインで作る。そして松岡がプレスバックをしてセカンドボールを回収できるポジションを取る。

15:58福岡のハイプレス

福岡はこのハイプレスでなるべく高い位置でボールを奪ってショートカウンターでチャンスを作りたかったところだが、ポジティブトランジション時の最初のパスの精度が低く、なかなかシュートまで持っていくことができなかったことがゲームを難しくした。前半の24:26の田代のように奪ったボールを前方に素早くパスを供給することができれば、もう少しチャンスが増えたはずだ。しかし、全体的に見ればプレスに行く時と行かない時のメリハリもついていて、浦和のビルドアップを上手く制限することもできていたので、継続することでより『奪ってからのカウンター』に磨きをかけることができるはずだ。

マークの原則と綻び

浦和はヘグモ監督になってから昨シーズンよりも、よりボールを握りながらゲームを進めていくやり方にシフトしている。そのためビルドアップは浦和の今シーズンの重要なフェーズであるが、この試合では前述したように福岡のハイプレスによってサイドへと追い込まれてボールを蹴らされる局面も多かった。

浦和は基本的に4-3-3の陣形でビルドアップを行う。前線3枚がトップラインに張り出して4-3+GK西川でプレスを回避することが狙いである。

ビルドアップをする際に起点となるのがアンカーのグスタフソンを中心として中盤の3人である。しかし、この中盤の3枚を福岡のダブルボランチ+CFザヘディが監視していたことで、中央を経由したビルドアップを行うことができずにサイドへとボールを展開する場面が多かった。例えば、31:42のように中盤の3人がマークされてしまい福岡のプレスの矢印と同じ方向にボールを展開させられたことでホイブラーテンの所でハメられてしまった。

31:42のビルドアップ

特に浦和は今シーズン、アンカーのグスタフソンを経由したビルドアップが多く、グスタフソンが監視されているとビルドアップが手詰まりになってしまう課題を抱えている。この試合でも福岡のザヘディ(ウェリントン)がグスタフソンを消してCBから中盤へのパスコースがない時にはハメられてしまう場面が多かった。

そこで、浦和が攻略の糸口として利用したのがマーク原則の綻びである。通常、選手をマークする際には原則がある。例えば、「CFザヘディはグスタフソンをマークする」というものだ。しかし、その原則の中でも綻びが生まれてしまうことがある。その一つとして「もしグスタフソンがアンカーの立ち位置からハーフスペースへと抜けた時にそのままザヘディは付いていくのか、味方の選手にマークを渡すのか」というものだ。なぜなら「もしマークを渡す場合にはいつ、どこでどんな状況なら渡すのか」と状況を断定することが難しいからである。

その原則の綻びが顕著に現れたのが19:50の場面だ。グスタフソンはフラフラっと自分の持ち場であるアンカーを離れてLDMの前の背後へと移動。この時にはザヘディはグスタフソンへ付いて行かずに自分の持ち場を守る判断をした。そのためグスタフソンがフリーとなり、佐藤のパスを受けた岩尾がワンタッチでグスタフソンへとパスを繋ぎ4vs3の局面を作った。

19:50の浦和の中盤のローテーション

マークしている選手が立ち位置を変えてきた際には常に「このままマークし続けるべきかマークを渡すべきか」という判断の迷いが生じる。当然、試合前に「こうなった時はこうするというようなマーク」の決め事をしているはずだが、今回のグスタフソンの動きに対するマークの原則はなかったのかもしれない。

前半の18分過ぎたあたりから浦和は中盤の3枚がローテーションするようになったが、福岡も前半のうちに上手く修正することができていた。常にボランチの2枚が岩尾と伊藤にマークするのではなくて、ボールサイドと反対のWGが絞って睨みを効かせたり、マークを受け渡しながら対応していた。

5-2-3ミドルプレス攻略

サイドフロー

浦和は福岡のミドルプレス攻略の糸口としてIHがサイドに流れて福岡のWBの背後でボールを受けるサイドフローを採用していた。SBが低い位置をとることで、福岡のWBを引っ張り出して空いた背後のスペースにIHが流れてきてプレスの逃げ道を作るのだが、福岡のダブルボランチの運動量とスライドの速さが徹底されていたために、サイドフローから上手く前進できた場面は少なかった。

38分ではRSB酒井に対してLWB前嶋が飛び出したことで前嶋と宮の間にギャップが生まれる。そこにRIH伊藤が流れてきて前嶋の背後でボールを受けたが、LDM前もしっかりと伊藤の動きについていきパスコースを制限、伊藤のパスを宮がインターセプトした。

38分の浦和のサイドフロー

浦和はサイドフローした時の繋がりが乏しく、特に右サイドで伊藤がサイドフローした際のサポートがないためサイドフローがあまり効果的ではなかった。一方で左サイドでは岩尾がサイドフローした際に渡邊がアンダーラップしてきて並行でサポートに入ったり、大久保がインサイドに入ってパスの角度を作ったりと連動性が高くスムーズにボールの循環が起きていた。

SBのパスを受ける位置

浦和がアタッキングサードに侵入する機会を高めるためにはSBのボールを受け方を工夫する必要があると感じている。浦和のSBは基本的にサイドに開いてサイドライン際でボール受けることが多いのだが、もう少し内側に入ってきたり、売れる位置の高さを工夫するだけでも相手の1列目や2列目を越えやすくなるはずだ。

例えば、55分の酒井の立ち位置を見てみると酒井の前には大きなスペースがあるにも関わらず、RCB佐藤と近い位置にいたために佐藤からのパスで1列目を越えることができなかった。RWG前田が前嶋をピン留めして酒井の前にはスペースがあったのでもう少し高い位置を取ることができれば佐藤から酒井へのパスで前進することができたはずだ。

55分の酒井の立ち位置

あるいはハーフレーンにアンダーラップするような動きがあっても面白いかもしれない。特に中盤は3vs3のマンマークの構造になっているため、アンダーラップしていくと「誰がマークするのか」難しい判断を押し付けることができる。

その数分後の57:03では酒井が先程よりも少し高い位置かつ内側でボールを受けたことで、LDM前に対して酒井と伊藤で2vs1の局面を作ることができた。従って、酒井にはあまり強いプレッシャーはかからずに逆サイドの渡邊へと展開することができた。

57分の酒井の立ち位置

また浦和の1点目の酒井の立ち位置を見れば明らかだが、佐藤から酒井へのパスで福岡の2列目を越えることができている。佐藤のパススピードも素晴らしく、酒井が岩崎の斜め後ろを取る立ち位置も見事だった。

特に福岡のようにサイドで縦スライドをしてくるチームに対してはSBの立ち位置が重要となる。低く立ち位置を取ってWBを引き出すことも1つの手段であり、高い位置を取ってピン留めすることもできる。あるいは57分の酒井ように内側へ入って中盤で数的優位を作るなど、SBはビルドアップや前進するためには賢く立ち位置を取ることが求められる。もう少しSBが気を利かせることができると浦和のボール保持が安定するはずだ。

サイドチェンジによるスピードアップ

基本的にチャンスを作るには瞬間的にスピードアップする必要がある。スピードアップすることでDFのスライドや対応が間に合わなくなり、アタッカーがシュートや攻撃アクションをするための時間やスペースを手にすることができるからだ。この試合でも両チームがチャンスを作った場面はサイドチェンジによるスピードアップだった。

4:20の浦和のCFサンタナの決定機ではカットインしたRWG前田からクロス気味のサイドチェンジがLWG大久保へと通り、オーバーラップしてきた渡邊のクロスからサンタナのフィニッシュまで一気にスピードアップしていった。

4:20の浦和のサイドチェンジ

基本的にボール非保持ではボールホルダーに圧力をかけるために守備チームはボールサイドへと圧縮するので、逆サイドにはスペースが生まれる。つまり、その逆サイドのスペースまで素早くボールを届けることができれば、スピードアップしてフィニッシュまで持っていきやすくなる。

52:47の浦和の攻撃も先程の場面と同様にグスタフソンから渡邊へ高速サイドチェンジが通り、福岡の守備陣はスライドしきれずに守備で後手を踏む形となった。

52:47の浦和の攻撃

この場面では渡邊との1vs1をRWB湯澤がギリギリのところで絶妙な対応をしたため難を逃れた福岡だったが、福岡の右サイドは渡邊の攻撃参加に手を焼いていた。

福岡の左サイドでは20:55のようにRWG前田に対して宮と前嶋(状況によって前)がダブルチームを組んで対応したことで前田に対応することができていた。しかし、右サイドでは渡邊が良いタイミングで上がってきて大久保+渡邊で攻撃を仕掛けてきたため、ボールホルダーにダブルチームを作ることが難しかった。各駅停車のサイドチェンジでは福岡はスライドが間に合うため上手く対応することができていたが、大きなサイドチェンジで1vs1もしくは2vs2の局面を作られると、浦和の選手たちの質的優位生が目立っていた。PK献上した場面もトランジションの局面で前田に対して1vs1で対応せざるを得なくなってしまったのは痛恨だった。

一方で福岡も大きなサイドチェンジがボール保持からゴールに迫るためのメイン攻撃となった。特に後半は大きなサイドチェンジで逆サイドのWBにボールを配球したところからスピードアップしてゴール前にクロスを入れる場面がいくつか見られた。例えば、76:01ではRCB井上から大きなサイドチェンジでLWB前嶋まで展開。前嶋の前には広大なスペースがあるためアタッキングサード内へと侵入することに成功。

76分の福岡の大きなサイドチェンジ

前嶋の斜め後ろでサポートに入った松岡がファーサイドへとクロスを入れて最後はウェリントンが頭で合わせた。

76分の福岡の攻撃

特に浦和は今シーズンクロス対応が盤石ではなく、特にSB(1番大外のDF)に対して1vs2の局面を作られると高確率でシュートまで持っていかれている傾向にある。この場面でも同様に福岡は渡邊に対してウェリントンと小田の2枚で2vs1の状況を作ることができたため、浦和の選手はボールにチャレンジすることができなかった。この攻撃は残念ながらオフサイドとなったが、福岡は狙いを持った攻撃からシュートまで繋げた良い攻撃だった。

浦和はようやくサイドアタックに対する守備が定着してきた印象があり、アンカーのグスタフソンがPA内のポケットカバー、中盤3枚がボールサイドによってボールサイドのIHをボールホルダーに押し出す守備などこの試合ではユニット守備も機能していた。まだまだ課題はあるがある程度、守備原則が浸透してきた印象だ。

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