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ポジショナルプレーの引き出し

2-0
守備時には4-4-2を基調とする浦和対柏の対決は後半から柏の守備ブロックを攻略した浦和が勝利した。

両チームともに守備時には4-4-2のブロックを作り、コンパクトな守備陣形で守っていた。柏はなぜ前半上手く浦和の攻撃に対応することができていたのか。浦和は後半にどのような変化を加えて攻略したのかまとめていく。


1.5人分の働き

浦和の狙い

浦和は柏の4-4-2の守備ブロックに対して3-1-5-1のような立ち位置を取って前進を試みた。基本的にボランチの岩尾が両CBの間に降りてきて、伊藤がアンカーポジションに入る。そして両SBは高い位置に張り出した。

2:13では浦和の狙いが明確に出た場面だった。柏の2トップに対して最終ラインを3枚にして安定させて、LSBジエゴとLSH山田(雄)の間に立ち位置をとったRSB酒井へ鋭いパスを供給。ブロックの外側からラインを越えると、酒井のアーリークロスから興梠が背後に反応した。

2:13の浦和の攻撃

酒井のアーリークロスにはLCBの古賀が間一髪のところで先に触ってカットしたため、柏はギリギリのところで難を凌いだ。

浦和からすると2列目に5枚を並べて、柏の4-4-2の外側から攻略するのは1つの狙いだったはずだ。意図的なボール回しから1つ良い攻撃を見せた。

1stDFの重要性

しかし、徐々に柏は浦和の攻撃に慣れ始めて上手く対応できるようになる。14:28では全体をコンパクトに保ち、浦和を押し戻す。岩尾からショルツへとサイドを変えるパスが出るが、これに対してFW小屋松が猛然とプレスをかけてショルツにボールを運ばせる隙を与えない。ショルツは大外の大久保へとパスを出すが、大久保に対してはジエゴと山田(雄)のダブルチームで対応してボールを奪った。

柏のコンパクトな守備

柏の山田(康)と小屋松の2トップは守備面で多大な貢献をしていた。例えば、16:19では浦和の3枚の最終ラインに対して、普通なら2トップの脇からワイドCBにドリブルで運ばれて前進を許してもおかしくないのだが、この場面では小屋松がスプリントでプレスバックして浦和のLCBホイブラーテンからボールハント。

16:19の柏の守備

22:56でも同様に2トップでボランチを消しながらCBへとプレスをかけて、ホイブラーテンへ強い圧力をかけることに成功。プレスを受けたホイブラーテンは慌ててLSBの荻原へパスを出したが、RSB土屋がインターセプトして一気にカウンターへ移行。最終的に高嶺の惜しいミドルシュートまで繋げた。

柏はボール保持ではなかなかチャンスを作るところまで至らなかったが、良い守備からのカウンターでいくつかチャンスを作った。特に2CB+ボランチのケアを任されていた2トップの小屋松と山田(康)は、それぞれが1.5人分の働きをすることで2vs3の数的不利を対処していた。

柏の2トップが1stDFとして浦和の最終ラインへ圧力をかけて、中央の選択肢を消しながらサイドへと誘導することができていたので、4-4のブロックはボールサイドへ圧縮しやすかったはずだ。チームとして上手くスペースを消しながらボールを奪うことができていた。

運動量の代償

しかし、2トップがそれぞれ1.5人分の働きをしていたので、それ相応の体力の消耗が見られた。時間が経つにつれて徐々にCBへのプレッシャーが緩くなっていったのは顕著だった。

すると36:18のように前進されるようになる。流れの中でRCBのショルツが左サイドでボールを受けると山田(康)のプレスが遅れてショルツがドリブルで持ち上がる。ショルツが運んだ結果、左サイドでは4vs3の局面が生まれて、柏は後手後手の対応になる。ショルツからフリーでパスを受けた髙橋がダイナミックなドリブルで土屋を剥がして浦和はチャンスを作った。

36:18の浦和の攻撃

スペースメイク

浦和は前半なかなか柏の4-4-2の守備ブロックを前に前進→侵入というような場面を作ることができなかった。大きな原因の1つとして最終ラインに岩尾が降りて3バックに可変した時に柏の2トップがしっかりワイドCBに対してもプレスをかけてきたので、ワイドCBが運ぶことができなかったこと。

そしてもう一つの大きな理由として浦和の2列目の選手が柏の4-4の守備陣形のギャップにそれぞれ立ち位置を取っていたが、ギャップへのパスを警戒されていて中央から攻撃を作ることができなかったことが考えられる。

それらの反省を踏まえて後半から浦和はボールを動かす(特にサイドを変える)テンポを上げたこと。また2列目の選手たちがギャップに立ち位置を取ってボールを要求するのではなく、スペースメイクをして空いたスペースに流動的に選手が顔を出すようにやり方を変えたことが大きな変化として見られた。

浦和の1点目に繋がった攻撃を見てみても左サイドのスローインから始まり、素早く岩尾を経由して右サイドへと展開。ショルツが持ち運び山田(雄)を惹きつけて酒井へパス。酒井にボールが入ると、大久保と伊藤がボールサイドへ寄ってくる。

浦和の選手がボールサイドへ寄ってくると、当然柏のディフェンスの矢印もマーカーへと向くので背後にスペースが生まれる。その背後のスペースに中央から長い距離をスプリントとして背後を取った安居が大久保のパスを受けてシュートを放った。

2、3手前から安居はアクションを起こしていて、マークしていた椎橋も安居の背後への抜け出しに対応が遅れた。また、足下で受けるアクションと同時にCFの髙橋がボールサイドとは離れたところでDFをピン留めしていること、そして安居の背後へのアクションが入ったことで素晴らしい崩しへと繋がった。安居へとボールが入ったタイミングで小泉もゴール前へ飛び込んでいったことで小泉がいち早く反応してゴールが生まれた。

柏は1stDFのところで少し対応が遅れたことと、ボールサイドへ圧縮をかけて奪いにいったところを大久保のフリック気味のスルーパスで剥がされてしまったところが痛かった。

そして浦和の2点目もスペースメイクからゴールぎ生まれた。下の図のようにボランチの伊藤が両CBの間へ降りるとインサイドに入っていた酒井が大外のレーンへ広がり、そのタイミングで大久保が大外からハーフレーンに入ってきて伊藤からの縦パスを引き出して柏の2列目を突破。


浦和の2点目に繋がったビルドアップ

大久保が巧みなボールコントロールとドリブルで高嶺を剥がして敵陣への侵入すると左サイドから中央へ入ってきた小泉を経由。外から中央へと小泉が入ってきたことで小泉の外側にスペースが生まれて、その外側のスペースにオーバーラップしてきたLSB荻原が小泉からパスを受けて強烈なシュートを放ち追加点に繋がった。

浦和は静的なポジション取りから後半は動的なポジション取りに変えたことが功を奏した。柏は浦和のスペースメイクになかなか対応することができなかった。特に岩尾が最終ラインと3列目を行き来して、伊藤、小泉、安居の3人が3列目と2列目を出たり入ったりを繰り返し行っていたことで誰をマークするべきか曖昧な状態となり、組織的な守備が困難な状況だった。特に2点目の場面は警戒していたギャップのところを使われてしまい守備が後手に回った状況でボールホルダーへチャレンジする機会もなく失点してしまった。

ポジショナルプレー1.0

柏はボール保持したところからチャンスを作ることができなかった試合となってしまった。上手くシュートまで持って行けた場面はほとんどが良いボールの奪い方をしてのショートカウンターだった。

位置的優位を活かした攻撃

柏のボール保持ではLSBのジエゴが高い位置に張り出してLSHの山田(雄)がハーフレーンに入る3-2-5のシステムへと可変。浦和の4-4-2の守備ブロックに対して数的優位と位置的優位を取ることが狙いだろう。

前半の5:32では柏の狙いが垣間見えた場面だった。ボランチの高嶺が浦和の2トップの脇に降りてきてRCB立田からボールを受けると、ワイドにいるジエゴへと展開して浦和の2列目を突破。ジエゴに対してRSBの酒井が飛び出したので酒井の背後のスペースに山田(雄)が流れてボールを受けようとした。ジエゴのパスは上手くいかなかったが連動性があり狙っている場所が明確な攻撃だった。

5:32の柏の攻撃

20:24でも左サイドから良い流れの攻撃を見せた。LCBの古賀からハーフスペースの山田(雄)へ縦パスが通り、連動してジエゴがオーバーラップをかけて山田(雄)をサポート。ジエゴのグラウンダーのクロスはカットされたが内側と外側からそれぞれ良い攻撃を見せた。

20:24の柏の攻撃

ポジショナルプレーへの対策が進む中…

前半の序盤こそは柏がポジショナルプレーの位置的優位と数的優位を使いながら前進する場面があったものの、徐々に浦和もそれらの優位性を消すことで対応した。

44:21ではCFの興梠が立田へとプレスをかけて柏の左サイドへと誘導。古賀にボールが入った瞬間に小泉と大久保が内側と外側からプレスをかけて選択肢をなくしてハメた。

浦和はLWGの小泉(髙橋)がボールが逆サイドへいくと内側に絞ってきて柏のボランチをケアすることで柏の数的優位を消した。また最終ラインもボールサイドにスライドすることで位置的優位を決して柏の3-2-5のシステムへと対応していた。

柏は前半の浦和と同様に中央からの攻撃を作ることができず、特にダブルボランチを経由して前進する形がほとんど見られなかった。浦和は柏の3-2のビルドアップに対して2トップ+LWG+1ボランチ(伊藤or岩尾)で対応。それに対して柏は『捕まらない工夫』がなく、引き出しの乏しさが見受けられた。

また個人戦術の部分でも物足りなさが少なからず見受けられ、例えば58:29では古賀がボールを受けた際に、2トップの脇からボールを運べるように感じられたが、ドリブルでの持ち上がりは控えめで、その結果山田(雄)が距離を縮めるために降りてきてしまい伊藤の前でボールを受ける格好となった。本来は伊藤の斜め後ろで受けれたところが伊藤の前でボールを受けたことで伊藤に捕まる形となった。

58:29の柏のプログレッション

柏は仙頭が入ってきてから浦和の2トップに捕まらないポジションでボールを引き出してボールの循環を活性化。また途中出場の武藤もハーフスペースで縦パスを受けて、しっかりと収めて次に繋げるプレーができるようになったことで前進はできるようになっていった。彼らが入るまでは個人の技術的なミスも多く、前線で起点ができずに苦労していたが、選手交代によってボールを前に運べるようにはなった。

高嶺のスルーパスから山田(康)が背後を取った場面や左サイドからゴール前へパスを繋ぎ途中出場の川口がシュートを放った場面などもあったが、全体的に浦和の守備陣を崩す場面は少なく、PA内への侵入回数も少なかったように感じられた。

また、チームとして位置的優位や数的優位が消された時のプランB、プランCがないので対策が進むと手詰まりになる課題は感じられた。位置的優位や数的優位をシステムの噛み合わせで作り出すポジショナルプレー1.0から、優位性を対策された時にどこに勝機(位置的優位、数的優位、質的優位)を見出すかというところのポジショナルプレー2.0へのアップデートが必要だろう。

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