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モダンサッカーのセオリー

2-3
ルヴァンカップ決勝と同じカードとなった浦和レッズ対アビスパ福岡の一戦は福岡が逆転して勝ちきった。

この試合では両チームがシーズンを通じて積み上げたもの、そして積み上げられなかったものが顕著に現れた試合だった。


埋められないスペース

基本的にサッカーのどのフォーメーションでも埋められないスペースというものが存在する。福岡は5-2-3の守備ブロックからトランジションで前に出ていく型を武器に今シーズンは飛躍の一年となっている。

そんな福岡の5-2-3のブロックに対して浦和は前半立ち上がりから埋められないスペースを上手く使いながら攻め立てた。5:22ではRCBショルツからボランチの安居、CFホセカンテへと展開してブロックの内側から前進。ホセカンテから大久保へのパスがズレたためチャンスには繋がらなかったが、ハーフレーンに人を配置することで中盤に数的優位を作り、中央から良いボールの動かし方を見せた。

5:22の浦和のプログレッション

特に5-2-3ではシャドーの後ろ(3トップの後ろ)のスペースの管理が難しい。6:27に浦和は福岡のシャドーの後ろを上手く使いながら前進してチャンスを作った。LCBホイブラーテンから幅を取るLSH小泉へとパスが入り、明本がハーフレーン(シャドーの後ろのスペース)でサポート。

6:27の浦和の埋められないスペースを使った攻撃

そして下の図のように明本からパスを受けた柴戸が内側に絞っていたRSBの関根へとサイドチェンジ。そして関根からCB奈良とLCB宮の間に走り出した中島へとスルーパスが入り、PA内まで侵入に成功した。

残念ながら中島からパスを受けた大久保は上手くコントロールできずにシュートまで持ち込めなかったが福岡の5-2-3を上手く攻略した場面だった。

12:21でも同様に安居からボールサイドとは反対のハーフレーン(シャドーの後ろ)にいた中島へとパスが通り、ホセカンテとのパス交換から中島がシュートに繋がった。

ハーフレーンからブロック内へと侵入

最終的にこの中島のシュートがブロックされて跳ね返ったボールを拾った明本がコンビネーションでPA内に侵入し、CB奈良が明本へ対応したプレーがPKの判定となり浦和に先制点が生まれた。

福岡としては前半の立ち上がりは全体的にスライドのスピードやボールへの反応が遅く、特に逆サイドにボール運ばれた時のスライドの遅れからブロック内への侵入を許すプレーが何回かあった。またスライドが間に合わない時にどう対応するかは今後の課題になるだろう。

縦スライドの強みと弱み

福岡の縦スライド

福岡は左右で違うプレスの方法を行っていた。福岡の右サイドでは右シャドーの紺野がホイブラーテンと明本を管理、RWBの湯澤は幅を取る選手のマークというタスクだった。一方で左サイドでは左シャドーの金森がショルツにプレスをかけてスイッチを入れると、LWBの前嶋が躊躇なくRSBの関根まで飛び出して、それに合わせて最終ラインがスライドする形だった。

その結果、下の図のように福岡の右サイドでは紺野がホイブラーテンと明本に対応しているため、常に数的不利な状態があり、明本から前進される場面が多かった。

福岡の右サイドの数的不利

逆に福岡の左サイドでは金森のプレスをスイッチに前嶋、宮、奈良がスライドをかけて対応。浦和の右サイドは上手く蓋をすることができていた。

福岡の左サイドのプレス

浦和サイドからするとLSBの明本が気を利かせて高い位置を取りすぎずに紺野に対してホイブラーテンと2vs1の局面を作って前進することは狙いを持ってやれていたのでないかと感じた。26:33のようにシンプルに左サイドでの数的優位から前進することを徹底していればもう少し、福岡陣内でのプレー時間を増やしてゲームをコントロールすることができたのではないかと思うが、ホイブラーテンからショルツに展開して右サイドでハマりに行ってしまうプレーが多く見受けられたのは、この試合で浦和が流れを掴みきれなかった1つの要因に感じる。

福岡からすると紺野がかなりの運動量で明本とホイブラーテンの管理をしていて、RWBの湯澤が思い切って紺野のプレスに合わせて飛び出すことができれば、右サイドでボールを奪うことができたように思えた。きっとHTで修正が入り後半から入った小田はしっかりとスライドすることができていたし、CFの山岸も前半の35分辺りからはプレス時に紺野のサポートでホイブラーテンへプレスに行き始めてからはボールを奪える回数が増えた。試合の中で上手く適応することができたことはポジティブだが、紺野の負荷が高すぎて怪我で途中交代となったことも考慮する必要があるだろう。

浦和の縦スライド

浦和は福岡とは違い4-4-2でブロックを作って守るが、浦和もサイドでの縦スライドで福岡の3-2-5のボール保持に対応した。福岡はボール保持時にはWBが高い位置を取り3-2-5の配置になる。それに対して浦和はSHがワイドCBまで飛び出したプレスをスイッチにSBがWBまで飛び出して、最終ラインがスライドする仕組みとなっている。

福岡は下の図のように浦和の縦スライドを利用して浦和のSBが飛び出して空いた背後のスペースにシャドーが走り込むことと」、「シャドーが背後のスペースに走り込むことでライン間へのパスコースを作り出す」狙いは明確に持っていた。特に浦和の守備の原則上、ボランチがSBの背後のスペースを埋めることが多く、そうすると中央へのスペースが生まれやすくなる。

8:33の浦和の縦スライドと福岡の狙い

しかし、浦和も福岡の攻撃への準備は整っていて、縦スライドが起きた時にボールサイドのボランチがSBの背後のスペースをカバーして、もう1人のボランチがボールサイドへ圧縮することでライン間を管理した。

19:26の柴戸のライン間管理

そもそも福岡はワイドCBからWBへのパスを縦スライドで狙われてボールを失う場面が数回あり、そうすると一気にカウンターを受けてしまうので外回りだけのボール保持にならないような工夫が今後は求められてくるだろう。

浦和はWBのところでボールを奪って前向きの状態からカウンターを発動する機会が何回かあったので、それを活かせれば良かったのだがプレーの精度や状況判断が悪いことが多く、シュートまでなかなか繋げられなかった。

モダンサッカーのセオリー

モダンサッカーに置いて攻めているゴール方向に背を向けている時には『ターン』をしないことが推奨されている。『ターン』をするよりも自分より後ろにいる選手にレイオフでボールを落として前向きの選手を使う方が確実かつ、素早くボールを前に運べるからである。特に、自分の周囲の状況が認知できていない時には『ターンをするな』は鉄則となっている。

だからこそ、ボールを受ける時の身体の向きが重要であったり、パスを入れる入射角が口酸っぱく現場では言われている。

この試合で浦和のボランチの柴戸が61:19に前にボールを奪われて失点した。柴戸自身が周囲の認知ができていなかった上に、ターンしようとしてボールを奪われての失点となった。この局面だけでなく一連の流れを見ると浦和のビルドアップで大きな問題を抱えていたことがわかる。

下の図が浦和が失点した局面。ホイブラーテンからボールを受けたLSBの荻原がボールを運んだが、紺野がプレスバックしてきたためにキャンセル。ここまでは正しい判断だったように思う。荻原が運んだことで福岡のボランチの井手口がボールサイドに寄ったために柴戸がフリーになった。荻原が運ぶことをキャンセルしたタイミングでCFの山岸が柴戸とホイブラーテンよ中間に立っていたが、荻原はホイブラーテンよりも柴戸にパスを出すことができていれば、柴戸の身体の向きを考えると逆サイドに展開することができてプレス回避することができていたのではないかと感じた。

61分の福岡の3点目

ホイブラーテンからパスを受けた西川は柴戸にパスを付けるか、ボールを蹴ってリスク回避するかというところで、柴戸へのパスを選んだ。柴戸が西川からのパスを受けるということは福岡ゴールに完全に背を向けることになるため、フリーでない限り前を向くのはリスキーで、ワンタッチでホイブラーテンへバックパスするのがセオリーだ。ただ、西川からパスを受ける時に柴戸が周囲を確認している素振りもあるため、フリーだと思いターンした可能性も考えられる。しかし、福岡のボランチの前がいち早く柴戸のプレーを予測し高いボールハント技術でクリーンにボールを奪ったことで、このゴールが生まれた。

後半の立ち上がり47:15の場面でも実は似たようなプレーがあった。この時にはアンカーの位置には安居が入っていたが、安居はホイブラーテンへワンタッチでパスを出して、ボールを受けたホイブラーテンは関根へのロブパスで福岡のプレスを回避した。

47:15の浦和のプレス回避

このビルドアップから浦和は福岡のPA内まで侵入した。どうしてもこういった失点に直結するミスというのはクローズアップされてしまうが、そこに至るまでのプロセスを評価することが大切なのではないかと思う。

戦術的な話をすると後半から福岡は山岸をホイブラーテンに当てて、福岡の右サイドのプレスの修正をした。紺野に対して明本とホイブラーテンで2vs1を作れていた前半とは違い、後半はホイブラーテンのところで強いプレッシャーがかかるようになっていた。そんな中で浦和が打開策を見つけられないまま時間が進んだことも大きく影響している。トップ下もしくはCFが中盤に降りて中央で数的優位を作るであったり、関根を中央に入れて逃げ道を作るというような打開策がもう少し明確に提示できれば良かったが、積み重ねていないことはできないのが普通である。

やはり1つの局面で2つ3つとミスが重なれば、それを見逃してくれないのがJ1で、非常に高いレベルだと感じさせられた試合だった。

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