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得点を取るために不可欠なプロセス

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5万人近くのお客さんが足を運んだ浦和レッズ対FC東京のゲームは両者ともに堅守を維持してゴールを許さなかった。

しかし、試合を見てみると両チームの守備力が光った一方で、アタッキングサード、特にゴール前でのクオリティーやアイデアの乏しさが伺えたそんなゲームだった。

偽SBの有効性と難点

まずは東京のビルドアップで特徴的だったのがSBのタスクだ。RSBの小泉は大外の高い位置に張り出す時とボランチの隣に並んで偽SBのタスクをこなしていた。LSBの長友は基本的に内側のレーンを担当して、ビルドアップ時に木本、トレヴィザン、長友の3バックになる時とハーフレーンに入って中盤で数的優位を作る動きを見せていた。

偽SBの有効性

6:24では東京のビルドアップ時の狙いがよく出た場面だった。LSBの長友が内側に絞って、LWGの俵積田が大外で幅を確保。長友の偽SBによって中盤で数的優位を確保して、東京はトレヴィザン→東→安部というパスワークから前進に成功した。

6:24の東京のビルドアップ

浦和はRSBの酒井が前半3分に負傷退場したことで左利きの荻原がスクランブル出場となった。その影響もあって前半はRSHの大久保とRSBの荻原の攻守の立ち位置が良くなかった。上記の場面も大久保と荻原の立ち位置が中途半端で誰も捕まえることができておらず、ボールホルダーにも圧力がかからない状況になっていた。特に、長友の偽SBに対して浦和の右サイドはどのように対応するのか定まっていない前半だった。

14:21では再び長友がハーフレーンに立ち位置を取り、ボランチの安部が外側に流れたところからビルドアップ。長友が華麗なターンから背後に抜け出したRWG渡邊へとパスを配球して渡邊のシュートまで持っていった。

14:21の東京の攻撃

偽SBの立ち位置とタイミング

一方で偽SBをすることで上手くいかない場面も垣間見えた。8:59では長友がハーフレーンに立ち位置を取るが、トップ下の東とポジションが被り、選択肢を1つ潰してしまう形に。LCBのトレヴィザンがボールを持った時にパスの選択肢が無くなり、ロングボールを送るもCFのD.オリヴェイラには通らずボールロストに繋がった。

8:59の東京のボールロスト

偽SBをやるにしてもただ内側に入れば良いというわけではない。どこに立ち位置を取るかによって局面への影響力は大きく変わってくる。上記の場面では長友はやや高めの位置を取ったが、大久保と平行くらいの高さで立ち位置を取ると中盤で数的優位を作れるとともに、大久保が俵積田と長友の2人をケアすることになり、それぞれのマークが曖昧になった可能性がある。もしくは、長友が荻原の背後まで抜けてしまい、東にスペースを空けるといった動きも効果的だったかもしれない。

逆に10:48では長友と俵積田が外側に張ってしまい浦和のプレスの餌食となる格好に。この立ち位置でら浦和の4-4-2のプレスと噛み合う形になるので、ハメられてしまいプレス回避が難しくなる。

10:48の東京のビルドアップ

この場面では長友が内側へ移動することで俵積田へのパスコースを作ることができたように思う。あるいは長友が幅を取るのではなく少し内側に入って3バック化するのも1つの手だったかもしれない。

また、長友が内側に入った時の俵積田の立ち位置が低過ぎる場面が何回かあった。例えば、54:51てわは長友が内側に入った時に俵積田の初期立ち位置が低過ぎるためにトレヴィザンから俵積田がボールを受けた時に荻原に強い圧力を受けてボールロスト。

54:41の東京のビルドアップ

最初に高い位置を取っておいてから下がってサポートする分にはスペースが確保できているためプレスを受けづらいのだが、最初から低い位置にいると、相手のプレスのスイッチが入りやすく、またスペースが確保できない窮屈なプレーとなってしまう。

浦和サイドからこの場面を見た時に、前半は大久保と荻原の守備時の立ち位置が中途半端でボールホルダーに寄せることができていなかったが、後半から大久保は長友、荻原は俵積田とタスクを明確にしたことで、長友の偽SBに混乱することがなくなった。この場面でも大久保が長友に付いていき、荻原が前に飛び出してボールを奪うことができた。後半からの浦和の右サイドの修正は見事だった。

東京は「どういった状況の時にどこに立ち位置を取るか」という原則をしっかりと落とし込むことが改善点だろう。東京のビルドアップの肝は両SBの立ち位置が大きく関与しているので、偽SBをした際の立ち位置の整理は必要だろう。

縦スライドは間合いが命

東京のボール非保持はトップ下の東を1列前に出した4-4-2の陣形に変化。東とD.オリヴェイラで浦和のボランチを塞ぎ、外側へと誘導してサイドでハメる設計となっていた。

それに対して浦和は岩尾が下りて安居と伊藤がダブルボランチ化する3-2-5と岩尾がアンカーに入る4-1-2-3の形を使い分けた。FC東京はハイプレスでガンガンボールを奪いに来るというよりはミドルブロックを作ってブロック内に入ってくるボールを引っ掛ける意図の方が強く、浦和はボールを前に運ぶことにそこまで苦労はしていなかった。

FC東京がハメにくる時はWGをCBにぶつけて、SBに対してSBが前にスライドしてボールハントする『縦スライド』を行ってきた。33:55ではRCBのショルツに対して俵積田が飛び出し、長友が荻原まで出ていく縦スライドでハメようとした。しかし、東京のプレスが中途半端で出足が遅く間合いを詰めきれないので、荻原は余裕を持ってプレー。伊藤と大久保のローテーションを使って、大久保がフリーになり、そこを出口に一気にボールを前へと運んだ。

33:55の浦和のビルドアップ

浦和は東京の縦スライドをあまり嫌がってはいなかった。SBが高い位置を取ってくれれば背後にスペースができるので、22:55のホイブラーテンから大畑へのパスのようにひっくり返すことができる。

また、東京のWGのプレスの角度も適切ではなく、SBの高さ調整だけでプレス回避できる場面がかなりあった。55:23では荻原が長友と俵積田の間の高さに立ち位置を取ったため、ショルツから荻原への1本のパスでラインを超えることに成功。長友が釣り出されるので、大久保とのワンツーで荻原はサイドの深い位置まで侵入することに成功した。

55:23の浦和のサイド攻略

前半は荻原の立ち位置が低過ぎてこのような場面があまり見られなかったが、後半からは徐々に高い位置を取り始めて、荻原の持つ攻撃力が輝く場面が増えていった。

62:39では左サイドで同様にホイブラーテンから大畑への1本のパスで東京の2列目を越えると、大畑からGK-CB間に流し込むようなスルーパスからチャンスを作った。

62:39の浦和の左サイドからの攻撃

この場面ではトレヴィザンが紙一重で素晴らしい対応をしたため難を凌いだが、失点に繋がっていてもおかしくない場面だった。東京は縦スライドでハメにいくのであれば、しっかりとプレスのスイッチを決めて、スイッチが入ると連動してプレスをかけてボールホルダーへ間合いを詰められるようにしておきたかった。特にSBとWGの連動はもう一度確認しておきたい。

必然的なスコアレス

スコアレスドローとなったこの試合は必然的だったと言えるのではないだろうか。決定機は前半の興梠のポストに当たったシュートと松木のポストに当たったシュートが印象的だが、それ以外の場面であまり決定機と呼べるほどのチャンスはなかったように感じた。

両チームの点が取れない原因は明確だ。オフザボールの動き、特に『背後への動き』とそれに連動する周りの選手が極端に少ないことだ。これらのプロセスをすっ飛ばして、ただクロスを入れたり、1本のタッチダウンパスでゴールを狙っても得点する確率は低くなる。

東京の有効打

例えば24:04では安部がフリーで前を向いている状態で、CFのD.オリヴェイラが偽CFのような動きでライン間へと顔を出した。この瞬間はDFがD.オリヴェイラに意識が向くので背後を取るチャンスなのだが、最前線にいた東も渡邊も背後へのアクションはなかった。D.オリヴェイラがターンしたところようやく渡邊が背後へのアクションを見せたがそれではワンテンポ遅い。

24:04

背後への動きがないとDFラインが下がらないのでコンパクトな陣形を保たれてしまい、パスをもらってシュートを打つスペースが無くなる。

この場面でD.オリヴェイラがゴリゴリとボールを前に運んだことでようやく浦和のDFラインが後退。バイタルエリアにスペースが生まれてそこに安部が入り込んでいたが俵積田のクロスは単純なゴール前へのボールで跳ね返されてしまった。

逆に決定機に繋がった場面を見てみると、サイド圧縮した東京の特徴的なボール保持からセカンドボールを拾った松木から深い位置に走り込んだ俵積田へとパスが通る。すると浦和のDfpラインが押し下げられるのでバイタルエリアにスペースが生まれて、マイナスのボールに松木がバイタルエリアに入り込んでシュートを放った。

19:39の東京の決定機

まず、サイド圧縮によってボールサイドで密集を作ることでネガティブトランジションを作りやすくなり、セカンドボールの回収率が高まる。そして、松木がセカンドボールを拾ったところから背後へのアクション→バイタルエリアを攻略という良い流れの攻撃だった。西川のスーパーセーブによって得点は生まれなかったが、決定機を作った。

後半は守備に追われる時間が長くあまり、チャンスを作れなかった東京だが、74:42では右サイドから左サイドへと展開して長友が良い位置でボールを受けた。この時にペロッチや安部が背後への動きを見せていて、GK-CB間にダイレクトでボールを流し込むことができれば面白かった場面だった。

74:42の東京の攻撃

残念ながら長友のクロスは精度を欠き、伊藤にクリアされてしまったが、ゴール前の局面で背後への動きが見られた。しかし、背後へのアクションを見せたのがボランチで先発した安部と途中出場のペロッチという点は悩ましい。

浦和の慢性的な得点力不足

浦和も東京と同様の悩みを抱えている。背後への動きが少なくノッキングを起こす場面や背後の動きがあった時に他の選手がアクションを起こせない場面が現在の得点力不足に繋がっている。

まずは12:56の興梠の決定機を見てみよう。荻原がボールを持った際に、ボランチの伊藤がポケットを取りに背後を取った。その結果、東京のDFラインが下がり、バイタルエリアにスペースが生まれる。荻原からバイタルエリアの関根へとパスが入ると、木本が慌てて飛び出して対応したため、木本の背後にスペースが生まれた。関根の絶妙なタメとスルーパスから最後は興梠のシュートという流れだった。

12:56の浦和の決定機

背後への動きとそれに連動した周りの選手の動きが生まれると浦和もチャンスを作ることができることがこの場面から伺える。

しかし、74:23の場面を見てみると、先程と同様に荻原がボールを持った際に関根がポケットを取りに動き出す。関根の動きに寺山も付いて行ったため、ライン間にスペースが生まれた。しかし、そのスペースを使う選手がおらず、荻原もゴールから離れる方向に動いた関根へとパスをしたことで、寺山にボールを奪われてしまった。

74:23の浦和の攻撃

上記の場面では背後への動きがあって周りの選手の連動がなかったが、そもそも背後への動きがなくてノッキングを起こす場面も多々あった。特に相手を押し込んだ際にその傾向は顕著に見られ、例えば86:14でショルツがドリブルで持ち上がった際に背後への動きがないために、東京のDFラインが下がらずにライン間にスペースが生まれない。従って、浦和はノッキングを起こして、ショルツからライン間にいた大久保へのパスはカットされてしまった。

浦和は70:40のようなCFのホセカンテがライン間に下りて、髙橋と大久保が背後を取ったような複数人が連動した攻撃を見せないと『個』に依存した攻撃になってしまう。

70:40の浦和の攻撃

浦和の慢性的な得点力不足は『アクションを起こす人の少なさ』と『それに呼応する周りの選手の少なさ』から来るものなので、いかにチームとして同じ絵をイメージして攻めることができるかが問われている。

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