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【4-4-2】ミラーゲームの争点

2-0
優勝争いに食い込んでいくために重要なゲームとなったセレッソ大阪対浦和レッズはホームのセレッソ大阪が前半の2発で完勝。

この試合、お互いに4-4-2(4-2-3-1)を採用したミラーゲームとなったが明暗を分けたのがライン間とSBの攻撃参加だった。

vs縦スライドの打開策

4-4-2を基本の守備陣形としているチームに対して、最終ラインを3枚にして相手の2トップに対して+1を作ってビルドアップすることは定番となっている。

そして、最終ラインが3枚になった場合に守備側のチームはSBとSHを1つずつ前にズラして枚数を合わせにいき、ハメにでる『縦スライド』だ。この試合ではセレッソも浦和も守備時は4-4-2で守ることを基本としており、縦スライドがよく見られた。

その中で、両チームともに対縦スライドとしてSBの背後というところはかなり意図的に狙っていた。

例えば、5:48の浦和の攻撃でボランチの伊藤がLSB船木の背後に動いてRSB酒井からのパスを受けた。この伊藤の動きに対してRCBの鳥海が対応したが、処理が上手くいかずに伊藤がGKヤンと1vs1を迎えた。

5:48の浦和のSBの背後を突く攻撃

GKヤンが上手く対応してピンチを逃れたが、やはり対応が難しいことは間違いない。

17:20にも似たようにセレッソの左サイドで縦スライドをしてボールホルダーのRCBショルツへと圧力を強めた。ショルツは船木の背後ではなく、鳥海の背後にいるFW興梠へのパスを選択。しかし、RCB進藤がしっかりと興梠へ寄せて自由を与えずにパスを通させなかった。

17:20の浦和の攻撃

浦和はもっとSBの背後を突く攻撃を徹底しても良かったかもしれない。

60:28ではLSHのカピシャーバが飛び出してきたタイミングでボールを前線へと送り、大久保が船木の背後のスペースで前向きで仕掛けることができた。大久保の折り返しから興梠へと渡ったこの場面、残念ながらシュートまでは持っていけなかったが浦和にとって数少ないPA内に侵入して作ったチャンスだった。

60:28の浦和の攻撃

セレッソからするとこの試合でDFラインの背後を取られる場面はほとんどなかったのではないだろうか。DFラインを適度な位置まで上げて、ライン間を圧縮。コンパクトな守備陣形を保ち、浦和の2列目には自由を与えなかった。

一方で、セレッソも同様にSBの背後は常に意識していた。しかし、下の図のように浦和の両CBの対応が厳しく、2トップの加藤やレオセアラが背後に抜けてボールを受けた時に、ボールキープできた場面はあまり多くなかった。

54:33のセレッソの攻撃

しかしながら、浦和陣内深い位置にボールを送り込んだことで、浦和のクリアボールを拾って二次攻撃に繋げることはよくできていた。特に中盤の喜田と香川はセカンドボールを拾って味方へと繋げるプレーがかなり効いていた。相手陣内でボールを回収して押し込むことができると、セレッソの両翼であるクルークスとカピシャーバの個が活きてくる。仮にSBの背後にボールを送って1stコンタクトでキープできなくても、クリアボールを拾って二次攻撃に繋げることができていたので、SBの背後を突く攻撃は有効だったと言える。

ライン間は危険なエリア

現代サッカーにおいてライン間の攻略は得点を奪う際に重要な要素の1つとなっている。

『ボックス』攻略

両チームともに4-4-2を守備時に採用していたため、ライン間の中でも特にSH、ボランチ、CB、SBの間の四角形のスペース『ボックス』の攻略が攻撃のカギを握った。

黄色いエリアがボックス

セレッソは回数こそは多くないものの、ボックスを起点に良い攻撃を見せていた。40:54でらLSBの船木からボックスに下りてきたFWレオセアラが縦パスを受ける。当然この縦パスに対して浦和は厳しく寄せるのだが、ダイレクトでレオセアラからカピシャーバへとパスが出て、状況打開。カピシャーバはサイドの深い位置に侵入してクロスを上げたが、間一髪のところでホイブラーテンがクリア。セレッソは上手く縦パスからスピードアップしてゴールに迫った。

40:54のセレッソのボックスを使った攻撃

浦和の方がセレッソよりもライン間を使う意識が高く、何度もライン間から攻め立てようと試みていた。

前半開始直後の1:28では上手くセレッソの4-4-2のラインの間に立ち位置を取ってビルドアップ。2トップの背後を取った伊藤からボックスにポジショニングしていた大久保へと縦パスが入り、一気に相手陣内へとボールを運んだ。

1:28の浦和の攻撃

今思えばこのビルドアップがこの試合で1番綺麗にボールを運べた局面だったかもしれない。

"危険なエリア"

この試合の勝敗を分けた要素は様々あると思うが、大きな要素としてライン間でのボールロストが大きく影響したように感じた。先程も言ったようにセレッソは回数こそは多くないものの、ライン間にボールが入った時のボールロストの回数も少なかったはずだ。一方で浦和はライン間でボールロストを繰り返した。

ライン間は攻撃の時に守備側にとって危険なエリアになる。しかし、攻撃側にとっても相手の守備者が多く、警戒を高めているエリアになるためボールロストする可能性が高い"危険なエリア"になる。

例えば、20:38のボランチの岩尾がボールを運んでライン間のボックスにいたSH大久保へとパスを通した。しかし、大久保の1stタッチが跳ねてしまい、手に当たりハンドに。ボックスのような狭いエリアでは相手からのプレッシャーが360°からかけられると同時に高い技術力が求められる。

20:38の大久保のハンド

34:28も同様にLSBの荻原からボックスにいるLSH関根へとパスが入る。しかし、関根のコントロールは大きくなり、喜田へとボールが流れて逆にセレッソのカウンターへと繋がった。

34:28の関根のコントロールミス

ライン間という"危険なエリア"でミスをすればカウンターに繋がってしまうので、丁寧なプレーが必要だが、この試合の浦和の前線は"危険なエリア"でプレーするのクオリティーが伴っていなかった。

50:50でら20:38のと同様にボランチの安居がセレッソの2トップの間をドリブルで割って侵入。ボランチの香川が飛び出してライン間にスペースができたタイミングで縦パスを入れて、ライン間の関根が反転。反転までは良かったが、背後へのアクションを見せていた興梠や早川へはパスが出ずLCB鳥海にパスカットされてしまい、チャンスを棒に振った。

50:50の浦和の攻撃

浦和にとって流れの中でこの試合の最大決定機は皮肉にもライン間を使った攻撃から生まれた。右サイドで大久保が2人を惹きつけてライン間にいた関根へと横パス。関根の見事な1stタッチからシュートを放ち、こぼれ球を早川がハーフボレーでゴールを狙った。

57:59

浦和はライン間を使う意識は高かったが、プレーのクオリティーが低く、なかなかゴールまで迫れない展開だった。連戦の中で疲労もあったことを考慮しなければいけないが、残念ながら技術的なミスが多かったことは否めない。

また、セレッソの組織的な守備による強固な守りも強調する必要があるだろう。特に中盤の香川と喜田はライン間に入ってくるボールに対して厳しくチェックすることができていた。また、全体として4-4-2をコンパクトに保ち、ブロックの内側に入ってくるボールに対しては人数をかけて対応することができていた。浦和にほとんどチャンスを作らせなかった守備組織は評価できるだろう。

SBの攻撃参加の収支

両チームともに4-4-2を採用していたが、攻撃時の陣形は大きく異なる。セレッソはRSBの毎熊が高い位置を取り、LSBの船木は最終ラインの留まるか、もしくはボランチの隣でLSHカピシャーバの後方サポートをすることが多かった。

一方で浦和は両SBが積極的に高い位置を取り攻撃参加。特にRSBの酒井は時にはFWのような立ち位置で相手のCBマッチアップすることもある。そして、この試合で問われたのは両SBが攻撃参加した際の収支だ。

13:46ではスローインを受けたRCBのショルツがドリブルで運んだが、判断が遅れてサイドチェンジのパスを喜田にぶつける格好となり、そこからセレッソのカウンターがスタート。最終的に毎熊の決定機へと繋がった。

13:46の浦和のボールロスト

そして、24:04の浦和のボールロストからセレッソの2点目が決まる。この場面も同様に浦和の両SBは高い位置を取っており、ボールを失った瞬間には浦和の最終ラインで2vs3となっていた。興梠のボールの失い方も良くなく、鳥海からクルークスへとボールが渡り、クルークスの芸術的なゴールへと繋がった。

24:04の浦和のボールロスト

このセレッソのカウンター時には荻原はなんとかプレスバックして戻ってきたが、後手を踏んだ対応となり、クルークスの切り返しに付いていけなかった。また、この場面で岩尾と伊藤のダブルボランチが両SBが高い位置を取っているにも関わらずバランスを取ってリスク管理することができていないことも気になった。

セレッソはボール保持から浦和の守備組織を攻略することはあまり上手くいってなかったものの、カウンターから何度も良い形を作った。そして2点目もライン間をしっかりと閉じたところから素早く前線にボールを供給して得点に繋げた。

セレッソの2点目以降も浦和の両SBの攻撃参加によって空いたスペースをセレッソがカウンターの糸口にするケースが見受けられた。35:32では右サイドで酒井がアンダーラップ、LSBの荻原も高い位置を取っており、伊藤が大久保への縦パスを船木に引っ掛けたところからセレッソのカウンターに発展した。

35:32

この場面では荻原がギリギリ戻って対応したが、失点してもおかしくはなかった。浦和はこのように両SBが攻撃参加するものの、奪われ方も悪いので逆に隙を与える形となっている。

浦和の2列目はドリブルで1枚剥がせる選手がいないので、どうしてもサポートが必要になる。サイド攻略を試みた時にSHとSBの2枚で対応してくる相手に対して、SH、SBに加えて+1が必要なのが浦和の現状だ。そのため、SBの攻撃参加が不可欠であり、伊藤の前に飛び出す運動量とダイナミズムで+1を作れている右サイドからはチャンスが作りやすくなっている。一方でサイドに人数をかけることでゴール前の人数が手薄になる弊害があり、それを補うための両SBの攻撃参加だったりするわけだが、カウンターを受けるリスクも伴ってくる。

湘南戦あたりからボール保持時には両SBが積極的に高い位置を取っている浦和だが、両SBの攻撃参加による収支はマイナスのような気がしなくもない。確かにJ屈指のCBを誇る浦和は他のチームに比べ、リスクを多く取れるのかもしれない。しかし、決してバランスが破綻して良いわけではないので、両SBが上がる分のリスク管理をどうするのか問われたゲームとなった。

セレッソとしてはカウンター時には両SHが前に飛び出して、浦和のSBが空けたスペースをカウンターの起点にすることが狙いを持ってできていた。また、セレッソはしっかりと攻撃を完結させる場面が多く、変な失い方からカウンターという場面がほとんどなかったことも徹底されていると感じた。SHのクルークスとカピシャーバは1vs1で質的優位を出せる魅力的な選手で、この試合でも攻撃を牽引。攻撃だけでなく、守備時にはしっかりと陣形に入って守っていたのが印象的だった。

おまけ

セレッソの両CBは日本人CBが苦手としている『運ぶ』や『縦パスを入れる』という部分で非常に上手でビルドアップ力が高い良いCBだと感じた。

10:26の進藤の運び

ちなみにこの場面では関根が進藤へプレスに出ていき、荻原が縦スライドする対応がベストだった。

48:30の大久保の判断ミス。数的不利な状態で仕掛けてしまったこの場面。定石はバックパス。クロスを入れてみても面白かったかも。この試合は前線の動きと出し手がことごとく噛み合わなかった。

48:30

しかし、皮肉にもPKを獲得したのも74:51に大久保が右サイドで起点を作ったところから。この試合で唯一PAのポケットを攻略できた場面。ホイブラーテンの対角へのロングボールは見事。

74:51

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