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伝統の新しい形vol.3 葛で布を織る〜文化とモノの価値を問う〜

シェア街のdentou庵によるトークイベント3回目を5月29日(土)に開催しました。

そして実は、活動名を「けにはれ」に変更しました。
理由は、グループ名が長すぎるからです(笑)。

けにはれは「褻に晴れ」とも書き、日常の中に非日常をという意味になります。普段の日常で、意識して関わらないとなかなか触れることのない伝統の世界を、より日常に感じられるような機会を作っていきたいという思いを込めて団体名にしました。

さて、話が反れました。本トークイベントは、静岡県の伝統工芸『葛布』についてと、モノがありふれていて使い捨てや大量生産が当たり前の現代社会から、文化やモノに対する価値の捉え方を、登壇者と参加者共が様々な角度で考えていくイベントになりました。

2021年5月29日(土)19:30~21:00 Zoomで開催しました。
参加者は28名(撮影掲載許可をいただいております)。

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登壇していただいたのは静岡県の伝統工芸「葛布」の制作方法に習い、北海道の札幌で葛布の帯地を織られている渡邊志乃さんです。オンラインでも葛の糸の取り方などを学べる場の提供を行っています。

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Webサイト「葛布の帯」

タイムスケジュール
19:30~ 挨拶と概要説明
19:40~ アイスブレイク
19:45~ ゲスト活動紹介&インタビュー
20:20~ 参加者含めトーク
20:20~ 告知お知らせ等(世間話)
21:00   終了・解散

【参加者への質問】

質問1:どこから参加していますか?
市川市 /長野 / 愛知です! / 神奈川県川崎市から / 群馬県館林市 / よこはまです / 東京です / 東京都板橋区です〜 / 東京です! / 東京都北区です! / 東京都台東区です / 千葉県柏市です! / 横浜です / 静岡県富士宮市です!富士山今日も綺麗ですよー / 東京 /柏市塚崎

質問2:葛布って知ってる? はいorいいえ
はい→2名
いいえ→8名

質問3:普段着物を着る/着たことがある
はい→5人
いいえ→3人
着てみたい→1人
着付け有資格者→1人

質問4:モノを買うときに意識することは?
クオリティ/作り手と材料/デザイン/ぴんとくるかどうか/適正価格/固有性/作り手と価格/直観/

【葛布ができるまで】

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●葛の繊維の取り方
・群生している葛から適したつるを取り出す
・リース状にまとめて主にススキの室の中で発酵させる
・タイミングを見て室から取り出し、川で洗う
・洗った繊維を草の上などで天日干しすると白くなる

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写真:川で洗った後に天日干しして白くなった葛の繊維

主催者質問:川原に生えてる長いつるは葛?
渡邊さん:たぶん葛かも

参加者質問:使う部分は皮?芯?
渡邊さん:皮と芯の間の「靭皮組織」という部分を使う。

参加者質問:お菓子の葛切りも葛?
渡邊さん:葛の根の葛粉から。ゴマ豆腐も葛粉からできているものもある。

その他コメント
きれい/キレイ/あのやっかいものの葛がこんなにきれいになるなんて/外来種じゃなかった!/葛餅のイメージが強いです。/葛粉は高級品/万能!こんなに役立つものだとは!

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写真:繊維に沿って裂いた葛

●葛布の作り方
・取れた繊維を、繊維に沿って爪で裂く。
・裂いた繊維の端を、同じ方向に先端が向くように結ぶ(葛結び・葛布結び)⇒これは静岡県に伝統的に伝わる方法。葛の糸は繊維の光沢を活かすために撚りをかけずに、緯糸として使う。主に高貴な位の貴族や武士に好んで用いられた。また、静岡県以外の地域でも葛布は織られていて、経緯葛のものもある。撚りをかけると強靭な糸になるので野良着としても用いられていたようだ。※詳しくは産地の静岡へ!
・端を結んだものを、織る時に撚りがかからないようにまとめる(静岡では葛ツグリと呼ぶ)。光沢を活かすための手法1
・杼(ひ)に入れ、織っていく(織る時は水で濡らす)。
・すくい織りで織っていく。緯糸を竹筬で打ち込むとき直角ではなく斜めから打ち込む。光沢を活かすための手法2

●出来上がる葛布の帯地
・八寸帯地
・六寸帯地
・半幅帯地
・角帯地

参加者質問:帯の生地色は何で染めてる?
渡邊さん:大体家の周辺の植物(5、6種類)。自生植物で難しい色は購入した染料から。

参加者質問:葛布は「葛」でしか作れない?他の植物と何が違う?
渡邊さん:葛で作られた布が葛布で、独特の光沢があることと、撚りをかけず織るので軽いのが特徴。

その他コメント
静岡県民ですが知らなかったです〜/光沢がポイントなのかな?/色合いと光沢がとても綺麗ですね/メディア、テキストの本質に触れた気がします/共感します/歴史の重みや非日常を感じる織物.. 気になります👀/なかなか深いテーマ/やっかいものの葛がこんな風に生まれ変わるのすごい

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写真:織り上がった八寸帯地

【葛布を通して伝えたいこと】

textとtextileの語源は同じ≪texere(織る)≫。布は言葉そのもの、メディアであり、情報を運ぶ手段であった”「布のちから 江戸から現在へ」(田中優子著)より”ということに考えさせられ、渡邊さんが葛布の帯地を制作する上で指針とした事。

1.布の文化、布の価値を捉え直し 豊かな暮らしに貢献する
布というものは本来大変高価なものであり、手生産・機械生産に関わらず、使われる自然のエネルギーの総量は同じであるということ。故に、現在市場に出回る布がいくら安かろうと、決して短期的に消費していいものではない。

大量生産・大量消費で短期的に消費されていく数多くの布達が存在する中で、資源の浪費や経済・商業システムについて、また布の在り方・布文化や価値の捉え方などを制作を通して伝えていきたい。そして個人が、自然環境や経済、私生活とのバランスを上手く取りながら、自分達を豊かにする暮らしについて考えていけるようなきっかけを提供していきたい。

2.長く愛着を持って使っていただける 価値のあるものを提供する
何千もしくは1万年以上前から受け継がれてきた織り物の技術があり、それが今まで続いてきたというロマンがある。布は『普遍的なものを伝え繋ぐ手段としての存在』であり、現代において布を織る技術を受け継ぐということは、それら長年にわたって受け継がれてきた情報を伝え継ぐこと。

また、布に触れることは自然に触れる機会であり、ふと我に返る瞬間、思い出の心象風景や懐かしさや心の落ち着きなどの、非日常的な場面を創出する機会である。つまり布は『時と場によって変わる「今、必要なもの」を届けるメッセンジャーとしての役割』。そんな布の制作を通して、日常から少し離れて自分を俯瞰できるような機会が提供できればという思いを込めて、葛布の帯地を織っている。

織機

写真:工房の織機

織機

写真:織っている葛布(背景が透けるほど薄い)

【質疑応答】

主催者質問:普段着物着てると答えた人は「非日常感」感じる?
参加者回答:着物はユニフォーム(落語の)。価値を考えたことはなかったけどずっと好きで着ていた。実際自分で着てみてカッコいいと(感覚で)感じた。
参加者回答:和文化講座のユニフォーム、戦闘着感覚で着ている。着物を着ることに慣れると洋服を着ることに違和感。

参加者質問:葛布は洋装には向かないのですか?
渡邊さん:張りの方向があったり、織りが粗かったり、光沢もあったりで和装には向いているけど、洋装として扱うのは難しい(札幌の葛で作った場合)。静岡の大井川葛布で、以前洋服にも仕立てられていたのを見たことがある。

参加者質問:(葛布の)ストールはありますか?
渡邊さん:大井川葛布ではストールも織っている。自分は帯地に特化して行こうと決めているので織らない。
参加者コメント:ブローチは既にあるみたい。小物からライトには入れたらいいな…。
参加者コメント:地域学習として作るとかおもしろいだろうなぁ

参加者質問:葛と麻の(布としての)違いは何でしょうか?
渡邊さん:繊維の取り方や布の製法でも、布としての性質が異なってくるので、違いを一概に説明するのは難しい。

参加者質問:ヨガマットとかいけますか?
渡邊さん:葛布は軽く薄いので、ヨガマットには不適当。

参加者質問:洋服作るのに葛の繊維を柔らかくする方法はないですか?
渡邊さん:出来上がった後に繊維を柔らかくする工程(砧打ち)はある。

参加者質問:首都圏では、どこに行ったら葛布をリアルで見れるでしょうか?
渡邊さん:着物地としては呉服店など(市場流通は少ない)。日本民芸館の壁紙が葛布。首都圏じゃないけど、静岡の掛川市、島田市では現物がたくさん見れる。
主催者:上野と浅草の間に「東京松屋」という襖紙メーカーがあり、ショールームの見本帳の中に葛布もある。

参加者質問:布作り、自然布(葛布)づくりに踏み込んだきっかけ、実際の出来事を教えてください。
渡邊さん:20代後半モノづくりに関心が強かった時期、たまたま訪れた鎌倉の手織り店で、手織りの存在と魅力に惹かれ、織りを習い始める。制作するうちに糸への拘りから、糸そのものが手で作れることを知り、札幌の自分の身の回りの植物から材料を探し「葛」と出会った。

最初は独学で試行錯誤を繰り返したが上手くいかずに、静岡に足を運ぶ。取れた繊維で「帯を織ってみたら」と言われたことがずっと頭の中にあり、服地のような小物や装飾品ではない本当に生活に必要なものを作りたいという思いも合わさり、帯地にたどり着いた。帯を織りたくて着付けや和裁を習った。
詳細な経緯はこちらの記事より

主催者質問:なぜ着物そのものではなく帯?
渡邊さん:着尺を織るのは糸の選び方や織り方が変わってくるし時間もかかるので自分にはできないと思った。なので、帯に限定して制作することにした。

帯だけでもとても奥が深い。帯についての知識を深めて制作・販売に繋げていきたい。

参加者コメント:一本こそかっこいいですね
参加者コメント:気風がいい
参加者コメント:布は情報、エシカルな視点、凄く共感しました

参加者質問:歴史背景、環境付加、手作りの魅力などを広める、伝えるために取り組んでいることはありますか?
渡邊さん:各種SNSや、音声配信もはじめた。声だと喋りながら自分でも考えられて面白い。配信で広がることはあまりないけど、元々知っている方やSNSから来てくれた方から共感や親近感を持っていただくことも多く、札幌で4日間開催した個展でも、音声配信で制作背景や思いを聞いていただき少しずつでも深く知ってもらえてる感覚がある。

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参加者質問:今後現物展示などのご予定はありますか?
渡邊さん:2年に一度展示会を開催しているけど、間隔が広いので家の近所で定期的に見てもらえる機会を作れないか考えたい。
参加者コメント:光沢もみたいし、さわってみたいです。

主催者質問:葛布の講座みたいなことは他県でやったりしますか?
渡邊さん:札幌でも他県でもやらない。葛採りのタイミングなどが時期や天気によっても違うし、制作との両立がなかなか難しい。代わりにオンラインの非公開グループで学べる場を提供している。

参加者質問:葛は年中採れますか?
渡邊さん:葛布にする繊維を採るためにはその年に生えた青いつるを採らなくてはならないので、北海道で6月末~8月頭ぐらい。花芽がつく頃には繊維が固くなる木質化が始まり、繊維の光沢も少なくなってしまう。本州では4月ごろ採れたと聞いたけど、梅雨に入ると雨が続き採れないらしいので、8月中あたりまで。
主催者コメント:たけのこと一緒ですね(旬は若いうちに)

主催者質問:年によって出来栄えは違いますか?
渡邊さん:違います。葛も、葉の形が違う、つるの色が違う、毛の生え方が違うなどあり、それごとに繊維の状態も微妙に違うので毎年記録を付けている。

主催者質問:葛布を織っている時はどんなこと考えながら作業していますか?
渡邊さん:葛採りや川での洗い作業は、色々な考えが頭をぐるぐる回っているので、それをブログや音声配信に載せたりしている。織をしているときは神経を使うのであまり多くは考えていない。手が勝手に動いているような不思議な感覚。

主催者質問:葛の根っこの部分は使わないのですか?
渡邊さん:根は使わない。採っても増えて困ってるという話を皆さんからよく聞くので、根っこも採ってくず粉にできたら地域の一大産業になっていいのに。
参加者コメント:葛の根っこは漢方ですね。

参加者質問:年間の作業スケジュールとかってあるんですか?
渡邊さん:あります。葛採る時期、染料採る時期などがあるけど、糸づくりと織は年中。

参加者質問:葛の匂いってどのような感じですか?また作られた葛布には独特の匂いはありますか?
渡邊さん:つるや葉っぱはあまり匂わないけど、花は甘い匂いがする。花を乾燥させるとお茶になり二日酔いに効くらしい。紫色の花は、酢の物にしてちらし寿司に入れたりもするらしい。葛布も、花の匂いと似ているようなちょっと甘いような独特の匂いはある。
参加者コメント:花のほうは折るとほのかにピーナッツバターの香りがしますよ。

【終わりに】

普段何気なく服を着ているけれど、誰がどこでどのような思いで作っているのかを知る機会はなかなかない。渡邊さんの話を聞いて、私達が普段着ている服、布にはどんな情報が乗り、それを自分はどこに運び伝えるのか。そんなことを思いながら、これから選ぶ布達がどんなに安かろうと、いただいている自然の命の重みに感謝しなければという気持ちになりました。

日常にありふれている様々なモノが、使い、捨て行くモノではなく、素材や作り手の時間そして思い、それ以前に壮大な自然の一部であることを念頭に、皆がモノに対する価値を改めて考え、選選択し、自分の生活に豊かさとして迎えるきっかけとなってくれるような、とても素敵なイベントになりました。

改めまして、登壇していただいた渡邊さん、参加していただいた皆様、本当にありがとうございました。

dentou庵、シェア街の参考リンクは以下より
《dentou庵》
●facebook
https://www.facebook.com/dentouan
●note
https://note.com/sharemachi/n/n3577a1b60778
●第1回トークイベントまとめ
https://note.com/gunmalover/n/n49f4f491e05d
●第2回トークイベントまとめ
https://note.com/gunmalover/n/n2f6a6d7559b1


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