ぐん税ニュースレター vol.45 page03 -社会保険労務士の部屋から-
さわやかな5月の陽気が続いています。
労働保険事務組合をかかえる社会保険労務士にとっての繁忙期は、年度替わりの労働保険年度更新から始まり、算定や夏の賞与届の終わる7月末ごろまで続きます。ということで、現在は年度更新の真っ只中で、お客様から預かった令和5年度の給与や元請工事のデータを精査して申告データを作成しています。
ところで、労働保険といってもピンと来ない方が結構いらっしゃいます。「給与計算に出てこない労働保険料とは何なのか?」と聞かれることもよくあります。
労働保険とは、
・労働者災害補償保険(一般に「労災保険」といいます)と雇用保険を総称した言葉であり、保険給付は両保険制度で別個に行われていますが、保険料の徴収については、両保険は「労働保険」として一体のものとして取り扱っています。
・ 事業主は、労働者を一人でも雇っていれば労働保険に加入し、労働保険料を納付する必要があります。
※法人の役員、同居の親族等は、原則として対象となりません。
雇用保険料は、労働者の給与から一部控除しますが、労災保険料は全額会社負担です。
また、保険料の確定、納付については、次の通りです。
・労働保険料は、年度当初に概算で申告・納付し、翌年度の当初に確定申告のうえ精算することになっており、事業主は、前年度の確定保険料と当年度の概算保険料を併せて申告・納付する必要があります。
・これを「年度更新」といい、原則として例年6月1日から7月10日まで(注・今年度は6月3日(月)から)の間に、労働基準監督署、都道府県労働局及び金融機関で手続を行うことになります。
つまり、社会保険のように、毎月納入通知に基づいて納付するのではなく、毎年、前年度の保険料を計算し、そこから算出した当年度の年間概算保険料を1回または3回に分けて納付します。
また、労働保険の加入についても、「個別加入」と「事務組合委託」とがあり、申告や納付の時期にも若干違いがあります。労働保険事務組合の委託になっている事業所ですと、保険料の計算や納付については事務組合にお任せで、あまり意識していない場合もあるでしょう。保険料率についてはもちろん、雇用保険の適用の範囲なども、社会保険との違いも含めて、ぜひ再確認してみてください。
資格取得手続きが漏れていたために、退職時に「離職票がほしい」と言われて、慌てて遡及して取得、などという話も珍しくはありません。適用の目安は、週所定労働時間が20時間以上、ということです。雇用保険の給付には、失業時はもちろんのこと、育児・介護休業取得時や、60歳到達後に賃金が下がった時に受給できるものもあります。保険料負担は大きくはないのに、その恩恵を実感できる制度です。
また、事務組合委託の事業所のみのメリットとして「中小事業主の特別加入」という制度があります。上で引用した通り、本来は労災の対象とはならない中小事業主も、特別に加入の申請をし(ここが重要!)、保険料を納めることで労災保険の適用になることができます。特に中小事業主の場合、社長とは言っても、現場で労働者同様またはそれ以上に業務に従事していて、業務に起因する傷病のリスクを負っていることが多いのが現状です。いざという時には混乱してしまいがちですが、業務上のけがの場合には健康保険は使えず、医療費が自己負担となってしまうことにも注意が必要です。大きなけがで医療費がかさんだり、休業中の役員報酬を支給できない状態の時に、労災の給付の手続きをし、「特別加入していてよかった」(コマーシャルのようですが)と他人事ながらほっとしたことが今まで何件もありました。
労働保険は、労働者、事業主、会社を守ってくれる国の制度です。労働保険年度更新の申告前に、適用状況を一度見直してみましょう。
社会保険労務士 高橋
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