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仕事を辞めて3日後のハナシ。


心にぽっかり穴が開いた。


などというありきたりな表現はしたくないのだけど、

「そう言う」方が話が早い場合も往々にしてあるわけで、でも私はもう話を早く済ませたいほど忙しくもないのだけど、物事を正確に伝えるには耳馴染みのあるポピュラーな言葉が相応しい場合もあるわけで、うだうだ言ってみたものの、ようするに便利なので使います。心にぽっかり穴が開きました。

寂しいっちゃ寂しいし、悲しいっちゃ悲しいし、嬉しいっちゃ嬉しいし、幸せっちゃ幸せなのですが、この気持ちはなんなのだろう。

わかることはただ「消えていく」という事実だけ。こういう、胸がざわざわする感じの気持ちは必ず消えていく。

慣れないから胸がざわざわしているわけで、希少だから混乱するわけで、だって日常生活で多く訪れる感情ーー少しの喜びとか、少しの怒りとか、少しの悲しみーーなら、こんなにざわざわしないんだもの。レアなのだ。レアキャラなのだ。だから私はこのレアキャラをぐっと抑えつけて、もうちょっと、もうちょっとだけ、と必死に引き留めながら、今これを書いています。書かないと。せっかくのレアキャラだから。



眠って、起きて、食事をして、スマートフォンで人と繋がる。

言葉を交換するし、声を交換するし、表情を交換することもある。その総てーーつまり会うということーーをやる時もある。昨日とか。不思議なもので、大切な人に会えば会うほど「ざわざわ」は大きくなる。帰りたくない、と素直に思う。一人になるとまたあいつがやってくる。嬉しいのか悲しいのかよくわからない、涙がどばどば溢れ出すのです。不思議なもので。事もあろうか私はこういうレアキャラにはてんで弱く、頭を侵食する「混乱」のせいで疲れていても眠れなくなっちゃうし、観たい映画も読みたい本も目の前を通りすぎていくだけの物体としか認識できなくなる。だからただぼうっと煙草を吸っている。喉が腫れるまで。


どうしたものかと思いながらも、間違いなく賞味期限付きの感情と、向き合うことにした。いずれ去ってしまうのなら、悲しくても嬉しくても何リットル泣いても一緒に居よう。私は優しい男みたいな振りをして、こいつに寄り添うことにした。


映画も本も食べ物も駄目なのだけど、音楽だけは別物だ。私は音楽に育ててもらったようなもんだ。あと、お父さんとお母さんとおじいちゃんとおばあちゃん。こういう時の音楽っていうのは素晴らしいタイミングを狙ってくれるもので、今の私に必要なものが勝手にやってくる。今回は星野源のsamethingだった。

It doesn’t matter to me whether
it’s all rain or full of sunshine You piss me off, I love you a lot
To me, they both mean the sameI meet
really cruel guys and sweet angels too, like all of the time
And they’re always around, they’re all crazy too,I hope you know what I mean

僕の中では 酷い雨の日も暖かい晴れの日も
クソ喰らえと愛してるが同じ意味になる
最悪の神も優しい天使も いつの日も側にある
狂ってる
言ってる意味わかる?


私、ずっと前からこの曲は知ってた。
でもよくわかってなかった。

だって「酷い雨の日も暖かい晴れの日も同じ」って、そんなわけないだろう。酷い雨の日はだるいよ。暖かい晴れの日は嬉しいよ。同じなわけないだろう。
私はそう思っていた。

でも次の歌詞を見てみると、

I just thought it’d be fun
Went through a whole lot so fuck this
They all mean the same thing, 
you know We alright, change it up, do your thing

「楽しそう」って思うのも
「最悪だ」って落ち込むのも
どっちも同じことなんだ
それで大丈夫 それでいい


ああ、これは今の私だ、とバチバチにキてしまった。心にバチバチくる感じ。これこれ、まさにこれ、と電流が心臓を刺激する感じ。

「They all mean the same thing」は「どっちも同じ」とも訳せるけれど、「同じ線の上で起きていること」と解釈する方がわかりやすい。

喜びか悲しみかわからない感情が、体中をぐるぐると巡っているものの、それは同じことだから「大丈夫、それでいい」。私はこれを聴いてまたどばどば泣いた。なぜなのかはわからないけれど。

退職届を書いて、出して、お別れを告げたのは他のだれでもない私なのに、体や心はそれなりに不安だったらしい。慣れ親しんだ職場から一人で飛び出して、でも今までの場所は今まで通りの呼吸を続ける。これまで関わってきた人達は変わらずそこに居る。私を除いて。それが少し寂しかったのかもしれないし、心細かったのかもしれない。温かく送り出されれば出されるほど。新しい道を応援されればされるほど。数えきれない思い出が溢れれば溢れるほど。あの場所で出会った大切な人を想えば、想うほど。

でもそれでいい。大丈夫。感情が行ったり来たりして、せわしなく泣いたり笑ったりして、それでいいからこのままいこう。そう思って泣いた。


曲はゆるやかに続いていく。

Wabi sabi
Make it messy
侘び寂び
めちゃくちゃにしよう


「わびさび」は「貧相・不足の中に充足を見出そうとする意識」らしい。調べてみると、「奥深いものや豊かなものがおのずと感じられる美しさ」とも書かれていた。

奥深いものや豊かなもの、を感じ取って、私の体はぶるぶる震えて、混乱した。でもそれは美しいことだ。負でも正でも、なにかを感じて、感情を芽生えさせるのは素晴らしいことだ。

Make it messy,めちゃくちゃにしよう。

ネガティブもポジティブも同じこと。苦しいも楽しいも同じこと。

どちらも美しい。だからごちゃまぜにして、生きていこーぜ。

という勝手な解釈をしてみました。

6月22日。仕事を辞めて、3日目の夕方。


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