マガジンのカバー画像

思想(哲学と宗教)

182
価値観の学問そのものといって良い哲学、価値観そのものといってよい宗教を勉強する事で「価値観とは何か?」に迫りたいと思っています。
運営しているクリエイター

#現象学

なぜ哲学を勉強しているのですか?

■他者:なぜ哲学を勉強しているのですか? ■自分:自分は、どう生きるべきか、どう生きるべきでないか?根本的に考えた上で生きたい=行動したいからです。 ■他者:その答えは出たのですか?あるいは出そうですか? ■自分:出ました。 ■他者:答えは? ■自分:「答えはありません」というのが答えです。 ■他者:それでは、哲学の勉強は無駄でしたね。 ■自分:無駄ではありません。「答えはありません」という答えが出たので、とてもスッキリしています。 ■自分:もうちょっと詳しく

すべては欲望から始まる『新・哲学入門』竹田青嗣著 読了

<概要>と著者が最終章で述べた内容が本書の趣旨。 著者の大作『欲望論』の概要版として、「欲望論」を「新・哲学」という名に置き換えて出版された新書(「入門」とはいえ、それなりの哲学的素養必要)。 <コメント>竹田青嗣の最新作読了。人によって「哲学とは何か?」が違って当然だと思いますが、そして哲学とは、任意の前提(神、教義、神話、聖人、ウヨク、サヨク等の個別の共同的価値観=イデオロギー)をおかずに理性でもってこの世界を説明する学問のことだと一般に言われていますが、竹田哲学は現

植物に世界はどう見えるか「植物の環世界」

「生物に世界はどう見えるか」、今回は個別の生物種についての具体的な環世界の紹介。 まずは「植物の環世界」。 ■「個体」という概念に当てはまらないのが植物植物は単細胞生物と多細胞生物と個体と群体の区分が曖昧な生き物。くっついたり離れたり、という現象が、細胞単位でも個体単位でも頻繁に起こるといいます。 毎年、我々が花見するソメイヨシノという桜は、全て同じ遺伝子。接木という昔ながらの「クローン」の手法で増やしていった樹木なので、みんな同じ遺伝子ということ。 一方で、林や森を

<普遍性>をつくる哲学:岩内章太郎著 書評

<概要>現在進行形の哲学(構築主義や新しい実在論など)をわかりやすく解説した上で、これらを乗り越える最も最先端かつ説得力のある哲学「普遍性をつくる哲学=現象学」を紹介した2021年6月出版の新作。 具体的には、哲学の目的を「暴力による社会から、話し合いによる社会への転換」と位置付け、善の原始契約に基づき、現象学的言語ゲームを展開することによって「話し合いによる社会」は可能と提言。 話し合いによる社会によって自由な社会は維持されるという前提のもとで「関係性の充足」や「ソロ充

民主主義の正当性とはー西研著「哲学は対話する」より

本書では「近代市民社会の原理(※)」が現時点で最も優れた政治思想だということが、前回説明した正義の「本質観取」によって結論づけられています。 ※近代市民社会の原理=著者の表現では近代的正義(民主主義の原理)。どんな人間でも人間として対等の権利を与えられて共存できるということ。しかも、その社会を自分たちの自由な責任において営むということ。万人に生産と消費の権利が保障されていること。そういう基本ルールを前提にして、互いに相手の自由を認め合うこと(竹田青嗣)。 ■本質観取に基づ

「哲学は対話する」西研著 ーサイエンスの限界を哲学が克服する

<概要> 誰にでもわかりやすいコトバで哲学の根本的意味を問いつつ、プラトン・フッサールの思想を通じて、共通了解に向けた哲学対話の具体的手法を提示した上で、分断→共存の社会の可能性を提示した画期的な大作。 <コメント> 本書には(自分にとって)特質すべき重要なテーマが満載で、かつ個人的に最も関心を寄せている「個人の虚構(=思考の枠組み)」「社会の虚構(著者は「物語」と表現)」についても言及。 とりあえず別途それは展開するとして「サイエンス」ではカバーし切れない領域、つまり価

「目的」という概念は人間的な考え方

お気に入りの番組「NHK BS」の「ヒューマニエンス」を観ていたら、 感染症の専門家武村政春さん曰く 「ウイルスや生き物は、そもそも人間のように目的を持っていない」 「目的というのは人間的な考え方」 さすがウイルス研究者ならではの発言でウマいいい方だなと早速メモ。そうです。「目的」という概念を持っているのは人間だけ。でも人間も生き物の一種という逆説。 世界像を「ファクト」と「ロジック」で生成するサイエンスの世界では、生物には「生きる目的」はないのです。したがって「な

プロボノ活動を通じた新たな世界観の構築

弁護士系の米国ドラマ「スーツ」や「グッドワイフ」「グッドファイト」などをみていると、しょっちゅう耳にするのが、弁護士が無償で弁護する「プロボノ」という社会貢献。 特にスーツでは、若い方の主役「マイク」が無償の「プロボノ」への意識が高く、「プロボノ」に特化した事務所にも積極的に参加していたのをよく思い出します。 私自身アーリーリタイア以降「自分のキャリアを活かせるような、ボランティアってないんだろうか」と探していたところ、日本にも「プロボノ活動」があったのです。 プロボノ

哲学とは何か 竹田青嗣著 −社会理論編−

「哲学とは何か」のうち普遍的な認識方法としての本質学だけが存在・認識・言語の謎を解明したとは、前回説明した通りですが、特に社会理論については、項目を立てて近代以降の歴史を俯瞰した上で、本質学に基づく社会理論を展開しています。 ◼️社会理論:「自由」と「暴力回避」を普遍原理とした共通了解の前提条件 本質学に則れば「社会理論」という「数値化できない本質の領域」は、数学のように誰もが納得できる普遍的理論は原理的に成立しないので、時代だとか地域ごとの何らかの共同体ごとに「共通了解で

哲学とは何か 竹田青嗣著 ー本質学編ー

<概要> 「本質学」を提唱する竹田青嗣先生の最新作。哲学の課題を「存在の謎」「認識の謎」「言語の謎」の3つに整理し、ニーチェとフッサールの思想をベースにして、3つの謎に対する答えを誰でもわかりやすく解説した著作。 <コメント> ◼️学問の分類=哲学とは何か そもそも学問とは全て哲学のことだったのですが、西洋が近代になってから哲学の中で数値化できる領域のみ科学と呼ぶようになりました。残った「数値化できない世界」は引き続き哲学が主に扱う学問だとしています。 整理すると以下のよ

世界があるのではなく、自分が世界を作っている(ユクスキュル)動物学編

動物学的視点でも「世界があるのではなく、自分が世界を作っている」 本書「生物から見た世界」は、ハイデガーの「気遣い」相関図式(竹田青嗣先生命名)のネタ元とも言われています。 ハイデガーの世界観は、世界は存在者の気遣いに応じて構成された実存的な世界。つまり自分の関心と欲望によって自分の世界が生成されるので、これを動物に例えれば、イルカにはイルカの、マダニにはマダニの気遣い(関心のベクトル)とその結果としての用在(道具)で構成された世界像がある、という感じ。 ユクスキュルは

世界があるのではなく、自分が世界を作っている

歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの「21Lessons」を読んであらためて思ったのは「世界があるのではなく自分が世界を作っている」ということ。 科学的思考に慣れている我々は、どうしても「モノ=この世界」ありきで何事もイメージしてしまいます。 ところが、よくよく考えてみると我々の世界像は、自分が生まれ育っていく環境(主に人間関係)の中で自分の関心や欲望に応じて世界像が形作られ大人になっていきます。大人になってからも出会いと別れの中で、SNSなども含めて自分の世界像をアップデー

欲望論 第2巻「価値」の原理論 竹田青嗣著

第1巻含む「欲望論」は私のとってのメートル原器です。 今のところこれ以上納得できる論理に出会ったことはありません。今後はすべて欲望論の考えをベースに物事を考えていきたいと思います。したがって第1巻、第2巻とも大著ですが、今後も何か考えに迷った時に必ず読み返すことになると思います。 第2巻も550ページに及ぶ大作。著者の展開する現象学の手法に基づいて真善美の価値観について論じたのが第2巻の内容。先人の知恵も拝借しながら、著者独自の論を展開。「価値観はどのように形成されるのか

現象学における最も大切なワード「間主観的確信」

所詮人間は自分の外に出ることはできないので、自分の視点から、個々の他の人がこう確信しているという確信を確信していく、これが間主観的確信で、普遍的確信につながっていくものだ。 例えば、キリスト教福音派の人々は、彼らの間で「人工中絶は悪」という間主観的確信を持っている。 阪神ファンの人たちは、阪神ファンの間で「阪神の勝利=喜び」という間主観的確信を持っている。 近代の最大の発見とも言える科学的思考に基づく仮説(例えば1+1=2など)は、この間主観的確信によって、普遍的確信と