植物に世界はどう見えるか「植物の環世界」
「生物に世界はどう見えるか」、今回は個別の生物種についての具体的な環世界の紹介。
まずは「植物の環世界」。
■「個体」という概念に当てはまらないのが植物
植物は単細胞生物と多細胞生物と個体と群体の区分が曖昧な生き物。くっついたり離れたり、という現象が、細胞単位でも個体単位でも頻繁に起こるといいます。
毎年、我々が花見するソメイヨシノという桜は、全て同じ遺伝子。接木という昔ながらの「クローン」の手法で増やしていった樹木なので、みんな同じ遺伝子ということ。
一方で、林や森を一つの樹木で完結させてしまう種もあります。竹やベンガルボダイジュ。
竹林は、実は一つの竹林は全て根っこでつながっていて、丸ごと一つの個体になっています。同じようにインドに植生するベンガルボダイジュも。
細胞単位でいえば、ボルボックスは300以上の単細胞生物が集まって群体を形成した植物。
■光合成で取り込む光の種類
植物は、人間が光として感知する電磁波=可視光線のほか、私たちには見えない紫外線や赤外線も光として感知し、光合成に活用しています。
ただし、緑色の波長の電磁波だけは光合成で利用しないので植物は「緑色に見える」というわけです(緑色だけを反射するという意味)。
植物には細胞一つ一つに動物の目の代わりとなる受容器が備わっており、電磁波の波長ごとに受容器が分かれ、電磁波の強弱や感知する時間の長さも判別しています。
ちなみに夜の時間を測っているのは、赤外線と赤色の間の波長「遠赤色光」。
受容器ごとに光合成に取り込む光を判別し、電磁波の強弱やその時間の長さで昼と夜や季節を判断することで、より効果的な光合成を志向しているのです。
■植物の感知する重力信号
一般には植物が感知する重力信号は「上下の方向性」で、空に向かって枝を伸ばしていきます。
そして
また、接触の感覚を記憶して虫を捕獲する植物もいます。ハエトリソウなどの食虫植物。
■植物の感知する化学信号
リンゴの実がいっせいに赤くなるのは、リンゴが発する化学分子「エチレン」によるもの。エチレンという老化促進物質を発していっせいに赤くなれば、鳥や獣たちに目立ちやすくなり、食べてもらって排泄物としてのタネをさまざまな場所に運んでもらえるから。
したがってリンゴと一緒に他の野菜や果物を保存するとタイヘンなことになります。エチレンによって老化現象が早まり、果物はあっという間に熟しちゃうし新鮮野菜はあっという間に腐ってしまいます。
他にも化学信号は幅広く植物に活用されていて、害虫がくると匂い(=匂い)を発して害虫の点滴を呼び寄せて自らの身を守り、食べられたら毒になるように化学物質を溜め込みます(これがアク)。
そして双葉によって育つ被子植物「双子葉類(トマトやサクラ、ヒマワリなど)」は、根から土壌に毒物を発するので、同じ作物を同じ畑で何度も作ると毒物が残存して連作障害が起きます。これは毒物を土壌に分泌することで自分達の縄張りを守っているのです(ただし連作障害で一番の理由は病原菌)。
■植物であるということはどういうことか
植物を主語にして「わたし植物は」としても、動物と違って「個体」の概念が曖昧なので、まず「私ってなに?」となってしまいます。
単細胞であったり多細胞であったり、細胞の集団であったり、一つの個体で森を形成していたり。。。私たち動物からみると、なんとも不思議な生き物です。
生物の目的「生存」と「繁殖」の2点からみると、
①光合成するために上下の方向がわかる、光の強弱・種類・長さがわかる
②生き残るために匂いを発して害虫を避ける
③繁殖するために化学物質(エチレンなど)を発する
というように、様々な情報をインプットして生存・繁殖。こうやってみると生き物はみな、
受入対象としての 「快」
拒否・回避対象としての「不快」
の二元論で志向性が決まり、生きているようにも感じます(人間も一緒)。
植物にとっての「快」は、光であり繁殖を助けてくれる「風」であり「昆虫や動物」。「不快」は、害虫であり、縄張りを荒らす他の植物。
「生物は快と不快の判別によって生存・繁殖している」
まさに哲学でいう欲望論の原理と同じです。
*写真:千葉県市川市 真間川のソメイヨシノ(2013年)
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