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『ハチロク』 (3) 第二部

『服買いに行くんですよね
  絶対 付いて行きますからね
  どうしても 行きますからね!』

  さっきから電話口でごねている

  清原から何か聞きつけたのか
  妹の美佐ちゃんが連絡してきた
  たぶん初めての事だった

「しょうがないな もうわかったから
  ちょうど車 慣らしに行こうと思ってたから
  乗っけてくよ」

  激安でワケありのカローラレビン(AE86)を
  手に入れたのはつい先週のことだった

  調布のアパートを出て
    高円寺で彼女を拾い
      新宿に向かう

「タカさん これ乗りにく~い!」
  車体補強のパイプや部材に
    頭や足をぶつけながら
  美佐ちゃんはやっとこさ乗り込んだ

「タカさん ガタガタだよ~~!」
  助手席は標準シートに戻してあるが
  ラリー仕様車の乗り心地はハードだ

「”ハチロク” って言うんですね この車」

  それでも楽しそうだ

  新宿でシャツとジャンパーを選んでもらう

  なすがままに あちこち引き回されたけど
  今日は不思議に悪い気はしなかった

「ありがとう いい服買えたし助かったよ」
  高円寺まで送って行って 車を止める

「あの・・タカさん・・」
「ん?」

「お兄ちゃんから聞いて あの・・・
  タカさん落ち込んでるって・・
  そんなの嫌だから」

  そういう事か・・
  留美と別れたって噂が広まってるって
  清原が言ってたな

    傍から見れば別れた事になるのか・・

  そうか美佐ちゃん 心配してくれたんだ

    少し視界がぼやけたみたいだけど
    久しぶりにドライブしたせいだな

「大丈夫・・・
  エンジンの調子も見たいし
  高速乗って帰るかー」

  精一杯 平気なふりをして言った

「あの・・・」
「うん?」
「あの・・私・・まだ降りない・・・」

  横目で見ると涙ぐんでいる

  こんな展開 予想してなかったよ

  でも もう考えてもしょうがなかった

「しょうがねーな じゃあ行くかっ?」

  高井戸から中央高速に乗る

  調布で降りて帰るつもりでいたが
  その先まで足を延ばした

    調布を超える頃には
     ユーミンの ”中央フリーウェイ” 
    二人で目一杯歌ってた

      また会う約束しちゃったけど
      いいのかな これで

      BGMにユーミン
      用意しとかなきゃ

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