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帝国劇場の改築について

帝国劇場が改築される。
演劇・ミュージカルファンにとって帝国劇場は「聖地」である。
1911年にこけら落とし公演がなされ、1966年に建て直しが行われて現在の姿になっている。
ホワイエは毛足が長くふかふかの赤い絨毯が敷かれ、窓にはステンドグラス、東宝を設立した小林一三氏の胸像が置かれている。
会場内は他の新しい劇場とは比較にならない重厚で独特の雰囲気を持っている。贅沢の極みといった趣である。
聖地と言われるだけあって、多くのファンはこの劇場に絶対的な信頼をおいているように見える。

ところが立場を変えてこの劇場に入ってみると、それは非常に居心地の悪い劇場であるということに気づいている方がどれくらいいるだろうか。
「やっぱり帝国劇場が一番好きです」というような声を聞くと、私の胸はざわざわする。

私は車椅子でこの劇場を利用する。古い建築構造なだけにここのバリアフリー環境は残念ながら付け焼き刃的なものである。
具体的なことは私の拙稿をお読みいただきたい。

『車椅子スペースから観る舞台』

演劇・ミュージカルファンなら今年7月に東京建物 Brillia HALLの改修計画が発表されたことはご存じと思う。
私はまだこの劇場を訪れてはいないのだが、改修計画の図面を見て大変落胆した。車椅子に座ったまま鑑賞できる「車椅子スペース」が、現行よりもはるか奥に追いやられてしまっていた。
元々この改修は「視認性が悪い」という観客の意見を反映したものと言われる。
今ここで「健常者」と「障害者」という言葉で二分するのは個人的には好ましくないとが、あえて区別して言うと、「健常者という大多数の人々の声は届く」という辛い現実に向き合わざるを得ない状況を改めて感じたのだった。

確かに劇場に行ってみると約1300~約1800の劇場キャパの中で演劇・ミュージカルを観に来ている車椅子の観客は私1人ということがざらにある。コンサートでもあと数名多いくらいだろうか。
そんなマイノリティたちの声は届かない。そして私たちマイノリティも「ここに来られるだけで有難い」という感傷に耽ってしまい、改善を求める行為は図々しいのではないかと思いこんでいて(あるいは健常者からの非難を浴びることを恐れて)、席の位置・視認性などについて伝えてこなかったのではないだろうか。
そんなマイノリティの声は小さく、数年前まで、入退場の時のみ介護者を入れることさえ許可されていなかった。

この問題については、完全に解決するまで約2年かかっている。この例をみても、健常者が障害者の状況を本当の意味で理解することがいかに難しいかがわかる。
まして建築物という、いったん出来上がったら直すのが難しいものについては尚更である。

先のBrillia HALLについては、何故障害当事者に意見を聞かなかったのだと残念な思いでいっぱいである。
日本のバリアフリー環境は、ハード・ソフトともに、法令に沿っているだけで、当事者にとって快適性や利便性が考えられていないことが多いように思う。もちろんそれは両者が話し合って合意形成を得られるべきものである。

帝国劇場については、たまたま今年の初夏に拙稿を持ってホール担当者に意見を述べさせていただいていた。その時は改修がなされる旨は知らなかったが、これが「たまたま」でなければ良いと思う。
できれば当事者にヒアリングをしていただきたい。

一般のお客様にも、ぜひ一度このような現状について知っていただければと思う。


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