映画評論 箱の中身はなんだろな? 〜誰が何と言おうと 夫婦の愛の物語 『へんげ』〜
『群盲象を撫でる』が如き映画評ですがなにか?
というコンセプトのもと始めたこの企画。
とにかく映画好きの輪の中に入りたかったのです!
今回取りあげる作品は『へんげ』。
2011年公開の邦画で、アマゾンプライムでは
『ホラー』のくくり
です。
恵子の自慰のシーンののち、
『これは、ある夫婦の愛の物語である』
という冗談のようなテロップが冒頭から流れるこの作品。
登場人物は恵子と吉明の夫婦、ほぼこの二人。外科医であった吉明は原因不明の全身性痙攣発作で苦しんでおり、仕事も辞めて引きこもり、翻訳の仕事に従事している。
そうか、冒頭のシーンは、彼女の精神的・肉体的な不満がつのっていることが示されているのか、と理解される。
吉明の後輩の勤める基幹病院への入院を勧められるが、吉明本人が入院した場合に『何をされるかわからない』と不信感を隠さないので、恵子も躊躇っている。
しかしそうこうしているうちに病状はどんどん進行し、発作時には獣のように咆哮し、手足が虫のようになってきてしまう。
苦悩したが他にやりようもないので、恵子は吉明を入院させるが、その直後から周辺地域で、意図の不明な、獣に食い殺されたかのような猟奇的殺人事件が発生。
ああ、これは・・・
というイヤな予感もさめやらないうちに、吉明は家に戻ってくる。身体には無残にも手術痕が刻まれていたが、全く快方に向かっていない吉明の様をみて、恵子は彼をニ度と病院へ戻さないことを決意する。
病院へ行って治らなければ皆さん、
どうしますか?
……ハイ、正解です! オカルトです!!
そんなこと、当たり前ですよね!?
というくらい当然の流れとして?恵子は霊能力者を連れて来るが、その霊能力者はてんで役に立たず、怯えて逃げ帰ってしまう始末。
しょうがねえなあ、と思いながら観ていると、吉明は霊能力者を追いかけて行って、食い殺してしまうではないか!
……まあ、そうだわな、と。
その場を恵子にも見られてしまうところも、まあ、そうなるわな、と。
が!!
ここからがこの映画の真骨頂!
恵子は警察へ通報するどころか、意を決した様子で吉明をそのまま家へ連れ帰る。さらには出会い系のフリをして男を家へ誘い込み、吉明のエサにするという食虫植物?的な連携プレーを開始。
吉明は病で正気を失っているので仕方がないと思うのだが、恵子は正気のはずなので、むしろ怖い苦笑
そんな生活は長く続くはずもなく、吉明の存在は明らかとなり、逃亡劇の末、警察に包囲されてしまう。
恵子の言うことは理解し従うものの、グロテスクな怪物に成り果てた吉明に向かい、警察は一斉射撃。
えっ!? 恵子ごと撃つんかい! 一瞬驚いたが、
吉明がしっかりと彼女のことを庇っている
ではないか!!
恵子を庇って撃たれまくった吉明は、彼女の胸の中で静かに息を引き取る、、、わけなく、なんと
巨大化。
警察官を蹴散らすわ、ビルを引っこ抜いて振り回すわ、電車を投げ捨てるわの大暴れ。
それならば、と今度は自衛隊の戦車に包囲され、またも一斉射撃!笑
さすがの吉明もくたばったか、、、と思いきや、さらに巨大化!!
咆哮する吉明に向かって恵子は
『行けー!!』
と叫ぶ…
という、もう、無茶苦茶な展開なわけです笑
最初はミステリー調のホラーなのかな?と思ってみていたら、口をアングリとしてしまうような怒涛の流れ。
あまりの変調ぶりに、吉明が巨大化するところからは笑いながら観てしまった。甚大な被害を出しながらのラストシーンだが、妙な爽快感に包まれたのは、私だけだろうか?
なぜなんだろう?と考えてみると、これはやはり、冒頭にあったように、夫婦の愛の物語だからではないだろうか。
パートナーがモンスターと化し、周囲から激しく非難され、受け入れられない状況に陥っても、あなたは相手を愛し抜けますか?
ということがテーマかと思うが、いくらなんでもモンスター化するというのは、突拍子もない。もう少し捻り、現実に落とし込もうとすると、
宗教、マルチ商法、政治思想などに毒されてしまい、愛する人が変質してしまった時、あなたはどうしますか?
ということなのだろうか?とも思ったが、これはそういった話ではなさそうだ。
ゾンビ・吸血鬼系の話とは異なり、吉明に襲われた人はモンスター化していない。被害者が同化していくのであれば、イデオロギーを巡る暗喩なのかとも思うが、これはもっと個人的な問題、夫婦間の問題と受け止められる。
作品中、吉明に食料である人間を供給するところ以外は、恵子は基本的には正気を保っているように描写されている。
どこがじゃ!!
というツッコミを入れられそうだが、まずは医者に見せてみよう、という態度であったり、吉明を匿うことが周囲から理解されないことも理解していたり、、とか、こんな根拠じゃ脆弱ですか?
オレも狂ってますかね?
気のせいかもしれないけれど、私には、恵子は正気を保っているように見えたのだ。
吉明の病のことを本当に心配して、どうすべきか悩み抜いているし、吉明の獣語のような咆哮も理解しようと努めているし、最後の方はその獣語で意思疎通が少々図れているようにも見える!
非常に丁寧に、献身的に吉明に寄り添っており『歪んだ愛情の暴走』だの『愛の狂気』だのという、ステレオタイプな描かれ方をしていない。
周囲から理解されず、かといって治してもらえるわけでもない。助けてもらえるわけでもない。
医者からは入院しろと高圧的に命令され、警察からは疑われ…と、孤立を深めれば深めるほど二人の絆は深まっていき、抑圧されればされるほど、不満は強まっていく。
それが最後に大爆発したわけである。
二人の純粋な、強い無償の愛が、形になったのである!!
二人を抑圧していたものは、社会規範であったのか、道徳であったのか、常識であったのか…
いずれにせよ、もろもろあっての恵子の
『行けー!!』
なので、ここだけの話、ちょっと泣きそうになってしまいましたよ、あたしゃ笑
冒頭のテロップは何かの冗談かと思ったが、
これはやはり夫婦の愛の物語だったのだ!
誰が何と言おうと、
夫婦の愛の物語だったのだ!!
こんなにも純粋で強く美しい二人の愛…
うらやましー!!
という獣語の咆哮とともに筆を置きたい。
がんばるぞぅ…
#ツイッター #Twitter #インスタグラム #インスタ #Instagram #ノンフィクション #コラム #note #生き方 #雑記 #ひとりごと #ブログ #オリジナル #ホラー #ミステリー #映画 #三角絞め #へんげ #邦画 #感想
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?