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キム・ジュレ
2022年10月1日 09:16
八月八日 次の日の朝、喧騒もないこの町は穏やかで、澄みきった潮風が俺にとったら爽風と感じる。 静寂としている中、漁師が網をこさえて船から降りている様も目に取れる。 ご機嫌な潮風は俺の背中を押す。すると、開店前なのにも関わらず、俺は裏口の扉を開けた。 以前の混んでいる様子が、ここの場所からは予測も出来ない程、店内は森閑としていた。 今日のこの街は平穏だと心身共に染み入って感じる日
2022年10月2日 08:57
八月十日 そして、いよいよ金刀比羅神社祭りの当日、初日。俺達は公園でその満ちた情熱を振り注がんと、意識を集中させる事にした。太陽が真上に昇った時、金刀比羅神社からの狼煙が上がった。その音を聞き付けて、自宅待機をしている人々が続々と家屋から出てくるのを見て、今年もこの時が来たのかと、実感させられる。そんな光景を窓から覗いていた俺は、明日の準備の余念を許さなかった。『麻利央
2022年10月2日 09:08
八月十一日 例大祭二日目の朝、外は早々に始まりの合図を上げている。 俺は今日の準備に抜かりは無い。 法被、汗を拭うタオルと魔法瓶の水筒、手の平サイズのピックケースを鞄に詰めこみ、一息ついた。 『ふぅー。後は学校にあるギターとドラムセットを持っていくだけだ』 ベッドに放っていたスマートフォンを取って、俺はある名前を画面上で探した。 渡邊 歩弓その人だ。 『あ、もしもし?歩
2022年10月2日 09:13
八月十二日 例大祭、最終日。俺は『神前結婚式 十三時より』と書かれた案内板に手を掛けて、ここから見える港を眺めていた。あまりにも潮風が気持ち良かったからか、大きく欠伸をしながら、境内で相撲大会が開かれるのを待っていると、後ろから頭を一つ叩かれた。『何欠伸してんだよ。緊張感ねぇな』そう言ったYは甚平を着て、準備万端な様子だった。それに比べて俺は、普段着で参戦だ。『逆に、な
2022年10月3日 20:49
八月二十九日 夏が過ぎ去って、外は衣替えの準備を静かに始めている。 物差しをあてがっても推し測る事が出来ないような、長いようで短かった夏休みも終止符を打った。 それを肌身で感じながら、通学路を歩いている。 いつも通っている道なのに、風景が今までとはまるで違う様に見える。 春風秋雨が通りすぎたような感覚が、俺の視界を通して、伝ってくるのだ。 そんな虚空とも似た秋の空を眺めてい
2022年10月3日 20:57
九月八日 『ねぇ、起きてよ!』耳もとからさんざめくその声に起こされて、ベッドで寝ている俺の鼓膜が破れそうな位だ。その声は俺の心情に狂おしく話しかけて、折角仕舞った胸騒ぎを駆り立ててくる。目を開けると、真っ白い靄が目の前に広がっている風は無い。ただ浮き足だった様に不安定な物が、ここ一体に広がっていた。『起きてってば!』起きてる。寧ろその声鳴る方へと目を向けたい位だ
2022年10月3日 21:15
九月十二日 じいさんが倒れてから丸四日が経った。じいさんは運ばれた翌日に検査をしたが、異常はなく、じいさん自身も意識が戻り、弱々しくも意志疎通が出来る程、回復はしている。検査結果によれば、起因は栄養失調によるものだった。そのせいか、じいさんは腕に点滴を受けている状態だ。それを葵ちゃんに報せようと電話を入れたのだが、電話に出ることはおろか、折り返しの電話も無い。それがどう
2022年10月9日 13:23
九月十八日 ―――あれから早くも六日が経った。学校では次の日の体育祭の準備で忙しなさを見せている中で、俺は体育委員である山木のライン引きを手伝っていた。中でもこう言った学校の行事に携わるのは面倒極まりない。だが、どうしてもと言うのだから、仕様がない。そしてじいさんはと言うと、体調は一定を保っている。週一回はじいさんに顔を出している。葵ちゃんも週に何回かは顔を出してい
2022年10月13日 11:50
九月十九日そんな心の準備もままならないまま、朝が来て、体育祭当日を迎えた。俺が教室でジャージに着替えていると、Yはあっけらかんとした表情で俺に声を掛けた。『よう。眠れた?』ムスッとしながらYを見た。『なんだよ』『あれ?なんか…怒ってる?昨日急に部活中断したからか?』『そんなんじゃないけどさ…。そう言えば、ねむちゃんは?』するとYは笑いながら指を指した。俺が振り向
2022年10月23日 14:40
十月十日 それから暫く経って、秋の木枯しが靡く頃、俺は教室の窓を覗いて、静かにスマートフォンを取り出した。まだ授業中。だが、先生にはバレていない。そうっとイヤホンを取り出して、たまに聴いているラジオに耳を傾けた。『どうも皆さんこんばんは!日野まりでございますぅ~。一週間のご無沙汰、如何お過ごしでございましたでしょうかぁ!…と、言うことでですねぇ、早速早速!お便りを紹介したいと思
2022年10月23日 20:56
十月十一日 『はくしょ、はくしょ、はっくしょーーー!』次の日の朝、肌寒くなった秋風に襲われて、大きくくしゃみを何度もしていると、Yは『おいおい…。そんなにくしゃみして…。誰かに噂されてんじゃね?』と、ポケットに忍ばせていたティッシュを俺に差し出しながら言った。ズズッと鼻水をすすり上げると、Yが『おいおい!ティッシュ出してるのにすする奴があるかよ!ホレホレ!』と、差し出してるポケット
2022年10月23日 23:32
十月十二日 次の日の朝、いつもの様にカーテンの隙間から覗く太陽の日差しに当たって、俺は身体を持ち上げた。後頭部を何度も掻いて、俺は目覚まし時計に目を当てる。何時もの様に七時半には起きる事が出来た。階段を下りると、母さんが『おはよう。麻利央、朝ごはん出来てるわよ』と、洗面台に向かおうとしている最中なのにも関わらず、言われた。一応、返事をする。難癖言われるのが面倒だから。昨
2022年10月23日 23:36
十二月二日 ―――それから二ヶ月程が経ったのか、残秋も感じて、露寒の時期に来るであろうと、勘づける程だ。漫ろ寒さに身を震わせていながら、俺達三人は部室にいた。『ぶぁっくしょん!』『でっけーくしゃみだなぁ、マリー。風邪引くなよぉ?』『でも確かに寒くなってきたよね…』そう言ったねむちゃんの羽織っている白いカーディガンに目を引かれてしまう。袖を指つまみ迄伸ばして、そこを握
2022年10月23日 23:41
十二月三日次の日の朝、俺は、わざわざ四角い座蒲団の上にスマートフォンをのせ、その前で胡座をかき、そいつを睨みつける様に、腕を組む。どのように切り出そうかと、頭を抱えていた。すると、ウォンウォンと座蒲団が震えていた。それに、不格好ながらに飛び付く俺。相手のいないカルタでもやってるのかって程だ。スマートフォンを見ると相手は、なんだ、Yだった。『…もしもし?』『あー、マリー!