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潰瘍性大腸炎の苦しみ 鬱の苦しみ

潰瘍性大腸炎を患って早4年が経過した。人は実際に経験を強制される立場にならなければ知らないことがある、考えられないことがある。この病気にかかったことで、磔にされたように考えてしまうことができた。強い重力圏を放つ苦しみを知った。それについて考えない日はなかったんじゃないかと思う。ひどく個人的なことである。だが個人的なことに本当の意味で近づくと、なぜかそこに普遍が見えることがある。同じ体験や感情を抱いている人間が一人でもいることを期待して、その人が癒されるようになったらうれしい。もちろんこの文章は自分を癒すことを目的として書く。一つの大きな感情に、絶望に支配された状態から抜け出したい、本心の吐露である。つらつらと書く。書くことで苦しみからは逃れられないが少しは和らぐことを期待して。

この病気はつらい。そんなことはかかったことのないやつでもいえる。ただ終わりの見えない戦いがこんなにもつらいことだと実感させられるのは、本当にしんどいものだ。小説や映画、アニメでエミュレートする永遠の戦いとはわけが違う。私という実在する存在が、この確かにある世界で実際に延々と戦うことになるわけだ。潰瘍性大腸炎になるまでも、お世辞にもいい人生を送ってきたとは言えないが、この病気に罹ったことでさらに人生の質が下がった気がする。いや気がするではなく実際に下がった。酒も満足に飲めない。脂質におびえる生活を送りたいなどという人間はいないだろう。

そう食事が問題になるのだ。人間の三大欲求の中でもとりわけ日本人が重要視する食事が不幸の源泉になるのだ。何が低残渣、高たんぱくの食事だ。こんなものは人間の、毎日の食事ではない。アスリートのような奇妙な食事。徹底しても寛解状態を維持できる保証のない食事。無意識にしまい込んでしまいたい恐怖が脳裏にちらつきながらする食事。徹底しても何の勲章も得ることなく、金が稼げることもない食事。つかれた。もう疲れた。

病気自体のうっとおしさに加え、ステロイドという治療に欠かせない薬による人生への壊滅的影響も見逃すことができない。長く飲み続けていくと白内障に罹ったり、背骨がつぶれたり、大腿骨が壊死する難病を引き起こす。難病の治療を行う過程で難病になる。ばかばかしくて笑える。そのくせ潰瘍性大腸炎の方はステロイドしか効かない病態へと変化していくのだ。一方の病気を治療する、封じ込める過程で別の病気になる。こんな不安を受け取っていたら正気ではいられない。

ステロイドの影響はこれだけじゃない。気分にも、記憶にも作用する。脳が変化するわけだ。私も例外にもれずひどい鬱に陥るようになった。何を考えようにも集中することができず、何も楽しめない。億劫で一人でいる。一人でいる時間が長くなれば、必然と誰かといる技術は落ちていく。落ちていくことを実感しながら、不安におびえ、焦燥にかられ、体は重くなる一方だ。

人間の生の意味なんてものは、健康な人は考えないのだろう。つい、間延びした時間の合間にノイズのように生きる意味を探ってしまう。生まれた意味などその時の心身の状態で変わるような適当なものだと頭で理解しながら、私は私の生を呪ってしまう。

人生における幸福を受け取る受信機が壊れてしまった。もとからそんなもんなかったかもしれないが。

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