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【凡人が自伝を書いたら 30.初の店舗配属】

僕は「ルチャ・リブレ」の空中殺法を学ぶため、単身メキシコへと乗り込んだ。そこはまさに「虎の穴」。多くの猛者に揉まれながら、僕は華麗で身軽な空中殺法を身につけたのであった。

これは「タイガーマスク」の話である。

僕の話をしよう。(ネタの鮮度問題)

「わたくしは、どこへ行くのでしょうか?」

アルバイト時代から可愛がってもらっていた「小森部長」から激励の連絡が来た。

「お前なら大丈夫だとは思うが、とにかく頑張れ。毎年、新入社員を送っているが、何人も連続で辞めている。お前でダメだったら、もう一生やらん。」

「え、あ、はい。」

(いや、そこは3人目あたりで気がついていただきたかった問題)

「大変な店だが、悪い店じゃない。俺はあそこをくぐり抜けられる様な、人間が欲しい。」

「は、はい。」

(わたくしはどこかの訓練施設にでも行くのですか?問題)

「大変なことも多いけども、あそこを生き抜けば、必ず力はついて来る。」

「はい。」

(もはや、そこで働いているのは人間ですよね?問題)

「本当に辛くなったら、すぐに俺に電話しろ。店変えるからな。」

「あ、はい。ありがとうございます。」

(いやむしろそういう問題ではない問題)

「プツン。プー、プー」

「激励」か「脅し」かよく分からない電話だった。それでもなんとなくその店の「悪名高い」感じは伝わってきた。

「悪名高い」これは僕の大好物である。(逆に上司はお前を選んで正解)

僕は配属店の店長に電話をかけ、挨拶へと向かった。

なんだ意外に明るくて、普通な感じな人じゃないか。

第一印象はこれだった。

「わたくしが、新入社員でございますよ。ええ。」

店舗へ向かうと、意外にいつも見慣れた風景が広がっていた。まあチェーン店だから、それは当然といえば当然のことである。

事務所へ向かうと店長らしき男性がいた。歳の頃は30前半、少し膨よかな体型、縁のないシャープな眼鏡をかけ、キリッとした印象だが、その奥にある目はちょん、と可愛らしく、優しい感じの印象だ。

もう一人主婦さんらしき女性がいた。歳の頃は30代後半、やや色黒で細身。目はぱっちりと大きく、頬は少し痩せている印象。痩せ型で背も低かったが、気の強い印象を受けた。

「お!店長の山崎です。噂は聞いとるわ。よく来たな、よろしく!」

明るい感じににっこりと笑っていた。

今まで見てきた社員にはないような「貫禄」のようなものを感じた。

「よろしくお願いします。」僕も名乗り、挨拶をした。

「あとこちらは、大城さん。うちのアルバイトマネジャーだ。」

僕らは互いに向き合い、挨拶を交わした。

その後スタッフ達にも自己紹介を含め、挨拶をしてまわった。

なーんだ。やっぱりいい感じの人たちじゃないか。

そんなふうに思っていた。

「海賊と女狩人」

「ファンタジー」ではない。

僕の話である。

いや僕の話というわけでもない。正確に言えば、店長の山﨑さんと、マネジャーの大城さんの話である。

営業に入り、忙しくなってくると、「本性」が表れてきた。

クレームが入ると、客の前では必死に謝るが、帰ってくるや否や、ゴミ箱を蹴りあげる。アルバイトがちんたらやっていようもんなら、広島弁でキレまくる、山﨑店長。

圧倒的な仕事量を誇り、バンバン指示を飛ばして場を仕切る。変なことをしているアルバイトには厳しく叱りつける、大城さん。

怒っているかと思えば、二人ともゲラゲラと笑いながら休憩室で飯を食う。裏口でタバコをふかしながら、理不尽な客を「なんなんやあいつは!!」と言いながらもゲラゲラ笑っている。

まるで海賊と女狩人。まるで、ヤクザと姉御。そのハイブリット。そんな雰囲気だった。

本当に理不尽な要求をしてくる客に対しては、口論になることもある。「あんなバイト辞めさせろ。」なんていう客がいようもんなら、全力で追い返していた。

確かに治安の悪い地域で、客層も怪しげな人間も多かったので、人として間違っている対応をしているとは思わなかった。良客にはそれ相応のいいサービスをしていた。(飲食店としてどうか問題は置いておいて)

店自体の雰囲気を例えるなら、漫画「ワンピース」の「サンジ」が幼少期を過ごした、海上レストラン「バラティエ」の様な雰囲気。

いや、まさにあれだった。

「え、めっちゃおもろいやん。」

僕もそこはしっかりネジが外れていた。(バカか。逃げろ!!)

「海賊船に迷い込んだ凡人」

これはまさに僕のことだった。しかし2人とも気が良かったので、僕はすぐに仲良くなった。仕事ができたことも大きかった。特に怒られたりすることもなく、明らかに即戦力になっていた。

そんな感じで2人に受け入れられ、一緒に食事をしたり、タバコをふかしたりしながら、くだらない話をしてゲラゲラと笑っていた。(多分側から見れば僕自身もかなり異常だったろう)

ある日、

「店長、なーんか。窓汚いっすね!俺、全部掃除しますわ!」

「おお。そのやる気、良いねえ〜、よろしくぅ!」

店のすぐ目の前は大きな県道で、しかも場所柄トラックが多かった。そんな立地だから、結構窓が汚れやすかった。

店の入り口に水道の栓があった。店長から鍵をもらい、水を出そうと栓をひねろうとする。

かたい。

回らない。

どうやら使ってなさすぎて、錆びているようだった。

ただ、全く動かなかったわけではなかったので、今度は力一杯ひねった。

すると「大爆発」した。

正確にいうと、栓全体が外れ、水が大量に、強烈に天高く噴射した。

まるで噴水だった。僕は顔を覗き込むようにしていたため、噴射する水に「アッパー」を受ける形で、後ろに飛んだ。まるで漫画みたいなシーンだったことだろう。入り口付近の席に座っていた主婦の常連客は驚きとともに、爆笑していた。

なんか音でもしたのか、「僕の噴水」を見たのか、客から聞いたのか分からないが、店長と大城さんがゲラゲラ爆笑しながら出てきた。転んで唖然としている僕を見て、腹を抱えて笑っている。

「お、おまえ、なんしようんや、、お前、かはっ笑」

店長は笑いで苦しそうにしながら言った。

「いや、これ開けようとしたら、ぶっ壊れたんですよ!!わざとじゃないですよ!?」

怒っていないことは丸わかりだったので、僕も半分笑いながら答えた。

店長が呼んだ水道業者がすぐに修理に来た。

夏も近い、晴天の日にうちの店の駐車場にだけ大量の水溜りができるという異様な光景が広がっていた。

お客さんからも僕の失態をイジられ笑われた。(くそ!!)常連客とも仲良くなれたので、まあ良しとした。

「盗人魂」

正直めちゃくちゃな店だったが、学べることは多かった。空港近くの店だったため、時間当たりの客の集中がすごい店だった。そんな時は僕が体験したことのないような忙しさだった。

そんな時もキレてはいるが、客の前ではそれを見せない、店長や大城さん。しかも全く慌てることなく平然としている。全く雑にもならない。そのレベルの高さには、学ぶべきものが多かった。

僕はできる限り2人の動きを観察して、こっちの方が良いなと思ったことは勝手に盗んでいた。アルバイトスタッフのレベルも自然に高かった。彼らからも盗むべきことは多かった。

僕はそんなふうにいろんな人からそれぞれいいところを盗みつつ、自分にパーツをつけていく感じで、自分をアップグレードしていった。

店長の業務も、知らないものは教えてもらった。打ち解けて話しやすかったのもあるし、店長は良い意味で「インテリ」では無かったので、「要はこういうことや。」的な感じで話もわかりやすかった。

確かに他の新入社員にはきつい環境なのかもしれないが、僕にとっては、なかなか面白く、経験も積める最高の経験だった。まさに「虎の穴」だった

「異動は突然に・・」

3ヶ月が経とうとした頃。山﨑店長から呼ばれた。

「お前、異動だとよ。」

これである。

異動まで10日ほどしかない。

しかも僕とは全く関係もない土地だった。

誰かが鼻くそをほじりながら、「ダーツの旅」的な感じでダーツを投げて決めてるんじゃないか。(そんなわけないだろ)

そんなことを思っていた。

その後、短い期間だったが、しっかりとお別れ会をしてもらい、店長や大城さんと夜遅くまで大騒ぎしながら酒を飲んだ。

僕らは再会を約束し、別れた。

ここからは行き先を書いていこう。

僕がこれから向かう先は「うどん県」。

そう、四国は「香川県」だ。

つづく














お金はエネルギーである。(うさんくさい)