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独身者と余暇

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#読書

古本として出回らないような本にこそ出会いたい

古本として出回らないような本にこそ出会いたい

打ち合わせを終えたその足で、新橋駅前の古本まつりに立ち寄った。一年ぶりくらいだろうか。

年に数回開催されるこの古本まつりでは、駅前の通称「SL広場」に30ちかい古本をあつかうテントが立ち並ぶ。

その眺めは、いきなり都心に巨大な古書店が出現したみたいでなかなか壮観なものがある。

とはいえ、本の数が多いからといって自分の欲しい本が見つかるかといえばそれはまた別の話だ。

新橋にかぎらず、こうした

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わたしは地下鉄です

わたしは地下鉄です

物心ついたときから、家のある街にはいつも地下鉄が走っていた。

引っ越しも何回かしているし、べつに地下鉄にこだわって住む場所を選んだおぼえもない。

なのに、気づけばずっと生活のかたわらには地下鉄がある。



地下鉄を利用しているひとはきっとみなそうだと思うのだが、僕もまた隣町の風景をよく知らない。そもそも見えないのだ。どうしようもない。

ある日思い立って途中下車でもしないかぎり、隣町は永遠

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年越し本あれこれ

年越し本あれこれ

子どもの頃、大晦日には父と連れだって街のおもちゃ屋へとプラモデルを買いに出かけた。

自動車とか戦車とかお城とか、じっくり考えた末にひとつだけ買ってもらう。父もまた、自分用にひとつプラモデルを買った。

買ったプラモデルはすぐにでも組み立てたい気持ちを抑え、一晩寝かせて年が明けてからから開封するのが “しきたり”だった。

そもそも、大晦日にプラモデルを買うという我が家の行事はいつから始まったのだ

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【読書感想文】イ・ドウ『私書箱110号の郵便物』

【読書感想文】イ・ドウ『私書箱110号の郵便物』

どうも人間というのは忘れっぽい生きものらしい。朝晩ちょっと肌寒くなっただけで、もう今年の夏のいつまでもだらだら暑かった日々のことを忘れそうになる。

ここ日本には四季というものがありまして、なんて言っていたのもいまはむかし。ここ最近は一年の半分近くを夏が占め、そこに春と秋とが申し訳程度にこびりついているといった印象だ。

じっさいこの夏をふりかえると、やたら猛暑とゲリラ豪雨ばかりが思い出される。長

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適度の気品と慎ましやかさ ポール・オデットを晩秋の喫茶店で聴きたい

適度の気品と慎ましやかさ ポール・オデットを晩秋の喫茶店で聴きたい

ポール・オデットについて何か書こうと思ったのだが、じつはポール・オデットという音楽家について何も知らないのだった。

ある日アップルミュージックがおすすめしてきたアルバムを聴いてみたところすっかり気に入ってしまい、ここ最近BGMのように部屋ではずっとその音楽が流れている。それがポール・オデットだ。

解説によれば、ポール・オデットはアメリカ出身のリュート奏者で、とりわけエリザベス朝時代の作品を多く

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