マガジンのカバー画像

独身者の日常

23
運営しているクリエイター

#一人暮らし

水菓子を買いに

水菓子を買いに

およそ独身者の食卓にのぼらないものといえば、バナナを除くくだものの類ではないだろうか。

言うまでもなく、くだものが嫌いなわけじゃない。くだものが、というより正確に言えばその売られ方が一人という単位に見合わないだけだ。

たとえば、分かりやすい例だとスイカがある。記録的な猛暑だったこの夏、さすがにスイカのひとつも買いたい気分に何度もなったが、ひとりでは1/2個でももてあましてしまう。あるいは小さく

もっとみる
自分にあった手帳をみつける

自分にあった手帳をみつける

朝起きたら、3ヵ月後のきょうは元旦であることに気づいた。気づいてしまったが最後、がぜん気持ちが急いてきた。

そうかそうか、そうだったのか。それでみんな手帳の話などしていたのか。

暦の上では秋だというのに今年はいつまでも暑く、半袖を着てイヌのように舌を出してハアハア肩で息しているせいか、そんな季節になっていたとはまったく気づかなかった。

そこで、問題は手帳である。さあ、来年の手帳はどうしようか

もっとみる
風を迎える

風を迎える

5月から続いたアパートメントの外壁補修工事もようやく終わり、足場とともに建物を覆っていた防護ネットもすっかり取り払われた。これで思う存分家じゅうの窓という窓を開け放つことができる。

工事中の室内は一日中どんよりと薄暗かったし、作業のため窓を開けられない日も多かった。

なんといっても、虫カゴのように黒いネットで覆われた部屋で目覚めると、なんだか自分がグレゴール・ザムザにでもなった気がする。

もっとみる
孫の手を買うことは

孫の手を買うことは

孫の手は独身者にとって必需品だ。テレビをみていたら、出演していたひとりの男がそう口にした。

そういえば、家にはまだ孫の手がない。独身になってそろそろ七年が経つのだ。孫の手を手に入れるにはいい頃合いかもしれない。

孫の手を買うのは、つまり一人で生きてゆくという決心をみずから引き受けることでもある。