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独身者の日常

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2023年11月の記事一覧

パンがなければケーキを食べればいいじゃん

パンがなければケーキを食べればいいじゃん

新宿まで眼鏡を作りにいって、家に財布を忘れてきたことに気づいたのだった。

そこそこ長く生きてきたけれど、財布を忘れて出かけるのはこれが初めて。気づいたとき、慌てるよりも先にまず驚いてしまったのは、財布を忘れるということにかんしてはなぜか自分は大丈夫という変な確信があったからだ。

それにしても、恐ろしいのは「刷り込み」である。

そのとき、よりによって頭の中に流れたのはサザエさんのテーマソングだ

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夜の散歩と祖父母のこと

夜の散歩と祖父母のこと

親類のあつまりで、九十になる叔母から話を聞いた。

叔母がまだ若かったころの思い出話だが、記憶に残る事柄というのは人により異なるもので、折に触れて母から聞く話とはまたちがった新鮮な気持ちで聞くことができた。

なかでも、とりわけ印象に残ったのは祖父母、つまり叔母の両親にまつわるエピソードだ。

娘の目から見ても仲睦まじい夫婦だった祖父母は、夕食後、近所の麻布十番まで散歩にゆくのを日課にしていたのだ

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こだわりは“好き”の煮こごり

こだわりは“好き”の煮こごり

こだわるというとき、妥協せずにものごとを追求するという良い意味あいで使われることがある一方で、細かいところに拘泥するといったようなあまり好ましくない意味あいで言われることも少なくない。

じっさい、こだわりをもった人というと頑固一徹な職人肌といったイメージがある反面、なんだか融通のきかない面倒くさげな人というイメージがあるのもまた事実だ。

たとえば僕の場合、こだわりの対象といえばまず「コーヒー」

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消えた《遊び》はどこにいった?

消えた《遊び》はどこにいった?

もうずっと昔の話。まだ日本が好景気に浮かれ騒いでいた頃、あたかもその時代を象徴するかのような一本のテレビCMがあった。

それは自動車のCMで、あまりテレビに出ないことで知られる男性歌手を起用したことでも話題になったのではなかったか。

森の中の一本道を気持ちよさそうに走る一台の自動車。その助手席の窓がすーっと開き、中から顔を出したその歌手が例の口調で白い歯をのぞかせながらカメラに向かって問いかけ

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コツをつかむ 

コツをつかむ 

職場での話。必要に迫られて床のモップがけをしていたところ、年配の職員がコツを伝授してくれた。ぼくのモップの使い方があまりにもぎこちなく、見るに見かねて教えてくれたというのが正しい。

ここでほら、くるっと回して…… そうそう、回すのがだいじなのよ。Tさんの言うとおりやってみると、なるほどたしかに効率がよいし、なによりモップがけのプロになった気分だ。まさにモップがけのコツである。

そのコツを用いる

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