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何者かになりたい病気の処方箋 N82

 有名グラビアモデルの岩本和子さんの事件を知った時にその刃傷事件を起こすまでに至った彼女の歴史に興味を持たずにはいられなかった。
 

 その事件は熱海駅で9歳年下の交際男性をカッターナイフで切りつけたのだが、その既婚者だったその男性は岩本さんに怠惰するように言い続け、結果として中絶手術をした後にその男性に謝罪を求めて刃傷に至ったという話だ。

彼女は成績優秀で鳥取で一番の高校を卒業して横浜市立大学を卒業。その後IT企業でそれなりに稼ぐ。しかし社会で何者かになって地位を築きたいと思いながらも築けず、転職を繰り返すことになる。しかし36歳のときに国民的美魔女コンテストの21人のファイナリストの1人として選ばれ、それを機にタレントとしての仕事に就くようになる(*1)。そして何者かになってしまうのだ。

 モラトリアムは世界共通で発生しうる現象だが、日本は30歳を過ぎても何者かになりたいと願う人が多いと思う(唯一似たような現象がありそうなのが台湾か?)。これは日本の能力平等主義の弊害だと私は考えている。河合隼雄先生の言葉を借りれば母性原理を背後に持つが故の「平等信仰」だ(*2)。
 

 日本以外の国では一般的に身分や資格が与えらることで自分の限界と目標が定まる。小学校の成績で大学に進学をしない決断をする国では(成績が悪いと進学したくてもできないのだが)医者や弁護士になるという夢を40歳過ぎて抱くことはないだろう(日本ではごく普通にいるから驚きだ)。またカースト制度であれば親の職業身分に基づいて自動的に仕事が決まる。親は清掃員だったが大統領になったというサクセスストーリーはあり得ないのだ。

 しかし日本はよくも悪くも平等なので逆転ホームランが理論上可能だ(外国では理論的に不可能に対して)。しかも能力が平等、言い換えると努力をすれば叶えられるという信仰があるので諦めきれない(原因は自分の努力不足と解釈されてしまう)。
 

 このような何者かになりたい人はその名の通り何になりたいかが決まっていない。医者とかなら分かりやすいのだが、具体的ではない。単純に有名になりたい、あるいは人にうらやましいと思われる地位につきたいという欲望が根底にある。やりたいことがないのに何かを成し遂げたいという病気はそのロジックゆえとても困難だ。
 

 この病気は経験の限りでは年齢を重ねるごとに治癒されていくのだが、近年は年を取っても病気のままの人が増えているのでは?と感じている。子供の頃にお勉強がすごくできた人、運動ができた人、美人でもてた人がかかりやすいと思っていたが、最近はごく普通に育ってきた人でも同じ現象に陥っていることを知ったので、日本人にとって共通の病気かもしれない。
 

 個人的な見解だが逆にこの病気にかかっていない日本人を観察すると父親がしっかりと世の中の厳しさを教えている人と思われる。つまり身の丈をしっかりと叩き込むことが大事と思われる。会社に入って先輩社員から叩き込まれるように。
 

 しかしながらこの日本だけの現象は今や海外にも広がっているのだ。日本のアニメが流行する影にこの何者かになりたい病も広まっている。コスプレはその象徴なのかもしれないと言うとコスプレの人に怒られるかもしれないけど。 

 (1*) Wikipedia 岩本和子 

(2*) 河合隼雄、「母性社会日本の病理」 

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