FGOにおける騎士と王と芸術家の物語

 三つの物語に絞ってご紹介いたします。

1.華々しくはない騎士の美しい物語

2.最高の政治手腕を持つ王様の物語

3.世界における芸術家の価値を示す物語

はじめに

 FGOとは、Fate Grand Orderというスマホのゲームです。
 神話伝説歴史上の英雄や神々が出てきて活躍するゲーム。 

 私はもともとゲーマーではなく、家族がゲームをやっているのを横で見て。ストーリーを楽しみ、音楽を楽しんでいました。ほとんどアニメでも見ているかのような楽しみ方。

 ので。ゲームを自分でやる気は起きず、やるとしても、テキストがほぼメインの幕末明治ものの乙女ゲームをやった程度でした(おかげで高杉晋作ファンになりました)。

 そんな私がFGOを始めたのは……

 ガウェインの顔がいい(なんて直な理由)。

 ガウェインというのはアーサー王伝説にでてくる騎士。
 私の推しの一人です(ベイリンも推しです)。

 さてガウェインにはまってゲームを始めたはいいものの。

 ゲームは複雑でちんぷんかんぷん。

 幼い頃に見ていたドラクエのようにたくさん戦えば、経験値がたまって、戦士たちのレベルが上がると思っていたら。
 上がらない。
 もう全然上がらない。

 しばらくたってからどうやら、なんか知らんけど貰えるカードを英雄につぎ込むと、レベルが上げられるということがわかりました。
 
 経験を積むだけでは駄目とは。
 しかし、逆にカードをつぎ込めば、戦う経験がなくてもレベルが上がります。
 なんか調子狂うなぁ……

 そもそも、FGOに出てくる戦うキャラクターって、もともと英雄だった人たち。
 アキレウスとかジークフリートとかね。
 めっちゃ強かったので最初から強くていいのでは?と思うのですが。
 たぶんそれだとゲーム的にアウトなんでしょう。

 まあ死ぬほど体調崩してガリガリになった英雄を呼び出して、体調の回復のお世話をしているようなものだと思えばいいのかな。

 そんなノリで英雄を、体調万全にしてあげる気持ちで育成をしていかなければならないわけです。
 
 最初はレベル低い勇者を育てていって、英雄に仕立て上げる、というゲームとは根本的に違うのが不思議な感触です。

1.華々しくはない騎士の美しい物語

 さて、もともとアーサー王伝説のガウェイン目当てに始めたわけなので、まずアーサー王伝説がメインのストーリーになっている「第六特異点 神聖円卓領域 キャメロット」に行きたいところです。

 FGOというゲームは、バトルをしたりレベルを上げたりしないといけないのですが、基本的にはテキストメインでぐいぐい物語が進んでいきます。
 キャラクターの表情転換が多少あるイラストと、ときどき綺麗な情景イラストはつきますが、メインはテキスト。とにかくテキスト。乙女ゲームと似てる……。

 さて「特異点」ですが、ざっくりというと、小説でいう第一章、第二章みたいなもの。
 つまり第六章。
 第六というだけあって、第一~第五を先にクリアしなければなりません。

 め、めんどくさ……

 めんどくさいですが、これもガウェインのため!
 頑張る!

 そしてようやく行きついた第六特異点。
 
 アーサー王伝説の名シーンをモチーフにした物語が展開していきます。

 そのモチーフになったアーサー王伝説の名シーンを紹介しますと。

 物語の終盤も終盤。アーサー王が瀕死の重傷を負い、傍にいたベディヴィエール卿に自分の持つ聖剣エクスカリバーを「湖に返してきてくれ」と頼みます。
 聖剣エクスカリバーは湖の妖精から授けられたもの。だから湖に返却するんですね。
 伝説上ではベディヴィエール卿は惜しみはしたものの、湖に聖剣エクスカリバーを返却しました。

 しかしFGOのベディヴィエール卿は湖に聖剣エクスカリバーを返却しませんでした。
 聖剣を返却したらアーサー王が死んでしまうから。
 アーサー王に死んでほしくなかったから。

 湖に剣を返却しなかったことで、アーサー王は死ぬに死ねず。この世を彷徨することになりました。
 
 ベディヴィエール卿はただ、アーサー王に死んでほしくなかっただけ。
 自分の前から姿を消してしまったアーサー王を、ベディヴィエール卿は追いかけます。

 というようなお話がFGOの第六特異点に横たわっている背景のお話。
 
 アーサー王伝説に「もし」があれば、のお話が展開している。
 そしてFGOの世界観上、「もし」が起こりうるようにできているのです。

 その物語が非常に真に迫るもので。

 すごく美しい物語でした。
 命枯れ果てるまでアーサー王を追って行く、ベディヴィエール卿が美しい。

 人はあやまちを犯すもの。
 でもそれをとことんまで償いにいったベディヴィエール卿は悲しくも潔く美しい。

 責任としては重過ぎるので、果たせなくても仕方がないようなものなのだけど。
 その重さを背負ってやりきるのがアーサー王の円卓の騎士の強さ。

 馬鹿正直にもほどがある、と言われそうですが。
 アーサー王の円卓の騎士は馬鹿正直なんです。
 そこが好き。

 FGOの物語を書く人は、好い物語を書くなぁ……
 私はこの物語でFGOが好きになりました。

2.最高の政治手腕を持つ王様の物語

 アーサー王のお話でお腹一杯のところなんですが。
 が。
 FGOのサビはこれからだった。

 サビ!!

 ギルガメッシュー!!

 そう、キャメロットをクリアした次は、古代メソポタミアの都市ウルクの王様、ギルガメッシュの物語。
 FGO最高の、サビです。
 
 このギルガメッシュ王、めちゃくちゃアクが強い。 
 まず、偉そう(いや実際に偉いんだけど)。
 次に、見た目がいい。
 さらに、戦闘力も高い。

 しかし何より。
 
 政治が上手い!!

 恐ろしいほどに働きまくり、懸命に働く民を労い、私腹を肥やそうという者には断じて厳しくあたり、攻め込んでくる敵に勝つために全力を尽くす。

 政治が上手い!!

 人という材を使い、都市という作品を創りあげる芸術。
 都市は芸術作品!!
 
 

王自身が働きまくり、民たちも総力を挙げて働く。
 結果、生き生きと都市自体が動く。
 都市が、つねに躍動する一個の生命体になる。

 都市の創り方を魅せてくれる王様がこんなにかっこいいものだとは思わなかった。

 政治ができる王様って、ものすごくかっこいい。
 かっこよさの中で最上級。

 それをしっかり魅せてくれたギルガメッシュに、惚れました。
 人間という生命の使い方をよく知ったギルガメッシュの芸術といえる政治手腕の物語。

 政治手腕だけでなく、シャレを理解し、友を大事にし、戦士としても、魔術師としても優秀なところも魅力です。

 かっこいい。とにかく、ギルガメッシュがかっこいい物語でした。

3.世界における芸術家の価値を示す物語 

 ギルガメッシュの後はそれなりにいろいろなお話があったもののそれほどまでにささるお話はなく。
 もうギルガメッシュでおしまいかな、FGO……。
 まあこれで十分かな。そろそろ手を引こうかしら?
 
 そう思っていたところに来たのが、サリエリ。

 サリエリって、映画「アマデウス」でモーツァルトを毒殺していた、天才モーツァルトの才能に嫉妬した秀才の音楽家の人だよね……?

 私のサリエリの認識はそんなものだったのですが。

 思いっきりひっくり返してくれました。

 舞台は、あまりにも寒く厳しい世界で人間が生きられず、獣人たちが生きる世界。
 獣人たちは芸術も捨てて、ただただ弱肉強食の世界で生きている。

 そんな中、モーツァルトがその世界に召喚されます。モーツァルトは目覚めると危険な巨大な権力者を眠らせておくためだけに、音楽を奏で続け奏で続け奏で続けます。
 モーツァルトは衰弱し、そこへちょうどやってきたサリエリに後を託して、消えていきます。

 その後いろいろありますが、結局その世界は滅ぼされます。
 弱肉強食では納得のいかない、よそ者に……そのよそ者が主人公なんですけどね。
 しかし、その世界の住民の一人が弱肉強食の世界はおかしい、強いだけの世界に負けなるな、と主人公たちを励まして死んでいきます。

 そして、サリエリはというと。
 世界が滅びゆく間際、星空の下にピアノを出して。
 その芸術の滅んだ世界に、芸術を取り戻させるかのように。
 モーツァルトに託された「きらきら星」を奏で続けます。

 その世界には必要ないとして切り捨てられた、でも、その世界の人たちも心のどこかで求め続けていた、音楽を奏でる。

 そういう物語。

 もうね、一気にサリエリ好きになりましたね……!!

 芸術家が極端に芸術を愛するのは、世界を癒し、世界を愛することと繋がっているんだな、ということがよくわかります。

 おかげで私はきらきら星を奏でるたびに感動するようになってしまいました……。

 ちなみにサリエリは音楽と同じくらい、いや音楽と=だといえるほどにモーツァルトのことを愛していて、そこも見どころです。

 サリエリ自身は世界を憎んでいるのですが、モーツァルトがあまりにも世界を愛しているから、その遺志を受け継いで、世界を愛している、という構図。

 サリエリは主役でもなんでもなく、ただ登場する脇役的な位置なのですが、物語の本質を象徴する役割で、強烈にインパクトがありました。

おわりに

 素晴らしい物語を紡ぐのは人間自身で、そういう人間を愛しているから。
 それをしっかりと丹念に見せてくれるから。
 だからFGOが好きなんだな、と思います。
 私にとってはなによりも物語の輝くゲームでした。

 いまだにゲームのシステム的なところがめんどうではいるものの。
 まあ、現実でも。物語を進めるのってめんどうなこといっぱいありますからね……。
 小説や映画と違い、ゲームってそういうところ妙に現実的。

 めんどうさを引き受けつつ、物語を見ることを楽しんでゆきたいなと思います。

 さて。次のFGOの物語はとうとうインド神話……!!

 私はインド神話のひとつである叙事詩マハーバーラタの一部分、バガヴァッド・ギーターを読んで、人生観がかなり変わったんですよね。
 これは語りだすと長いので、別の機会に。

 FGOがインド神話で、どんな物語を紡いでくれるのかを楽しみにしています。 
 
追伸 当初の目的であるガウェイン卿は召喚に成功し、トリスタン卿、ランスロット卿、べディヴィエール卿と共に大事に育成しました。今は主戦力として戦ってくれています。  

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