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ICONIC / アイコニック

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アイコニックシリーズをまとめました。
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#短編小説

ICONIC / アイコニック ①

ICONIC / アイコニック ①

「遺伝子組み換えによるクローン人間の人口増加」
「才能を持って生まれる科学の子•クローン人間」
「遺伝子組み換えの未来/彼らは人類なのか?」

 今から数十年前、それまでは「非人道的だ」と叫ばれていた遺伝子組み換えによる人間のクローン制作が打って変わって「人類の未来」として奨励されるようになった。日本はもちろん、世界各国の研究所が優れたクローンの制作を開始し、クローンの制作を主とする企業も現れた。

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ICONIC / アイコニック ②

ICONIC / アイコニック ②

  私立帝明高校、冬月の通う高校だ。総生徒数4502人、内クローン人間が2003人。府内有数のマンモス校で、数々の有名難関大学への進学率が非常に高い。が、実績は輝かしくとも校内の様子はまるで地獄である。クローン生徒と純身生徒の対立、それによるイジメ、喧嘩は日常茶飯事。教職員は見て見ぬふり、自殺者も少なくない。しかし表面上は優秀な生徒の通う非常に綺麗で清潔な高校だ。入学したばかりの新入生が落胆するの

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ICONIC / アイコニック ③

ICONIC / アイコニック ③

 一限目の授業が始まった。国語だ。クローン相手に授業をするのが億劫なのか、それとも自らが軽蔑した目で見られていることに気が付いているのか、担当の教員は投げやりな態度で授業を進めていく。生徒に順番に音読をさせ、必要最低限の知識、文法を説明する。しかし不思議なことに、こんな授業でも50分を十分使うのだ。それも、チャイムが鳴ると同時に終わるようになっている。こんな感じなので最初のうちは彼もクローンかと疑

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ICONIC / アイコニック ④

ICONIC / アイコニック ④

 騒がしいカフェテリアの中に入った俺たちは、人混みをかき分けながら注文の受付口へ向かった。
「おばちゃーん!」
先に進んでいた武村が叫んだ。受付カウンター付近の三メートルは人が多くどう足掻いてもそれ以上近づけないため、ここから叫んで注文するのがいつものことだった。問題は、注文が受付の人に聞こえるかという点だ。
「はーい!」
どうやら武村の声は聞こえたらしい。
「カレープレートひとつ!あと和食セット

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ICONIC / アイコニック ⑤

ICONIC / アイコニック ⑤

 昼食を済ました俺たちは、未だ混雑しているカフェテリアからなんとか脱出した。教室までの道のりは長い。
「中辛はどうだった?」
「二度と食べたくねぇ」
「だから言ったのに。“学食の中辛なんて大したことない”、だったっけ?」
そんな冗談を言いながら、俺たちは上階へとつづく階段に差し掛かった。
「もうすぐ発売のTHT、なんかいいのあるか?」
機嫌取り、ではないがあからさまに拗ねている武村を元気づけようと

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ICONIC / アイコニック ⑥

ICONIC / アイコニック ⑥

 学校を出てしばらく歩き、最寄りのシティライン駅に入る。武村のほうが一駅早く降りるため、そのあとの家の最寄駅までの時間は非常に暇である。俺はこの時間に読書をしている。
 本や小説に苦手意識を持つクローンや純身がいるらしいが、俺はその考えにいまいち共感できない。確かに本は文字だらけで一見するとなんの面白みもない紙切れの集まりのようだ。しかし、その中には様々な世界が広がっており、その素晴らしさは表現の

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ICONIC / アイコニック ⑦

ICONIC / アイコニック ⑦

 1時間ほどの昼寝をした俺は軽い頭痛に襲われ、クローン用の頭痛薬を服用する羽目になった。才能の開発よりも頭痛を根絶する機能を開発してくれ、と思う。
 購入者の夫婦のうち、執事の車に乗って帰ってきたのは女性、俺の立場からするに母親のほうだった。執事いわく父親のほうは泊まり込みで働くことになったらしく、帰ってきていないそうだ。
 母親は執事の作った野菜スープを一杯飲むと、すぐに寝室に向かい眠ってしまっ

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ICONIC / アイコニック ⑧

ICONIC / アイコニック ⑧

 朝、眠たい目を擦りながら俺はシティラインに乗っていた。一駅一駅進む毎に乗客が増えていき、二駅もすれば満足に自分の空間を確保することさえままならなくなった。息が詰まりそうな電車に揺られながら、学校の最寄り駅に早く着くことを願う。このままこの群衆の中にいれば、窒息死するのも時間の問題だ。
 人混みをかき分けながら電車を降り、ホームの階段を下って改札口を出る。あとは二十分ほどかけて徒歩で学校へ向かうだ

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ICONIC / アイコニック ⑬

ICONIC / アイコニック ⑬

 その後しばらくしても秋龍とレイジがなかなか店の奥から出てこなかったため、俺と武村は様子を見に行った。
 鉄製の重々しいドアを開けて中に入ると、薄暗い部屋の中央に診察台のようなものがあり、そこに秋龍は寝そべっていた。レイジはその隣で椅子に腰掛けながら、コンピュータディスプレイに映った情報を眺めている。
「あれ、どうしたんや?」
 秋龍がこちらに気付き、声をかけてきた。
「いや、なかなか出てこなかっ

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ICONIC / アイコニック ⑭

ICONIC / アイコニック ⑭

 朝学校に到着したのは8時20分。朝礼が始まるのは30分だから、当然これくらいの時間なら大体のクラスメイトはとっくに到着している。今日このクラスで十二支が決められるのなら、俺の名前は乗らないことだろう。
 武村は俺より先に登校しており、俺の席で呆けていた。
「おはようさん」
 天井を眺めている武村を横目に、俺は荷物を机の上に置いた。
「ん、おはよう」
 武村がこちらに視線を下ろした。
「秋龍は?昨

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ICONIC / アイコニック ⑮

ICONIC / アイコニック ⑮

 翌日の夜8時。一部の運動部以外はとっくに帰宅しており、校舎に点いている明かりも片手で数えられるほどになっていた。
「夜8時なんて、優しい時間に召集かけられたもんやな」
 秋龍は相変わらず飄々としている。
「なんにせよ怪我人が出ないことを祈るよ」
「まったくだ」
 俺と武村は秋龍に誘われるまま学校に残り、図書室を追い出されるまで仲良く仮眠をとっていた。追い出されてからの2時間は退屈極まりなく、最終

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