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ICONIC / アイコニック ①

「遺伝子組み換えによるクローン人間の人口増加」
「才能を持って生まれる科学の子•クローン人間」
「遺伝子組み換えの未来/彼らは人類なのか?」

 今から数十年前、それまでは「非人道的だ」と叫ばれていた遺伝子組み換えによる人間のクローン制作が打って変わって「人類の未来」として奨励されるようになった。日本はもちろん、世界各国の研究所が優れたクローンの制作を開始し、クローンの制作を主とする企業も現れた。また、遺伝子の一部を操作することによって「才能」を人為的に与えることが可能となり、この才能をより強化するため身体の一部を機械に変える「トランスヒューマン技術(THT)」が発展した。現在THTはクローンにのみ適用することができるようになっている。世界各国は軍隊をTHTで改造したクローンで構成し、優秀なクローンを制作する企業は世界的に活躍することとなった。これはそんな時代のお話である。

 朝6時半。冬月 水面は目を覚ます。ベッドから起き上がり、軽く伸びをした。スリッパに足を入れ、リビングへと向かう。
「クローン開発企業“セブンス”は昨日、新型クローンと新型THTの発表会を行いました…」
点きっぱなしのテレビに気がついた彼はリモコンに手を伸ばし、電源を落とした。
 クローン人間。人類の未来。データによって仕組まれた人格。冬月はクローン開発をしている大企業“テクノ•カイザー”によって製作されたクローン人間だった。冬月、というのは購入者である冬月家の苗字で、水面は購入者のつけた名前だ。今の時代、下賎な性行為を用いた繁殖は軽蔑視されており、また出産における母体の負担もなくなることから十世帯のうち三世帯はクローンの子供を持っている。
 購入者はすでに出勤しているらしい。家には彼一人しかいなかった。
「朝食、何にしよう」
そんな独り言をいいながら、まだ暗い部屋を歩きキッチンに向かった。外は曇っているのか部屋には薄灰色の光が差し込み、もとより電気を点けていなかったため部屋は暗かった。朝食は用意されていた。

 冬月 水面。テクノ•カイザー社によって製作された。商品名はカイザーシリーズ-M64/NEXUS後継機。型番はCH/Type:92ー7。自立式思考回路「アルファード」の最新機DRTS1000を初期搭載し、経験や体験、また多様な考え方と触れることで自我を構成することができる。神経の伝達速度を加速させるTHT「デナム」シリーズの5020、脳の処理速度を速くするTHT「クアドラ」のCode:777、記憶容量を大きくするTHT「コネクトロ」のBrain Chip/Size MX4を後付けで搭載した。クローンの中では相当金のかかっているカスタムである。
 クローンの購入はそう簡単ではなく、大企業の高性能タイプは高級車並みの値がつく。もちろんTHTも性能によっては何百万もし、安くても十数万円ほどだ。彼の購入者は裕福であるため、ここまでの装備ができ、一流企業テクノ•カイザーのトップグレードシリーズを名乗れるが、酷いところのクローンは二十年も稼働できずに機能停止をしたり、自我がプログラムされたものだけだったりする。

 冬月は朝食を食べ終え、学校へ行く準備をする。彼はまだ製造されてから十六年しか経っておらず、高校に通っている。クローン人間といえど、購入者にとっては手のかからない子供なのだ。たとえクローンでも子供らしく扱う。それがクローンが当たり前にいる世間の常識だ。一部のクローンは酷い扱いを受けているようだが。

 靴を履き、鞄を持つ。扉を開け、彼は家を出た。

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