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【自分を超えるための読書術】巨人を探せ。そして肩に乗って巨人のフリをせよ。

すでにこのnoteの記事のタイトルに興味を持って読んでいるあなたは日頃から本を読んでいると思う。
この本があなたが生涯で読んだ初めての本でないことは分かっている。
日本の書籍というのはアメリカに比べて値段が安く装丁や紙質もいい。
日本の書店では高品質な本が安価で数多く手に入る。
アメリカでブックストアに行ってみると、アメリカはいわゆるペーパーブックがメインなので、見た目のクオリティも低く、そして店頭に並んでいる本の種類もさほど多くはない。
しかしそれでも一冊一冊の値段は、日本の書籍に比べると高い。
販売価格も書店が自由に決められるので、その書店で売れ残った本は、値引きされてセール品となっていることもある。
日本は、出版業界全体が本を安く販売することに成功した独自の仕組みを持っているので、多様な種類の本を高品質で安く流通させている。
私は日本で本が安く大量に買えることをありがたく感じるが、日本人の多くの人にとってみれば、逆に本に対してのありがたみを感じなくなっているのか、日本人は他の先進諸国に比べて本を読む人の割合が少ない。
これは非常にもったいないことだと思う。
とは言え、すでにこの本を読んでいるあなたは日本人の中でも数少ない本を読む習慣のある人であり、そんなあなたに対して「もっと本を読め」とアドバイスすることはあまり意味のないことなので、本を読む習慣がある人という前提で、ここから先は書いていきたい。

あなたは日頃からどういう基準で本を選んでいるだろうか。
人はストーリーを読むと、そのストーリーを疑似体験でき、感情が湧き上がる。
ストーリーを読むことは、感情を楽しむことでもある。
読書はストレスを軽減する効果がある。
ストーリーを聞いたときと似たメカニズムが働く。
読書は気持ちいいのである。
なのでどうしても読んで気持ちいい本を手に取ってしまう傾向がある。
ストーリーが散りばめられていて、感情の起伏が起こりやすい本を選んでしまいがちだ。
ストーリーがふんだんに書かれていれば、小説やドキュメンタリーでなくても、読んでいて気持ちが良いだろう。
ハラハラしたりワクワクしたり笑えたり怖くなったり、そういった本はどんどん読み進められ、読書の時間をエンターテイメントの時間にしてくれるだろう。
優れた本というのは、著者が主張したいことをうまくストーリーで表現してあり、そのストーリーの中にメッセージをうまく隠して散りばめてある。
読者の心にも記憶にもメッセージが残ることになる。
ストーリーの細部は覚えていなかったとしても、著者が伝えたかったメッセージは読者の中で生き続けるのである。
とても革新的な研究の結果や崇高なことが書いてある本でも、ストーリーとして語ろうとしていない本は、誰にも読まれず、売れることはない。
逆に、 著者の主張しているメッセージそのものは非常に薄いものであるのにもかかわらず、ストーリーによって感情を揺さぶるような表現が多く興味を引きつけるものになっていれば、多くの人に読まれ、売れることになる。

本を読んでいる最中は楽しいかもしれないが、読み終わった後に、「楽しかった」という感想以外の、『役に立つ何か』を得ることがない本というのは、いわゆる『マッサージ』である。
マッサージは気持ちいい。
しかしマッサージでは病気や怪我を治すことはできない。
しかしマッサージは気持ちいいので、つい怪我で患部が痛むとマッサージを受けたくなってしまう。
ストーリーがふんだんに散りばめられた本というのは読むこと自体が気持ち良いので、得られるものが大して無いのにもかかわらず妙に満足してしまう。
やみつきになる味でお腹いっぱいになって満足感に浸るスナック菓子のようなものだ。
そして実際には栄養がほとんどないのですぐにお腹が減る。
そしてまたスナック菓子を食べてしまう、という悪循環が起こる。
この現象は自己啓発系の本に多い。
読んでいる時は気持ちよく、読み終わった後の少しの時間は満足感に浸れるかもしれないが、具体的に何をしていいかがわからない自分に気づくはずだ。
そしてその答えを求めるようにまた自己啓発系の本を手にとって読むことになる。
読んでいる最中は楽しくて答えを得たような気がするが、役に立つようなことは何も手に入っていない。

長財布を使えば金持ちになれる、と主張している本を手にしたとしよう。
長財布を使って成功者になった人のエピソードを読んでいるうちは、今すぐにでも自分も長財布を使買って成功者の仲間入りをしようと気分は上がるのもしれないが、長財布を使っていても一向にお金が増えない人のことは考えない。
ストーリーというのはある特定の流れをイメージさせるのには最適であるが、そのストーリーが流れていない別の選択肢や他の可能性を考えなくさせてしまう副作用がある。
ストーリーというのは流れるように進んでいくので、主人公がとある選択をした時に、メインとなるストーリー以外の選択をした場合のストーリーについて、他の可能性を考えさせるという意味で、いちいち書いていたのでは、ストーリーの流れが止まってしまう。
するとメインのストーリーですら入ってこなくなってしまう。
自己啓発本に書いてあることが真実をベースにしてあったとしても、読んでいる最中では、それ以外の選択を取った場合にどのような未来が起こりうるのか、についてまで考えようと思わないはずだ。
流れるように進んでいくストーリーというのは思考が停止する。
マッサージに完全に身を委ねてリラックスしている状態だ。

自己啓発本はあなたに何かを考えさせるためにあるわけではない。
あなたに考えさせないためにあるのだ。
だから自己啓発本を読むと気持ちがいい。
頭を使わなくて済むからだ。
しかし厄介なのは、自己啓発本はそれぞれ何らかのテーマを設定してくる。
そしてあたかも、あなたに何かを考えさせようとしているかのように振る舞っている。
「常識を疑え」とか「まだ都会で消耗しているの?」とか、一見、あなたに何かを考えさせようとしているように見せて、実際は全くあなたに考える必要性を感じさせないように巧妙に作られているのだ。
ストーリーによって読者が考えなくても読み進められるように設計されている。
なので、ストーリーによって表現されている本は確かに素晴らしい読書体験を提供してくれるが、その中に込められたメッセージの方に注意を払おう。

そして、ストーリーとして分かりにくいからといって、価値がないと判断しないことだ。
私が本に求める価値は、その本特有の視点や新しい考え方である。
ストーリーの精巧さは関係ない。
ストーリーは無いよりは合ったほうが良い程度のものだ。
ストーリーによって具体例が示されていれば、理解も早まるし記憶にも残りやすいので、あるほうが有難い。
全くストーリーのない本は読み続けるのが苦痛になる場合もある。
だからといって、ストーリーが全くない本を無下にして酷評する気は無い。
その中に必要な情報があるのであれば読む価値はあるし、そこから得られるものがあることも理解している。
全く同じ情報の含まれている本が2つあるのであれば、ストーリーによって表現されている方を選ぶかもしれない。
その程度である。

ストーリーがふんだんに含まれた本は売れやすいので、書店の目立つ場所に置かれることになるだろう。
しかしそれと本の価値は必ずしも一致するとは限らないので、さっと中身を見て読む価値があるかどうかを見極めてから読むかどうかを決めよう。
最近では「自己啓発本を読むな」という自己啓発本まで出ている。
自己否定を装ったカモフラージュ戦略である。
私のこの本も自己啓発本と位置づけられてしまう可能性は十分にある。

私は自己啓発本がダメだと言っているわけではない。
自己啓発本の中にも有益で優れた本もある。
私が警戒しろと言っているのは、その自己啓発本があなたに対して提供すると宣言しているタイトルとその中身の品質が一致しておらず、期待を煽るだけ煽っておいて、その内容を実行に移そうと試みても煽られた期待ほどの結果を得られないような本に対してである。
期待を煽るのは本を売るためであって、その煽った期待を巧妙にカモフラージュしながらなんとなくそれっぽいことで煙に巻いていく。
様々な有名人の成功事例を取り出しては
「これによって〇〇さんは大成功を遂げた」
などと無責任に結びつけていく。
サプリメントの「これは個人の感想です」という注意書きが書かれたサプリメントの効能について語る文章よりもタチが悪い。
そうした自己啓発本は、あくまでも著者がそのように考えているという「個人の感想」のレベルでしかないので、そのように明言している自己啓発本の方が、まだ正直で好感が持てる。
なので科学的な研究結果を基に、なるべく客観的で再現性がある程度認められるものかどうかを著者がどのように判断したのかを示しており、そのような研究結果に支えられていない意見に関しては、「これはあくまで著者の意見であり感想である」とそれぞれを明確に切り分けて書かれているような自己啓発本であれば、その内容の真偽や理論の成否を検証することもできるので、読む価値があるかどうかを判断できるという意味で読む意味はある。
しかし読む価値があるかどうかすらも判断ができないような本を読んだところで、ただの時間の無駄である。
何もしていないのに何かを知った気になってしまう錯覚を起こす副作用がある点では、もはや害だ。
そうした自己啓発本にとってみれば、何かを知った気にさせる錯覚というのは副作用ではなく主作用であるのだが。
なので読む価値があるかどうか判断できる本を選び、読んでほしい。
ではどのような本があなたに価値をもたらす本なのだろうか。

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