マガジンのカバー画像

動物ショートショートB

8
tabino.が描いた動物の絵とショートショートの8作品をまとめました。
運営しているクリエイター

記事一覧

何も居ない水槽が好きだった。

何も居ない水槽が好きだった。

ある朝、何かの気配に気付く。
右、左、目が合う。
コポコポと音のする水槽に金魚が居た。
何も居ないはずの水槽に金魚がいる。
買った覚えのない、もらった覚えのない金魚。

一人暮らしで、僕が買う以外もらう以外そこにいるはずの無い金魚の存在。
コポコポと音だけがする水槽で優雅に泳ぐ。
「講義始まっちゃう…」
金魚を残し大学へと急いだ。

「お前、昨日すごかったよなぁ!あんな人変わる?マジ面白かったー!

もっとみる
『猫の時間』

『猫の時間』

忙しい。アレもやらなければいけない。
コレもやらなければいけない。
でももうムリだ。
いっぱいいっぱいだ。

家の中で頭を抱えていた俺はふらふらと玄関を出て階段を降りる。ふと目の前には猫がいる。

前足をじょりじょりと舐めている。
一瞬イラッとしたが、その姿を見ているとなんだか時がゆっくり進むように思えた。

「美味しいですか?前足」
聞くと、ピタと舐めるのを止めコチラを見る。
何言ってんだとでも

もっとみる
私はポメラニアン。

私はポメラニアン。

皆に言われる。
ふわふわだ、と。

私は私を大まかに触ることは出来ない。
私は果たして本当にふわふわなのか。

しかし皆が言う。
ふわふわだ、と。

暖かそうと言うがそうでもない。
雪の日の散歩はほどほどにしてはくれないか。

風を受ける私の身にもなってほしい。
ふわふわであろうがなかろうが、私は私なのだ。

ペンギンになりたい。

ペンギンになりたい。

いや、本当に良かったと思ってるんだよ。
僕はペンギンが好きで好きでたまらなかったのだからね。

見てみたまえこのフォルム、完璧だと思わないか?
ああ、本当に感動しているよ。

しかし中々に難しいものだ。
歩行の様子も観察しなければな。

「何があったんですか…」

研究所の一室で僕が見たものはペンギンと化した所長の姿であった。
所長は施設でペンギンを何羽か飼育していたが、今はその飼育していたペンギ

もっとみる
浜辺さんとワルツくん。

浜辺さんとワルツくん。

とある動物園に一羽のハシビロコウがいる。
名前をワルツという。

「えー!めっちゃ睨んでるじゃん!」
「あれ、腹減ってるんだろうな」
「私なんか悪いことしたかな…」
「迫力すげー!目力すげー!こえー!」

ワルツくんに対し、人々は色々思うようだ。
だが、ワルツくんは実際のところ今、睨んでもいないし腹も減ってないしあなたは悪いことをしていないしそんなにこわくない。

「なぁワルツ、笑顔できねぇ?」

もっとみる
兄さん。

兄さん。

虎は柴犬を兄さんと呼んでいる。
「兄さん、今日もモフモフしてますね」
「お前ほどじゃねぇよ」
関係性はまず、兄弟ではない。
「僕そんなモフモフしてませんよ」
「嘘つくな」
そして、一緒に育ったわけでもない。
「昔から言葉きついですよね」
「お前の冗談ほどじゃねぇんだわ」
ではどういう関係性なのか。
「この動物園に先に兄さんがいて驚きましたよ。僕が一番先に入りだと思ってたんで」
「わんわんコーナーが

もっとみる
意味がなくても。

意味がなくても。

「三歩歩いて、二歩下がるんだよ」
一羽のマガモがハムスター達に何か教えている。
「何で」
「何で」
マガモは足踏みをしながら「運動になる」と言う。
「進まないじゃん」
「進まないじゃん」
マガモは、ぐわぁと鳴いて「そうじゃないんだ」と表情を変えず冷静にハムスター達に話す。
「歩けばいいじゃん」
「歩けばいいじゃん」
マガモは、ぐぅうと唸り「確かに…」と言う。
そう、これは、特に意味のない会話。

もっとみる
『童心②』

『童心②』

久しぶりに実家の裏山を散歩することにした。帰宅の道が分からなくなると嫌だと言ったらポチを連れて行けと言われた。これは俺の散歩ではなくポチの散歩ではないのか。そう思いながら山を歩く。誰もいない。ポチだけだ。そう思うと叫びたくなる。「山、空気うまーっ!!」やまびこが聞こえるわけでもなく、ただ近くにある川のせせらぎのみが聞こえる。すると、一羽のカワセミが飛んできて「お気持ちわかりますよ」と言った。ポチは

もっとみる