坂口安吾『暗い青春』 先行きの見えない不安に悩む貴方に寄り添う

『暗い青春』は、坂口安吾が41歳の時に25歳頃の自身を振り返って書いた作品である。

安吾は青春時代を「暗く、空白なものだった」と振り返る。しかしそれは自身に限ったことではなく、青春時代を過ごす青年たちに共通するものだと主張する。

青年とは、健康的な肉体・精神を持ち、情熱・希望・活力を持ちながらも焦点が定まらない。野心を燃やしても、自身の力不足によって叶わないことを知り失意のどん底に落とされる。野心が大きければ大きいほど、野心からは程遠い状態まで落ちぶれることに強い憧れを抱く。安吾は、こうした「青春の動揺」には「勇気」「自信」が関係しているのではないかと指摘する。
思い切る勇気もなく、根拠のある自信もない。それが、先行きの見えない「暗闇」しか見えない状態につながっていく。

筆者は、安吾の青春についての考え方をとても気に入っている。
筆者も、21~25歳「暗い青春」時代を過ごしたからである。
大学生の頃から、世界で活躍する社会人になりたいという野心をもっていた。実現すべく、勉学・就職・部活・バイトなどあらゆることに情熱を注いだ。晴れて社会人となった時、筆者は「自信」の壁にぶつかった。

初めての業務をすぐに覚えられない。
英語を用いた交渉でコミュニケーションに苦労する。
先輩社員と話す時も気の利いた言葉を返せない。

一つ一つは小さな出来事だが、それが積み重なっていつの間にか「失意のどん底」にいたのである。入社して半年後、休職をすることになった。

休職を開始してから、筆者はとにかく自分の全てを否定したくなった。
特に、「世界で活躍する社会人」からかけ離れた自分になってやると思ったのだ。部屋に引きこもり、昼夜逆転の生活。飽食したり散財したりした。誰とも会話をしなくなった。家族に当たりちらしたこともあった。
それまで規則正しい生活を守り、健康管理・金銭管理に努め、社交的で家族や友人と過ごす時間が大好きだった自分には到底考えられない生活だった。

荒れ果てた生活の中で、筆者が最も苦しんだのは「葛藤」だ。
大好きな会社で大切な仲間と交流したい。でも働きたくない。
友達や家族も一緒に過ごしたい。だが、かつて彼らからのネガティブな態度・言葉に対する怒りを思い出して交流したくない。
もともとは規則正しい生活を送ることが好きだし、そうしたい。でも荒れ果てた生活からうまく抜け出せるのか分からない。やっぱり無理かもしれない。

こうした心の迷いが筆者をますます追い詰めた。社会の一員として、人間として生きることをやめようかと考えたこともあった。明日、明後日、1週間後の自分さえもどうなっているのか分からなかった。お先真っ暗だった
今でも思い出すと、胸が苦しくなる。


しかし、休職開始から8か月後、転機が訪れる。
ようやく、今の生活を変えようという「思い切り」をつけることができたのだ。
主治医からの助言でリワークに行くことを決めた。

それからリワークに10か月通い、人と話すことに喜び・達成感・楽しみを感じる自分がいることに気づいた。筆者と話して楽しいという周囲の声が、自分に少しずつ「自信」をつけた。そして荒れ果てたどん底の生活から、少しずつ身なり、生活態度を整え復活していく過程も、自分に「自信」を与えるきっかけになった。
休職開始から18カ月後、筆者は完全復活して元の部署で大切な仲間と働くことになった。

この経験から、筆者は次の教訓を得た。
思い切る勇気が、先行きの見えない不安から脱出するきっかけを与えてくれる
・小さな喜びや達成感でも、それが積み重なっていくと自信にかわっていく

安吾の、「『青春の動揺』には『勇気』と『自信』が関係しているのではないか」という言葉は、筆者が休職を経験して学んだことそのものを表現してくれている。


筆者がこの作品に出会ったのは復職後、暗い青春時代も過去の話となった頃である。
筆者にとっては、青春時代の出来事を代弁してくれる作品であったが、この作品は悩める若者に限らず、今、自信を持てず未来に対して漠然とした不安を抱えている人たち全てに寄り添う素晴らしい作品だと思う。

坂口安吾「暗い青春」ぜひ読んでみてください。

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