子育てエッセイ : 形の悪くなったバストは母親の誇り(僕の奥さんの言葉)

長女が産まれたばかりの頃、僕は長女の眠っている姿か奥さんに母乳をもらっている姿ばかりを見ていた。時々、オムツを変えるのを手伝ったのと、長女をお風呂に入れるのは僕の担当だった。風呂で滝のような汗をかき、長女を奥さんに渡した後、
自分の身体を洗ったりして出て来ると喉がカラカラで、奥さんにご褒美に缶ビールを1本貰っていた。

赤ちゃんというのは、眠っている姿を見ていても飽きない。ただ眠っているだけではないからだ。
表情を変えたり、眠りながらあくびをしたり、手を動かしたりする。

奥さんに母乳を貰っている時も同じだった。
ある日、奥さんが僕に面白いことを教えてくれた。
と言うよりも、僕が知らなかっただけなのだが、
お母さんの母乳の味はお母さんが食べるものによって変わって来る。同じ味の母乳は出ない。 
母乳は基本は甘いミルクなのだが、お母さんの食べた物により、甘みが増したり、苦味があったり、酸味があったりする。
さらに、右のおっぱいと左のおっぱいでも味見が違う。だから、赤ちゃんが右のおっぱいを飲まなければ、左のおっぱいに変えると飲んだりする。
両方とも飲まなければ、一旦両方とも絞り出して捨てて、たまるのを待って飲ませると美味しそうに飲んだりする。
赤ちゃんにも、ちゃんと好き嫌いがある。

1回、長女が両方のおっぱいを飲もうとしないので
奥さんが、
「こら、好き嫌いはいけません。ちゃんと飲みなさい!」と言って怒った。
すると長女はプクーっと頬を膨らませ、顔を真っ赤にして怒って大声で泣き出した。
赤ちゃんは言葉が分かるということになる。
みんな、赤ちゃんは何も分からないだろうと思って 
好き勝手話しをしているが、赤ちゃんは分かっているということを理解しておいた方がいい。
自分の悪口を言われれば怒っている。親子の信頼関係は赤ちゃんの時から始まっている。

ある時、奥さんは僕にこんなことを言った。
「体質的に母乳が出なければ仕方がないけど、赤ちゃんは母乳で育てるべきだと思う。バストの形が悪くなるからと言って、粉ミルクで赤ちゃんを育てるお母さんがいる。粉ミルクは味がいつも同じだから赤ちゃんがかわいそう、味に飽きてしまうの。そのため病院でしか買えないけれど粉ミルク用の調味料まであるのよ。男のあなたには分からないと思うけど、この子に母乳を飲ませてあげていると、この子を本当に育てているという気持ちになる。私は、
赤ちゃんに自分の母乳を飲ませてあげることが母親としての赤ちゃんへの1番の愛情だとも思っているの。私は、形の悪くなったバストは母親の誇りだと思う。」

お亡くなりになってしまったが、伊丹十三監督の作品にタンポポという映画がある。
ラーメン店の女主人タンポポが山崎努さんや渡辺謙さん演じる周りの人たちの協力を得て最高のラーメンを完成させラーメン店を繁盛させるストーリーだ
この映画には、同時並行で役所広司さん演じるの
白服の男が最高級食材を食べていくストーリーが展開していく。
この白服の男は亡くなる間際にこう言った。
「秋になると猪は自然の山芋しか食べない。だからこの時期の猪の腸の中は自然の山芋だけ。天然の山芋の腸詰めだ。これだけが食べられなかった。」 
映画のエンディング曲が流れるなか、映像はこの映画とまるっきり関係のないものが映し出された。
お母さんが赤ちゃんに母乳をあげている映像だった
赤ちゃんはお母さんの母乳を美味しそうに飲んでいて、お母さんはそんな赤ちゃんを優しい眼差しで見つめている。
伊丹十三監督は、この世で1番のご馳走はお母さんが赤ちゃんに与える母乳であると仰っりたかったのではないだろうか、と思った。





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