子育てエッセイ : 努力は夢中に敵わない 長女が初めて経験した敗北感

僕の長女は本を読むことが大好きだった。幼稚園の
頃から本を読んであげると喜んでいて、小学校に入学すると学校の図書館の本を毎日借りて来て読んでいた。

学校の図書館の本だけでは足りなくて、市営図書館にも通うようになった。とにかく本が大好きな女の子だった。

僕の奥さん保母さんだったこともありピアノが弾ける。休日等に時々弾くことがある。長女はそれを見ていて、私もピアノが弾けるようになりたい、と言った。長女は奥さんに習って、毎日ピアノを練習するようになった。そして、奥さんの知り合いのピアノ教室の先生のところに通うようになった。
だから長女が子どもの頃は、テレビはセーラームーンを見るだけで、家に居る時は学校の勉強をしているか、本を読んでいるか、それともピアノを弾いているかだけだった。

小学校に入学3年生の時に、ピアノの教室の先生に勧められて、ピィティナ ピアノコンペティションに
挑戦することになった。長女のピアノの猛練習が始まった。ピアノ教室では先生に、そして家では
母親について練習した。練習が辛くて泣き出すこともあった。
そして迎えたピティナピアノコンペティションの
予選日、長女は入賞し小さな盾を貰った。
長女は嬉しそうにしていた。

そして翌日から次の地区予選に向けてピアノの猛練習が始まった。
そして迎えた2回目の地区予選。
その時は、最初の予選ほど入賞者出来る人は多くなかった。その代わりに優勝すると、他県で行われる大会に出場でき、そこで優勝すると全国大会に進むことが出来るようになっていた。
男の子2人を含む25人がコンテストに出場した。
僕は3番目にピアノを弾いた女の子の注目した。
ピアノの音色も全てが抜群に上手く、聴衆の人たちの間でどよめきが起きたくらいだった。
結局、その女の子が優勝した。長女は入賞することも出来なかった。
僕たちがコンサートホールの席を経とうとしても、
長女は座ったまま動かなかった。そして下を向いて
大粒の悔し涙を落としていた。長女が初めて経験した敗北感だった。
奥さんが何を言っても長女は聞こうともしなかったので、僕が話した。

「ユリカ、お父さんがこれから話すことをよく聞いて、いいね? 努力は夢中に敵わないという言葉がある。どういう意味か、というと、どんなにそのことを一生懸命努力しても、そのことが好きで好きで仕方なくて、夢中になってやっている人には敵わないということなんだよ。優勝した黄色いかわいいリボンをつけた女の子のことを覚えているね。お父さんはあの女の子がピアノを弾いているところを見ていたけれど、あの女の子はニコニコしながらピアノを楽しそうに嬉しそうに弾いていたよ。あの女の子はピアノを弾くことが好きで好きで仕方がないんだよピアノの練習も辛くないどころか、楽しくて仕方がないんだと思う。そういう人には敵わない。
ユリカは本を読むことが1番好きだろう?1番好きな本を読みながら、自分はどんな学校に行こうか、
どんなことをして生きて行こうか、ゆっくり考えるんだ。ピアノ教室は約束通り高校を卒業するまで通っていいから。お友だちも沢山いるしね。
ユリカ、みんなでご飯を食べて帰ろう。帰りに
本屋さんによって、ユリカが欲しいと言っていた本を買ってあげる。さあ、帰ろう。」

長女は漸く席を経った。長女が大好きなお寿司をみんなで食べ、長女と次女に本を買ってあげて家に帰った。
 
長女は高校3年生のピアノ教室の最後の発表会に出て最後のピアノの演奏をし、ピアノ教室の先生から
記念品と花束を、そして後輩の子たちからプレゼントを貰った。
長女は大学の文学部に進んだ。そして、大学を卒業すると、出版社に就職した。





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