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柊ゆき
2023年5月16日 02:45
ー10年。 長いようで、短いようで、少しは成長できたような、やっぱり何も変わっていないような、振り返れば駆け抜けた日々だった。がむしゃらに、時に荒々しく、夏菜子は目の前の患者に向き合い続けた。 うつ病から復帰して何年かは、職場で過換気症候群に襲われて休ませてもらうことがあったり、朝目覚めたら失声症状が起こっていることがあったりした。看護師よりも負荷の低い仕事が他にたくさんあると分かっていな
2023年3月31日 20:57
苦しくなかった訳ではない。むしろいつも、逃げ出したいほど苦しかった。息をしているのに、溺れて呼吸困難でいるような感覚が常にあった。 夏菜子は小さい頃から「弱い子」だった。 小学生の頃は、数ヶ月に一度は熱を出す子だった。風邪を引いたり扁桃炎を起こしたりインフルエンザに罹患したり、冬場なんかは毎月近くの小児科にかかって点滴を打たれていた。小さな子どもは注射針を見たら泣いてしまうものだが、夏菜
2023年4月5日 01:58
「看護師を辞めようと思います」 面談室には夏菜子と看護師長が向かい合って座っており、看護師長の隣ではいつもの人事スタッフがパソコンと睨めっこをしている。夏菜子が意を決して口にした言葉を、看護師長は呆れたような表情で受け止めた。それが思いつきや投げやりではないことを夏菜子は分かってほしかった。「実はここのところずっと考えていました。看護師の仕事は、私のキャパシティを超えています。私は少しの失敗
2023年4月6日 03:49
看護師を辞めると決意した夜、腹の底から溢れ出る何かが嗚咽となって夏菜子の心を引き裂き、これまで積み上げてきた全てが音を立てて崩れていくのを感じた。 なぜこんなにも泣いているのだろう。 荒い呼吸で酸欠状態の時でもどこか冷静な部分が常にあって、俯瞰して自分の感情と向き合った時、まず夏菜子を襲ってきたのは悔しさだった。やはりまともな人間にはなれなかった。看護師として正社員で働くというただそれだ