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柊ゆき
2023年3月22日 23:32
ー10年間追いかけ続けた夢を、諦める日が来た。 思い返せば長いような短いような10年だった。自分なりに、出来得る精一杯の努力をし尽くしてきた、つもりだった。 でも叶わなかった。夢を諦める日はある日突然、やってきた。「ちょっと多すぎます。大体3ヶ月に1回のペースですよ」 看護師長は渋い顔で何やらメモを覗き込んだ。大きく息を吸ってから、佐藤夏菜子の顔に目を移す。「体調を崩すことは誰にで
2023年3月23日 22:37
夏菜子がこの病院に転職したのはちょうど1年前だ。その前は老人ホームで3年、その前は町医者で2年、その前は別の病院で、その前はまた別の老人ホーム。転々として全部で10年。夏菜子は10年間、看護師として働いてきた。 程度や頻度の差はあれ、これまでの勤務先でも、夏菜子の不調の症状は起こっていた。それはぎっくり腰であったり、扁桃腺が腫れるであったり、蕁麻疹が出るであったり、およそ相関関係がないような
2023年3月31日 20:57
苦しくなかった訳ではない。むしろいつも、逃げ出したいほど苦しかった。息をしているのに、溺れて呼吸困難でいるような感覚が常にあった。 夏菜子は小さい頃から「弱い子」だった。 小学生の頃は、数ヶ月に一度は熱を出す子だった。風邪を引いたり扁桃炎を起こしたりインフルエンザに罹患したり、冬場なんかは毎月近くの小児科にかかって点滴を打たれていた。小さな子どもは注射針を見たら泣いてしまうものだが、夏菜
2023年4月5日 01:58
「看護師を辞めようと思います」 面談室には夏菜子と看護師長が向かい合って座っており、看護師長の隣ではいつもの人事スタッフがパソコンと睨めっこをしている。夏菜子が意を決して口にした言葉を、看護師長は呆れたような表情で受け止めた。それが思いつきや投げやりではないことを夏菜子は分かってほしかった。「実はここのところずっと考えていました。看護師の仕事は、私のキャパシティを超えています。私は少しの失敗
2023年4月6日 03:49
看護師を辞めると決意した夜、腹の底から溢れ出る何かが嗚咽となって夏菜子の心を引き裂き、これまで積み上げてきた全てが音を立てて崩れていくのを感じた。 なぜこんなにも泣いているのだろう。 荒い呼吸で酸欠状態の時でもどこか冷静な部分が常にあって、俯瞰して自分の感情と向き合った時、まず夏菜子を襲ってきたのは悔しさだった。やはりまともな人間にはなれなかった。看護師として正社員で働くというただそれだ