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【まとめ】光文社の小説を読んでくださったnote

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光文社 文芸編集部の小説を読んでくださった記事を集めたマガジンです。読了・ご感想ありがとうございます。
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命を繋がりを強く感じた『リラの花咲くけものみち』

北の大地で獣医師を目指す、といえば古くは『動物のお医者さん』 でもって最近は『銀の匙』。とそれぞれに夢中になって読みました。あ、銀の匙は酪農の話だからちょっと違うか… 藤岡陽子さんご自身が看護婦なので、彼女の小説には様々な形での命との向き合いが出てきます。今回は、口をきくことが出来ない動物たちの命を扱った小説だったということで、動物好きにはたまらない小説になっていました。もうね、誕生も、死も、それに向かって懸命に努力する人間たちもどれも尊く愛おしい。 ここまでの「命」を描

【 読書レビュー 】リラの花咲くけものみち

リラの花咲くけものみち/藤岡陽子著 光文社 北海道が舞台で、全8章のタイトルにはそれぞれにナナカマドやラベンダー、ガーベラなど植物の名前がついていて花言葉もエッセンスになっている。 主人公の聡里は、北海道江別市にある北農大学に入学し、寮生活を始める。家庭の事情で小学校6年生から3年間不登校になり、高校もチャレンジスクールに通っていたため、人と関わることに慣れていない聡里。不登校になった原因は、「飼い犬のパールを継母から守るため」という子供らしい狭い思い込みからくる行動だっ

岩井圭也『暗い引力』

デビュー時から、頭一つ抜けた実力派、という感じだった著者。 特に『水よ踊れ』と『最後の鑑定人』が好きなんですけど(『完全なる白銀』が未読。これは期待している一作)、最新刊『暗い引力』を読んでのライトな感想を。 文章に不思議な湿度というか、言ってみれば色気のようなものがある書き手だと思っていました。そして、この本(正確には短編集)では、阿刀田高さんのそれに似てるな、と唐突に浮かびまして。阿刀田作品でも、結構ダークな結末なものが印象的だったりしますが、それを彷彿とさせる六編です

『暗い引力』

新刊が出たと投稿を見たので その足で、本屋さんへ。 そして、すぐ読み始めました。 岩井先生の作品で、1番好きなのは、 おぼろさん。すごく優しさに溢れた作品です。 イメージ的に、優しい物語を書かれる作家さんだったので、どれぐらいダークなのかなと思い、楽しみに読み始めました。 元々性根が腐っている人、腐ってはいないけど歪んでいる人、隠れ性根が腐っている人と様々でした(笑) イヤミスではないのです。 読み終わり後に気分が悪くもならなければ、イライラもしない。 でも、精気を吸い

『暗い引力』岩井 圭也

「海の子」 「僕はエスパーじゃない」 「捏造カンパニー」 「極楽」 「蟻の牙」 「堕ちる」 6話収録の短編集。 それぞれ独立した作品だが、全編に共通して不穏な気配が漂っている。 人は誰でも嘘をつく。 ひとつの嘘が新たな嘘を呼び、はずみを付けながらどんどん悪い方へと転がりだす。 まさに暗い引力に導かれてでもいるように。 全話陰鬱で後味が悪いが、借金取りから逃げる為に逃走計画を立て認知症患者になり切る女性を描いた「極楽」はオチまで含め秀逸。 岩井圭也さんは長編も良いが短編

読書感想『ツミデミック』一穂ミチ

タイトル通り、罪を題材にした短編集。 夜の街で客引きをしてる大学生、再就職先の見つからない妻子持ちの男、高校生の娘の妊娠に戸惑う父、気づけば高校にある願掛けの木に立ち尽くしていた少女、ツイッターで知り合って待ち合わせをした人々、フードデリバリーにはまった主婦…違った主人公の短編6編が収録されている。 それぞれの話に繋がりはないが、時代背景はまさに今、コロナに少なからず翻弄された人々がモチーフの物が多い。 基本的に出てくる彼らは、悪人とも善人とも言い切れない狡さも優しさも持ち合

【読書感想文】一穂ミチ『ツミデミック』

6つの哀しい短編から成る 人生を考えさせられる一冊でした。 おそらくパンデミックを文字って ツミデミック。 罪と罰のツミなのか 人生詰んでるのそれなのか…。 コロナ禍に巻き込まれる人達や 何をやっても上手くいかなくなる人達を 容易く想像出来て そう言えば自分もそうだったと…。 2回転職して どちらからも必要とされてない気がして 空回って、焦って。 足りないピースを探し回って 失った場所に無理矢理 違うピースを埋め込もうと 踠けば踠くほど 悪い方に転がるっていう…。 人生って何

【読書感想文】一穂ミチ『ツミデミック』(その2)

「祝福の歌」 親になる事 親でいる事 産む事、産まない事 出世の秘密 テーマがシビアなので 自分に照らし合わせることくらいしか 感想が思い浮かばず…。 今となっては遥か昔になるが 自分が親になって初めて 親のありがたみをしみじみ 感じたので 私としては親となって良かった と思っている。 子供を育てると言うより 教えられ、考えさせられるばかり だったけれど。 子供達は成人したが 育て上げたと言える程の事は していない気もする。 50歳の達郎が 高校生の娘の妊娠に悩み 自ら

✓リカバリー・カバヒコ/青山美智子

▽あらすじ 新築分譲マンション・アドヴァンス・ヒル。 近くの公園にある古びたカバの遊具・カバヒコには、 自分の治したい部分と同じ部分を触ると 回復するという都市伝説が。 アドヴァンス・ヒルの住人は、 悩みをカバヒコに打ち明ける。 成績不振の高校生、ママ友と馴染めない元アパレル店員、 駅伝が嫌いな小学生、ストレスから休職中の女性、 母との関係がこじれたままの雑誌編集長。 みんなの痛みに優しく寄り添う。 ▽印象に残った文章 ▽感想 どんなに辛くてもどんなに苦しくても、 そこか

青山美智子「リカバリー・カバヒコ」

公園に置かれているカバのアニマルライド。「自分の身体の治したいところと同じ場所を擦ると、治る」という伝説がある「リカパリー・カバヒコ」だ。ちょっとどうかなと思う設定だが、これが絶妙。実写のドラマとかになると途端に気持ちが冷めていってしまいそうな設定だが、小説ならではの魔法で実に共感できる。すごくいい、このファンタジー。 この「リカバリー・カバヒコ」をめぐる連作短編集だが、特に最初の作品にものすごく共感した。 中学時代はけっこう勉強ができた主人公、しかし優秀な生徒集まる高校に

リカバリー・カバヒコを読んで

私は基本的にネガティブです。 前日に仕事の準備を整えても、不安。 先のことを考えて不安。 自信がなくて不安。 相手にこう思われたかかもと考えて不安。 ・・・あげればキリがない。 ひどい時は眠れなくなります。 そんな私がこの本を読んで、1番心に残ったのが 不安は想像力! そんな風に捉えたことは今まで一度もなかったので、とても驚きました。 そうかこの想像力を自分の強みにすればいいのか。 不安で深く落ちそうになったときに、思い出したい言葉が見つかってうれしくなりました。

シニカルな言葉や棘のある言葉を口にする人とは距離を置こう。例え友人でも。近所にリカバリーカバヒコ見つけたいな。

知らないでいられることの貧しさ/高知東生『土竜』

以前から読者の感想ツイートを目にしていて楽しみにしていた高知東生著『土竜』を読む。その中の「シクラメン」が衝撃だった。 昭和の高知の匂い、土地の記憶、性と暴力、戦争や空襲といった歴史背景…それらが何層にも絡みあって、物語/小説を読むことの面白さが更新されるような読書体験だったな 過去も歴史も戦争も知らない、その人の事情や背景も知らない、なにも知らず想像もできずに蔑んで嗤ってしまえることの貧しさ、愚かさ 嘲笑・侮蔑には都合のいい対象、この世界の多数はそういう存在によって生かさ

【 読書レビュー 】答えは市役所の3階に

答えは市役所の3階に/辻堂ゆめ著 光文社 「2020の心の相談室」と副題があります。 突然のコロナ禍で生活環境がガラリと変わり、自粛生活を余儀なくされた日々。記憶もまだそれほど遠くなく、そして未だに完全にはコロナ前の生活に戻ることはなく、インフルエンザ同様いつ罹ってもおかしくない状況は続いている。 2020年のコロナ発生から人々が「交流」することが悪とされるよう状況下で追い込まれた人々。医療従事者、飲食店経営者、妊婦さん、学生、等々…もちろんすべての人達に影響はあったが