よつば

はじめまして。 255文字で本の感想を書いています。 選書の参考になれば嬉しいです。 …

よつば

はじめまして。 255文字で本の感想を書いています。 選書の参考になれば嬉しいです。 https://bookmark-clover.com/ 〝Amazonアソシエイト・プログラムの参加者〟

最近の記事

『赤の女王の殺人』麻根 重次

第16回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞受賞作。 物語の舞台は長野県松本市。 松本市役所の市民相談室に勤務する六原あずさと刑事の夫・具樹が中心となり事件を追う。 密室からの転落死、施錠された墓の中に一つ増えた骨壷、高齢男性ばかりを狙うストーカー。 一見なんの関係もなさそうな出来事が、終盤で一気に回収される。 なんとなく怪しい人物は最初から見当が付くものの、どんな方法で密室殺人が起きたのか気になり一気読み。 探偵気取りのセクハラ上司の推理に一応耳を傾けたが、真相は意外

    • 『家族解散まで千キロメートル』浅倉 秋成

      『六人の嘘つきな大学生』でハマった浅倉さん。 今回のテーマはズバリ家族。 事件の発端は引っ越し準備中に倉庫で発見された謎の御神体。 どうやらこの御神体、青森の神社から盗まれたものらしい。 家族解散する予定が一転、一致団結し御神体を返却する為の長距離家族ドライブが始まる。 途中まではロードムービーのような味わいだが、事件の真相が見えて来ると家族の物語だと分かる。 家族とはこうあるべき、そんな伝統的な価値観に縛られていた事に気付かされる。 エンタメミステリーを期待していたの

      • 『ダイヤモンドの原石たちへ』湊 かなえ

        湊さんのデビュー15周年記念作品。 冒頭の池田理代子さんとの対談から興味深く読んだ。 私も『ベルサイユのばら』は全巻購入して読んでいたけれど、単純に好きとか面白かったという感想しか記憶にない。 湊さんが登場人物の台詞に感銘を受け物語の深い部分まで読み解いている事に、やはり作家になる人は違うなと感じ入った。 他には全小説作品紹介やロングインタビュー、高校生の為の小説甲子園、短編小説2編も収録されていて盛りだくさん。 全編を通して私がイメージしていた通り自分をしっかり持っ

        • 『マガツキ』神永 学

          「それ」「友だち」「欲しい」「羽化」「誘う」「嫉妬」「真相」 7話の短編とエピローグで構成されたホラーミステリ。 SF要素も盛り込まれているが難解さはなく、久々ホラーの面白さを感じる作品だった。 連作短編の形ではあるものの、1話完結の短編としても楽しめる。 特に四話目の「羽化」はインパクト十分。 美麗という名前を持ちながら、自分の醜い容姿に悩む女子生徒が無料モニターキャンペーンに応募した事で起きた悲劇。 嗚呼恐ろしい。 続く第五話「誘う」も衝撃的。 まさに天国から地獄

        『赤の女王の殺人』麻根 重次

          『十字路』五十嵐 貴久

          『誘拐』『贖い』に続く星野警部シリーズ第三弾。 激しい雨が降る夜、帰宅途中の男性教師・織川が刺殺され死亡。 事件未解決のまま一年が経過し、今度はトリカブトの毒入りチョコレートで、バー経営の椎野が殺される。 二つの事件は一見なんの関係もなさそうだが、唯一の共通点として其々の娘と息子が天才的な絵の才能の持ち主である事が判明する。 この時点で犯人予想は付くが、動機は一向に見えて来ない。 織川の義娘・詩音と椎野の息子・流夏。 二人が味わって来た苦痛と絶望を知ると鬼畜とも思え

          『十字路』五十嵐 貴久

          『ゴミの王国』朝倉 宏景

          読み始めて真っ先に感じたのはゴミ清掃員の方々への感謝。 今日からゴミを減らす事を心掛けようと思った。 本作の主人公は、ゴミ清掃職員として働く日下部朝陽。 朝陽は超潔癖症で「片付けたい男」。 だが隣の部屋に住む佐野友笑は「ゴミを拾って来る女」。 部屋はゴミで溢れかえり足の踏み場もない。 そんな真逆な二人がゴミをきっかけに自分自身を見つめ直していく。 外からは窺い知れない二人の生い立ちと苦悩を知ると、簡単に潔癖、ガサツとは言えなくなる。 少しずつ歩み寄り、距離が近づく二人

          『ゴミの王国』朝倉 宏景

          『夫恋殺 つまごいごろし』魚崎 依知子

          第8回カクヨムWeb小説コンテスト〈ホラー部門〉特別賞受賞作。 ホラーだが全く恐怖を感じなかった。 主人公はかけつぎ職人の澪子。 彼女は人に憑いている「障り」が見え、消す事が出来る能力の持ち主。 刑事の夫・真志は超多忙な日々を送る。 孤独な生活に嫌気が差した澪子は離婚を申し入れたが夫に離婚の意思はない。 そんな中、初恋相手である幼馴染の泰生が現れ澪子争奪戦が始まる。 時を同じくして不審な事件発生、ユキエと名乗る幽霊登場とホラー的な雰囲気を醸し出すが、どうにも中途半端

          『夫恋殺 つまごいごろし』魚崎 依知子

          『カワイソウ、って言ってあげよっかw』夏原 エヰジ

          最高だった。 時間を忘れて一気読み。 大学時代からの仲良し5人組。 30歳になった彼女達の女子会は一見楽しそうだが、心の中では嫌悪や嫉妬などのドス黒い感情が渦巻いている。 「繊細さん」「バリキャリ」「専業主婦」「インフルエンサー」「漫画家」 それぞれが置かれた環境の中で生きづらさを訴えている。 繊細なテーマに、ミステリ要素が合わさり、エッジが効いた文章で先へ先へと読まされる。 彼女達に次々襲い掛かる魔の手。 この復讐の動機は一体? 合間に挟まれる犯人と神父の語りが核

          『カワイソウ、って言ってあげよっかw』夏原 エヰジ

          『遠い町できみは』高遠 ちとせ

          第12回ポプラ社小説新人賞特別賞受賞作。 主人公の鳴海翔は母を亡くし、祖母の家に預けられた。 そこで出会ったのは母親からネグレクトを受けている大也と、義父から日常的に暴力を受けている美波。 まだ小学6年生の3人に対し過酷とも思える現実だ。 ありがちな設定ではあるものの、彼らの日常にサーフィンが取り入れられている事で物語に深みが増していた。 凪の日もあれば荒れ狂う大波の日もある。 サーフボードを操る彼らと、日々の困難を乗り越えていく姿がオーバーラップして胸が熱くなった

          『遠い町できみは』高遠 ちとせ

          『禁断の罠』アンソロジー

          「ヤツデの一家/新川帆立」 「大代行時代/結城真一郎」 「妻貝朋希を誰も知らない/斜線堂有紀」 「供米/米澤穂信」 「ハングマン/中山七里」 「ミステリ作家とその弟子/有栖川有栖」 6話収録の短編集。 一番インパクトがあったのは新川作品。 不器量な長女と美男美女の兄妹が織り成す歪な三角関係が描かれる。 長女の視点で進行しイヤミス感満載。 完璧だと思っていた計画は崩れ落ち、悲哀を感じるラスト。 結城作品も良かった。 伏線に全く気付かずしてやられた。 斜線堂作品は実際に起き

          『禁断の罠』アンソロジー

          『噓があふれた世界で』アンソロジー

          「かわうそをかぶる/浅倉秋成」 「まぶしさと悪意/大前粟生」 「霊感インテグレーション/新名智」 「ヤリモク/結城真一郎」 「あなたに見合う神さまを/佐原ひかり」 「タイムシートを吹かせ/石田夏穂」 「君がため春の野に/杉井光」 嘘をテーマに描いた7話収録の短編集。 杉井光さん以外は皆さん平成生まれという事もあってか、VTuberや動画配信、マッチングアプリ、ユーチューバーなど今時のコンテンツが目白押しで、文章に勢いを感じた。 どの短編も個性的で楽しめたが、お気に入りは

          『噓があふれた世界で』アンソロジー

          『-196℃のゆりかご』藤ノ木 優

          本作の主人公、18歳のつむぎは幼い頃に両親を亡くし、義母の奈緒と二人暮らし。 義母はパニック障害の持病を抱えており、つむぎは家の中でも絶えず気を張って生活している。 互いに他人行儀で、家庭の温かさは微塵も感じられない。 ある日、義母の奈緒が倒れ、病院へ駆けつけたつむぎに明かされた真実は残酷だ。 タイトルのー196℃は凍結胚を保つ為の温度で本作の鍵となる。 性暴力による望まぬ妊娠もあれば、妊娠を切望する女性もいる。 不妊治療に一縷の望みを託す、切なる思いが伝わって来た。

          『-196℃のゆりかご』藤ノ木 優

          『定食屋「雑」』原田 ひ香

          期待より遥かに良かった。 「コロッケ」「トンカツ」「から揚げ」 「ハムカツ」「カレー」「握り飯」 6話収録の連作短編集だが長編小説のような味わい。 料理の描写もさることながら、本作では登場人物の心理描写が秀逸。 突然、夫から離婚を切り出された主人公・沙也加が、偵察を目的に働き始めた定食屋「雑」での様子が逐一目に浮かぶ。 沙也加、店主のぞうさん、常連客の高津さん、様々な事情を抱えながらも、皆が懸命に生きている。 『遠くの親類より近くの他人』とは良く言ったもので、情の深さ

          『定食屋「雑」』原田 ひ香

          『70代高齢女子 今日も元気で行ってきます。』凛@高齢女子

          70代でTwitterを始めた凛@高齢女子こと、一凛(にのまえ りん)さんのデビュー作。 60代後半で動画編集を開始、70歳を過ぎて文章を書き始める。 Twitter(現X)でアカウントを開設とアクティブに活動中。 と書くと、ただの元気な高齢者のようだが、脳梗塞で倒れた夫の介護をし、ご自身も交通事故の影響で脚が不自由になり杖が手放せない状況。 文中から哀しみや切なさも感じ取れるが、それ以上に人生を謳歌したい気持ちが溢れていて元気を貰える。 凛さんに自分の母親の姿を重ね

          『70代高齢女子 今日も元気で行ってきます。』凛@高齢女子

          『燃える氷華』斎堂 琴湖

          第27回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。 主人公は大宮署の刑事・蝶野未希51歳。 別居中の夫・隼人は交通課勤務。 二人の間には息子がいたが何者かに冷蔵庫に閉じ込められ死亡。 犯人が逮捕されないまま17年の月日が流れた。 そして起きたドライアイス連続殺人事件。 両者の間に何らかの関係があるのは確実だが犯人像はなかなか見えて来ない。 いくつもの要素が複雑に絡み合い、誰が誰を操っているのか知りたくて一気読み。 終盤は怒涛の展開で二度三度と衝撃を受けた。 ただ劇画調の

          『燃える氷華』斎堂 琴湖

          『こまどりたちが歌うなら』寺地 はるな

          物語の舞台は製菓会社『吉成製菓』。 主人公の茉子は前職の人間関係に疲れ果て、親戚の伸吾が社長を務めるこの会社に転職して来る。 この茉子が強い。 入社早々、サービス残業に物申し、社内の人間関係に声を上げる。 彼女の意見は正論で、本来であれば改めなければいけない所だ。 だがそれがスムーズにいかない所が会社という場所。 合間に挟まれる甘くて美味しそうな和菓子の描写とは裏腹に、一筋縄ではいかない人間関係の苦さが描かれる。 理不尽なルールを正し、あるべき姿にする事の難しさを思

          『こまどりたちが歌うなら』寺地 はるな