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エッセイ

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どうでもいいような、だけどあるとちょっとウレシい毎日のことです。
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#本好き

ちいさな旅のこと #3 本のこと

ちいさな旅のこと #3 本のこと

街を歩き回りながら、ふと足を止めてしまうのは結局いつも同じ場所で、それは本屋である。軒先に並ぶ古本のワゴン。ふらふらと吸い寄せられてゆく。旅先で本を買うなんて、本来はやってはいけない。旅はいかに荷物を軽く、身軽でいられるかということが重要なのであって、本などという重くてかさばるものを増やしてどうする、とわたしの頭はちゃんと分かっている。でも、気づけば右手は、本を棚から抜き取ってレジへとせっせと運ん

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本のある島

本のある島

冬の日、休日に出掛けた夕刻、チラチラと雪が降り始めた。辺りは暗くなりかけているしもう帰ろうかと迷いながらも、地下鉄の出入り口を通り過ぎ、そのまま近くの蔦屋書店に向かった。暗がりの中に、ぼおっと店内のオレンジのあかりが発光している。わたしは、本のある場所に行きたかった。

本屋さんをうろつくことを、「本屋パトロール」と呼んでいる。これは特に、大型の書店を見回りするときに使う表現。決して、むつかしい顔

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せかいのえほん

せかいのえほん

「せかいのえほん」は、青く丸いマークがついている棚にあります。
「うみべのまちで」という絵本を手に取り読みました。近くでは、少女がしゃがみ込んで本を読んでいます。シンケンです。紫色のワンピースを着て、紫色のカチューシャをつけていました。
「おかあさん、みるくのはんたいはな~んだ」という声が、部屋の中に響きました。「く・る・み、でした〜」と続けて聞こえてきたので、わたしは心の中で「み・る・く、く・る

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お雑煮

お雑煮

 元日の朝ごはんにはお雑煮を食べます。具は丸もちと、水菜だけ。お餅をトースターで焼いている間に、水菜をざくざく切ってすまし汁をつくります。透き通ったつゆの中に、白と緑、そのシンプルさが気に入っています。お餅のふくれたところにつゆがしみるとふやふやになるので、そこから食べます。ふやふやには水菜がひっついてくるのでおいしく、つゆを飲み干そうとするとき、お椀の底に溜まっているふやふやもおいしいのです。三

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