マガジンのカバー画像

どうしても生きてる │ 朝井リョウ

8
歩き続けるのは前に進みたいからではない。ただ止まれないから。それだけなのに。デビューから10年 。進化し続ける著者の最高到達点。死んでしまいたい、と思うとき、そこに明確な理由はな… もっと読む
運営しているクリエイター

#どうしても生きてる

どうしても生きてる|健やかな論理 1|朝井リョウ

どうしても生きてる|健やかな論理 1|朝井リョウ

 まただ。

 表情が変わったことがバレないように、私は顔の筋肉に力を込める。

「やっぱな、自殺じゃないんだよこんなの。わかってたことじゃん」

 左隣で、そのままごっそりと埋もれていくんじゃないかと思うくらいソファに全身を預けている恭平(きょうへい)が、嬉しそうに呟いている。恭平はドラマを観ながら携帯に文章を打ち込みつつ、たまに、思い出したように体幹トレーニングらしき動作を始めたりもする。そん

もっとみる
どうしても生きてる|健やかな論理 2|朝井リョウ

どうしても生きてる|健やかな論理 2|朝井リョウ

ゆーじ@田舎移住&仮想通貨ブログ @YUJIYUJIYUJI 2月18日

スポンサーしてもらってるモリケンさん(@ken_mori_beyond)から教えてもらったゲームアプリ、記事書きの気分転換にと始めたんだけどやばい……タスクいっぱいあるのにやっちゃう……ポケモンGO以来のドハマりの予感……もう少し遊びこんでから攻略ブログでも書こっかな(仕事しろ)

 21日午後4時40分ごろ、○○市××の

もっとみる
どうしても生きてる|健やかな論理 3|朝井リョウ

どうしても生きてる|健やかな論理 3|朝井リョウ

なつきたかはし @natsuki___TKHS 9月26日

今日あやと撮った動画まじウケたけどたぶん乗せたら怒られるやつっぽいからやめとく笑 見たい人いいねしといて学校で見せるわ笑 てかDAMやったらアニマルボーイズの新曲入っとったー!!!

 27日午前3時半ごろ、○○県××市△△町の15階建てマンションの住民から「音がしたので見てみると、女の子が倒れていた」と110番通報があった。○○県警×

もっとみる
どうしても生きてる|健やかな論理 4|朝井リョウ

どうしても生きてる|健やかな論理 4|朝井リョウ

齋藤 @saito_saito_saito 11月24日

帰りにデパ地下寄ったら軽率に財布の紐緩んだ。先輩からもらった酒もあるし、ちょっと豪華な晩酌でもしようかな。

 JR○○線で人身事故 27歳の男性会社員、ホームから飛び込み死亡

 24日午後7時ごろ、△△県××市□□町のJR○○駅で、××市の会社員男性(27)が回送列車にひかれ、死亡した。所持品から身元が判明した。

 ××署によると、

もっとみる
デビューから10年。朝井リョウ最新作『どうしても生きてる』が本日発売

デビューから10年。朝井リョウ最新作『どうしても生きてる』が本日発売

進化し続ける著者の最高到達点。累計69万部突破の鮮烈なデビュー作『桐島、部活やめるってよ』、82万部突破の直木賞受賞作『何者』、発売即大重版の27万部突破『世にも奇妙な君物語』など次々とヒット作品を送り出す朝井リョウさん、その最新作『どうしても生きてる』が、本日10月10日発売開始となりました。

紙書籍はこちらから
電子書籍はこちらから
オーディオブックはこちらから

本文中の言葉に触れることで

もっとみる
どうしても生きてる|七分二十四秒めへ 1|朝井リョウ

どうしても生きてる|七分二十四秒めへ 1|朝井リョウ

 谷沢依里子(やざわよりこ)はハサミを差し出しながら、木之下佳恵(きのしたよしえ)のことを思い出していた。

「えっ、あ、ありがとうございます」

 隣のデスクの永野明日美(ながのあすみ)は、戸惑いながらもそのハサミを受け取った。自分が探していたものがどうしてバレているのか、不思議に思っているのだろう。

「左利き用のって、備品にないんだよね」

 依里子は、指先に残るハサミの刃の冷たさを擦り取り

もっとみる
どうしても生きてる|七分二十四秒めへ 2|朝井リョウ

どうしても生きてる|七分二十四秒めへ 2|朝井リョウ

 自動車教習の学校に通っていたころ、教官と折り合いが悪く、卒業試験で不合格を言い渡されたことがある。そのときは、町を歩きながら、目に映る人間を自動的に二つのグループに分けていた。

 あの人は車を運転しているから免許を持っている、あの人は学生服姿だからきっと免許を持っていない。そんな基準で人を振り分けたことはそれまでなかったので、自分の中の変化に、依里子は当時とても驚いた。

「あの、谷沢さん」

もっとみる
どうしても生きてる|七分二十四秒めへ 3|朝井リョウ

どうしても生きてる|七分二十四秒めへ 3|朝井リョウ

「谷沢さん」

 すべての片付けを終え、会社を出ようとしたとき、明日美から声をかけられた。

「ありがとうございました」

 明日美はそう言うと、依里子に小さな袋を渡した。「ちょっとの間でしたけど、お礼です」取り出すと、中に入っていたのは、携帯電話のモバイルバッテリーだった。

「実は私、行きの電車、最近ずっと同じで」

 思わぬ告白に、依里子は一瞬、動揺する。

「谷沢さん、いつも、動画観てます

もっとみる