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Re:便利屋花業 ⒈庭のメンテナンス 連載恋愛小説 目次 全15話 完結済み リンク有

酔いにまかせて関係を持ってしまった経験は何度かあれど、今度ばかりは相手がまずい。
「まどかさん、聞いてる?」

やたらと話しかけてくるが、こっちはそれどころじゃない。
「酒を完全に抜いてから、オレとすること。わかった?」

これっきりにするつもりはないという意思表示らしい。
首を横に振ったと受け取られたのか、両手で頭を固定される。
これが腹が立つくらいに上手いキスで、まどかは思わず頭突きを食らわしてしまった。

***

「この隠れドSが!」
本上綾がきょとんと振り返った。
普段こき使っている年下男に好きにされてしまったとは、認めたくない。

「何かありました?」
「あー、あったような、なかったような…」
昨日の今日で誘われているこの状況を、どうすべきか。
とぼけるしかないかな。

以前、造園したお宅のメンテナンス日。
相棒の沢口慶は別件で不在につき、今現在ダントツに気まずい男が助っ人に入る流れに。

「たいした作業はないと思うから、私らふたりでいいよ」
「樹木の剪定せんていありますよね。あと、ミミズとか出たら?」

痛いところを突いてくる。
虫の処理ならできますよー、と可憐な見ための綾がにっこり。
そうだった。彼女は小学生時代、昆虫採集にいそしんでいた強者。

救世主をハグして喜んでいたら、秋葉さとるが目の前で車のキーを揺らしてくる。
事務所のバンを廃車にして以来、まどかは所長に運転を禁じられているのだ。
短気かつ大ざっぱだと、こういうこともある。

***

完成したときも感激したが、季節がめぐるごとに美しく変化していくさまが想像以上だ。
そう語る庭の主人と、ガーデニング談議に花が咲く。
「2周目入ると、おもしろいですよ」

1年草ではなく多年草を中心に植えているので、毎年決まったシーズンに決まった花が咲く。
そのときめきは、味わった人でないとわからない。

彼女の好きなパンパスグラス(西洋ススキ)がしっかり根づき、みごとな株になっていた。
冬に向けて、霜よけのマルチを敷いておく。

「脚立とって、沢口くん」
変な間があったので見上げると、秋葉だった。
「ナチュラルにまちがえましたね、今」
「ごめん。ボケてた」

屋根にかかっている枝を切り落とせば、一段落だ。
「それ、のぼる気ですか」
「そうだけど、なに?あ、押さえてて」

「大丈夫なんですか、二日酔い」
「なったことない」
秋葉は釈然としない顔をしている。

***

アフタヌーンティーばりのお茶菓子が用意してあり、綾とふたりで小躍りする。
名残の秋バラが甘く香るテラスで、お茶とは。
「このローズヒップティー、自家製かもです」と綾。
「マジでか」

目をつけていた抹茶タルトを秋葉のヤツが食した件で、ひともんちゃくあった。
「先輩の好物は残しとくもんだろ?」
「まどかさんの好み知らないんで」
「は?何その態度」

ふたりのわちゃわちゃに癒やされると、綾が口もとを覆う。
秋葉を殴ろうと腕にしがみついた格好になっていて、まどかはあわてて手をどけた。

***

疲れたのか、帰りは綾が居眠りを始めた。
「みてー。肩にこてん、て。かわいすぎか」

「なんで助手席じゃないわけ。避けてんの」
いきなりのタメ口で、ぶっこんでくる。
「既読スルーもわざとらしいし」

口調だけでなく、まとう空気までガラリと変わった。
「もしや二重人格…」
「何?」
いつのまにやら形勢が逆転している。

まどかは、昔から恋愛感情がよく理解できない。
そのせいで、恋人は長続きしないし、必ず去っていく。

だから、秋葉がゴキゲンななめな理由も、さっぱりわからなかった。
「昨日のことだったら、謝ります。よく覚えてないけども」
「いくら泥酔しても、記憶がとんだことはないって、自慢してたけど?」
調子に乗っていたおのれが恨めしい。


(つづく)
▷次回、第2話「まどか、後輩に脱がされる」の巻。

*以前(2023年8月)公開していた作品です。
加筆・修正し、分割して再掲します。









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