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Re:便利屋花業 ⒔別れの気配 恋愛小説

今まで、植物園デートなんて気の利いたことを考えてくれた人は、誰ひとりいなかった。
しかも、山野草コレクションで名高い、マニア垂涎すいぜんの聖地。
多幸感に突き動かされ、まどかは秋葉の腕に飛びつく。

「さとるの好きなジャンルって、何?今度はそれにつきあう」
「蜂谷まどか」
「マニアックなのでもいいよ」
「マドカ・ハチヤ」

「家電好きなら展示会とか?んー、そういうのって一般客OKだっけ」
さては鉄オタも兼任しているだろうと、旅行を思いつく。
「蜂谷まどかと温泉」
「下心ダダ漏れの提案はヤメロ」
目を合わせて、大笑いする。

***

園内ショップで、秋葉がみつばちのキーホルダーを買おうとするので、
まどかは飛びすさって逃げた。
「それ買ったらころすから、まじで」
「何?前に誰かにもらった?」
鼻が利くところが、油断ならない。

いたいけな幼稚園児が、結婚すると決めていた幼馴染みにリアルすぎるハチのおもちゃを渡され、大泣きしたのだ。とんだ誕生日プレゼントだ。
それ以来、虫がダメになったのである。

***

代わりに、はちみつジェラートを買って食べた。
ほんのり甘くて、全然くどくない。
異常なくらいに楽しくて、ふと不安になる。

この関係も、これまでと同じように終わりを迎えるのだろうか。
身も心も捧げた相手に突き落とされ、好きを見失った。
この浮かれた感じも、裏を返せばとてつもなく不安定なのだ。

「ん?知覚過敏?」
のぞき込まれるだけで、きゅーっと胸が苦しくなった。
背伸びして頬ずりすると、猫みたいな甘えかただと評される。

「今のうちに、堪能しとけ?」
「塩対応モードもあんの?」
まどかは、あいまいに笑っておいた。

(つづく)
▷次回、第14話「おたずね者・蜂谷まどか」の巻。





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