Re:便利屋花業 ⒌心の荷物 恋愛小説
次に目を開けたときには、ベッドに寝かしつけられていた。
どなられている夢が真に迫っていて、まどかは無意識にあたりを確認した。
落ち着こうと、何度もつばを飲み込む。
「役立たずは死ねって」
ベッドの端に腰かけ、彼は長ったらしい話を聞いてくれる。
「いったん下ろそう」
「え…」
「心の荷物」
どうしようもないことは、どうにかしようとしなくてもいい。
悪意から離れて正解だと、秋葉はまどかにタオルを手渡す。
顔が涙でぐしょぐしょだったことに、まどかはそこで気づいた。
情緒不安定すぎて、自分で引く。
***
「はー、すごいなあ。秋葉って大人だね」
前職でのいざこざをいつまでも引きずっているのが、恥ずかしい。
魔法のように力みが消えて、素直に笑えた。
「今日はつきあってくれてありがとう。もうウザ絡みしないから、あんしん…」
頭を支えられ、唇で口をこじ開けられたかと思うと、舌を強く吸われた。
「えー…と…」
「大人じゃない」
彼がネクタイをむしり取るしぐさに、見とれてしまった。
よっこらせと身を起こしたところなのに、また逆戻りだ。
「あ、ひとついいですか」
苛立ったように見下ろされる。
タオルの在処がなぜわかったのかという、まどかの素朴な疑問は、まるっと無視された。
***
思い返すほどに、あの日はセクハラ親父の言動そのものだった。
あきらかなもらい事故で、被害者・秋葉覚が気の毒に思えてくる。
極めつきは、次の日の朝。
「ホテル行かなきゃ」
「いや、ここまどかさんち」
寝癖のついたままの秋葉を急かし、有無を言わさず部屋から追い出す。
「にゃんこお迎えに行くから。ごめん、じゃね」
余韻も何もあったものではない。
(つづく)
▷次回、第6話「居酒屋にて、サクラ飲み」の巻。
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