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Re:便利屋花業 最終話 ワケあり花束 恋愛小説

ドアを開けると紙吹雪が舞った。
クラッカーの派手な音がして、指笛が鳴る。
「ハッピーバースデー!」
綾がまどかの頭に花冠を載せ、拍手する。

性癖さらすようでイヤなんだけど、と秋葉がスイートピーとフリージアの
花束を持たせてくれる。
スズランの白も見え隠れしていた。

「まどかさんの香りのイメージ」
パステルカラーの柔らかな花々から漂うのは、甘く繊細な春の香り。

「花束なのにヤラシイって、どゆことー?」
誰かが合いの手を入れる。
反応を待ちわびている面々を見渡したあと、まどかの両目からせきを切ったように涙がダーッとあふれ出た。

***

「みんなで肉食っててください、にく。応接室借ります」
グイグイ手を引っぱられ部屋に入ると、ソファに座らされる。

本日の主役タスキを、秋葉はいい加減にはずした。
「オレの就職祝いまで絡めてくるから、もうなんのサプライズなんだか
カオスで」

そういえば、抹茶ケーキの隣に並んでいたメニューは、妙に肉々しかった。
「前から思ってたんだけど。泣きかた激しいな」
ひとつ息をついて、彼は指先でまどかの涙をぬぐう。

「正直、目の毒っつ-か、変な気に…」
「死んじゃったらどうしよう」
「ハイ?」

大手メーカーなんて、社員が何万人も所属しているから、ひとりやふたり欠けたって、どうってことないはず。
過労死するまで働かされる。

「大手だからこそ、副業OKなんだけど。便利屋辞めませんよ?センパイ」
ブラックかどうかは、研究室OBから直接情報を得ているから、問題ないという。

「研修で変な圧もなかったし」
最近は人手不足で、むしろ業界は競って待遇を改善していると。
「別れるとかやめるとか、どうでもいい。死なないよね?」
「いや、だから…別れるとは?」

樫山大地とヨリを戻すのかと聞かれた。
沢口は口が堅いから、出どころは所長だな。
人員調整がうまくいかないという口実で、丁重に断ってもらっていた。

***

ティアラと花束をテーブルに置いて、秋葉はまどかの前にしゃがみ込む。
「なんかまた、ため込んでる?一回整理しよう」

就職については、まさかの言ったつもりが発覚。
「自然消滅したいんだと思って」
彼は両手で顔を覆い、苦しげにうめいている。

ティッシュで勢いよく鼻をかんでから、ゼッタイの絶対に、無理しないで、とまどかはしつこいくらいに念押しする。
「は?今笑った?」
「忙しいな、オイ」
「笑ったじゃん」
「なんでもないです。ただひたすらに、かわいいです」

海外赴任はなったらなったで、陸ごと連れていくだけだと真顔で言ってのける。
「あ、まどかさんの仕事のこともあるから、勝手なことは言えないんだけど」
とりあえず、初年度は国内配属だと聞いて、やっと息ができた。

やっぱり一緒にいたいんだと、包み込むような笑顔も秋葉さとる本人も好きなんだと、まどかは初めて実感した。

***

「それと、そんなに信用できないんなら、一生監視すれば?オレが働きすぎないように」
さらりと言われて、こくりとうなずく。
「…え?」
撤回は受けつけない、と秋葉は満足げ。

それにしても、なぜここまでふたりの仲が知られているのだろう。
「樫山ガーデンに殴り込みにいこうとして」
耳を疑った。
「慶さんにシメられた」
血の気が多いだとか、衝動的だとか、普段の彼とはまったく結びつかない。

「会う気ないよ?」
「知ってる」
視線が絡み、なんとなく身を寄せ合いそうになったとき、大声が響いた。

「秋葉ー。致してもいいぞー、今日だけ特別。それとも車にするかー?」
なんとものんきな所長に、まどかは殺意を覚える。

手をつないで立ち上がり、事務室へ続くドアに向かう。
車か…と前向きに検討するのは、やめなさい。

(おわり)


最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。


次回作「フマジメ早朝会議」
イラストレーター志望女子とゆかいなオタク仲間たちのお話。
ただいま鋭意制作中です。
いけるか?元日連載スタート⁉

▽便利屋シリーズは、こちら。
本上綾(新人)&沢口慶(稼ぎ頭)のお話。












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