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Re:便利屋花業 ⒋手に負えない過去 恋愛小説

帰宅すると、まどかはソッコーでメイクを落とした。
ビール缶をローテーブルに並べ、ポテチ袋を破り、秋葉の上着をはがして座らせる。

「ほら吐け」
「…なんですか」
いつも小汚い格好の女がめかしこんでキモイと思っただろう、と言い当ててやった。

ふーっと息を出し、秋葉はあぐらをかく。
「直視できないっつーか、いやガン見したけど。すっぴんもヤバイし」
どういう意味だと、まどかはテーブルを叩く。

「エロかわいい」
「イミわからん」
「本音言わせといて、スルー…」

思うに、こやつは人のことを手のかかる3歳児くらいに思っているのではあるまいか。
お風呂に入ろうとすると、お湯張りの時間がどうのと制止し、何本めかのビールも取り上げる始末。

「これ脱ぐ。レンタルだから」
「そこは正気なんだ」
体のラインにぴったり添ったネイビーのドレスは、背中がザックリ開いていて、首もとの留め具をはずすだけで、すとんと脱げる。

このデザインには腰が引けたが、お世話になっているショップのオーナーにイチオシだと押し切られた。

とろりとした肌ざわりの部屋着ワンピを頭からかぶり、やっと人心地つく。
ちなみに、生着替えを披露している認識は、まどかにはない。
なぜなら自分の家だから。

***

もっと飲ませろと迫って、秋葉の酒を奪う。
返しなさいと言うので、口に直接返却した。
意表を突かれたのか、入りきらなかった液体が彼のあごからしたたり落ちる。

「わーごめん。シャツよごれる」
手のひらで受け止めようとすると、腰を引き寄せられた。

「ん?」
妙になつかしいような、何かを揺さぶられるような感覚が不思議で、秋葉の脚に乗っかった姿勢で何度か確かめる。

わずらわしそうに唇をはずした彼は、なんの苦行だとげっそりしている。
「苦行?」
「酔った女には手を出さない」

「家訓?あー家訓だー」
まどかがお腹を抱えて笑っていると、笑いごとじゃないとキレられた。

***

過去とのニアミスで発動した自暴自棄ネガティブモードは、めったなことでは解除できない。
「飲みすぎ」
「アルコールしか忘れる方法わからない」
頭をぶんぶん振り回していると、秋葉が焦ったように抱えて止めた。

「よく聞いて」
「うん」
「オレとする?」
「うん」
しばらく沈黙が流れたので、まどかは寝そうになった。

「まどかさんと付き合いたい」
「んー?」
「何月何日?今日」
「うん。たぶん」
カクンと力が抜けて前方に倒れ込み、まどかは秋葉の腕の中に収まった。

(つづく)
▷次回、第5話「聞き上手」の巻。










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