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『父親の死体を棄てにいく』感想 カクヨム企画 番外編

黒田八束さんによる、カクヨム企画 『 父親の死体を棄てにいく 』で寄せられた8作品の感想です。Xでやると長文になってしまうため、noteにまとめて記載させていただきました。企画内容↓

以下感想は開催中の参加順。


① 雪の晩鐘 -下村アンダーソンさん

その人の境遇や生活環境、価値観や嗜好など、互いに違うことを明確にするキーとして『音楽』はとても最適かもしれない。他者と出会い、こういう生き方もあり得るんだと知ることは幸いにも不幸にもなりうるけれと、自我を出しきり思いっきり歌い銀狼琴を弾くリューリはとても幻想的で美しかったです。印象的なシーンは、柵越しでパウラと会話するリューリ、柵の外側と内側はどちらが安全なのか、それは彼女の今後の生き方次第。鳴くことと泣くこと、ラストは心の枷がとれて解放的な気持ちになりました。

② レンタカーと共犯者 -あかいあとりさん 

愛理と透の緊張感ある出会いから、次第に本音で話し始める2人、その距離感と微妙なニュアンスが絶妙でした。
『自分たちの持つものを、当たり前だと無邪気に信じている人たちの言葉は、優しいからこそ無神経でぐさりと刺さる』という愛理の言葉が印象的で、普通にはまれない同志になった二人がとても愛おしくなった。本当の自分って人によっては違う。その違うことのせいで、大切だったはずの人を知らず知らずに傷つけているのはとても歯がゆい。けれど知れて良かったはず、生きていくために。

③ 緑の蓄積 - @matsuri269さん

最近遺品整理がとても大変だったという話をよく聞く。それに後始末は、『物』だけとは限らない。今回は、家全体を埋めるゼリーの後片付けだったけれど、その苦労は実際どちらも大変。それでも、なんてユニークな後始末なのだろう。発想がとても面白い。東北人としては、雪かきをしているイメージが湧きました。何度シャベルでかき出しても終わらない……分かる。
父でも母でもない、独身なら?ずっと父にも母にもならなかったら?と想像力が掻き立てられました。

④「スペアだった少年」と「魔女あるいは原始の女神たち」 -青川志帆さん

時代を遡れば遡るほど、劣悪な家父長制のルールがあって、それは国も違わず、同じ子でも長男次男で待遇や向ける愛は全く違ってくる。
少年ダニエルの息苦しさ、不安を『魔女の森』とヴィヴィアンが解き放つ。ラストの終わり方が凄くかっこよくて余韻そのまま続編があったらいいなとも思ってしまった。魔女の森の由来も切ない。力の弱い者同士が助け合い生きているコミュニティ、そこで力をつけた少年は自分の未来とこれからの弱者を救う連鎖が広がっていった。

⑤ Hug Machine - 黒田八束さん 

理子の感じている視点はとても生々しい。見たもの、匂い、触れる、あぶくの音、呼ぶ声など、五感に訴えかけてきます。かれらの秘密は、唐突でありながら、さっきまでの語りを読むと、納得させるものがある。私も抱きしめられることは嫌い。でもこれが安心なんだなというものは分かるし、擬似的なことを侮ってもいけない。海に抱かれるシーンはとても幻想的で静かで、優しかった。
こういう棄て方もあるんだなぁと、改めてテーマの深みがました気がします。

⑥ 利き手を戻せない - 及川奈津生さん 

上司の谷さんには悪いが、こういう突拍子のないお願いに惹かれる、これから二人の新たな関係が始まると思うとワクワクしてしまった、といったらバチがあたるだろうか。
長男として息子として、父親に恨み事を言われ続ける前川の苦しさを思うと、戻りたくないという気持ちが痛いほど伝わってくる。谷さんの言葉一つ一つに優しさがあって『誰かを殺す前に〜』のところはウルッとしてしまった。お父さんも心の整理がつかなかったのかなと思うと、その事を無かったことにしたり無視をしたりでしか表現できなかったことは怒りが湧くけど切なさもある。今後の彼らが気になります。

⑦ 払う獣 - 大滝のぐれさん

『守るために他人が追いつけないほど強くなったのなら、弱い者を置いていかない強さを見せつけることだってできたはずだ。』
という言葉が印象的で、真理だなと思いました。二匹のリスと二人の人間スケクロとキーチ、それぞれの視点で進む物語にどこに向かうのか最後まで分からなかった。どちらも郷土からの脱出を思わせるけれど、やり直しができること自体が、もはや恵まれているのではと考えてしまいます。
『もっとうまくやり直せる』と『全く違う人間になって人生をやり直す』の二つを連想、そのことを今さらながら気づかされました。

⑧ 落とし場 - あめのにわさん 

『嗚咽は泣いているようにも笑っているようにもきこえる』、という表現が心理によって受け取り手次第だなぁと感じる文章で、文学的なニュアンスもあってすごく良かったです。
傍から見ると、奇妙で不気味でしかないことが、風習(因習)と言われてしまうと、壕に入って壕に従うというように彼らにとって当たり前の一部になってしまう。伝記のような怪奇のような物語に、ぞくぞくしました。先が気になる終わり方でかなり余韻を引きずる。



感想後記


 企画からだいぶ日が経ってしまいましたが、カクヨムに寄せられた8作品の感想でした。感覚的なもや印象ばかりで、的外れな読み取りでしたら申し訳ない。どの作品も素晴らしく、とても面白かったです。この作品たちを纏めたら、また一冊の本にできるんじゃないかと思ってしまった。それくらい読まないのは勿体ない。皆様に知ってほしくて感想をお伝えいたしました。この企画でたくさんの作品にふれることができました。感謝いたします。


2024年9月7日〜9日、読了

家父長制アンソロジーの感想はこちら↓

余談
▶ちなみに私の作品は、カクヨムのアカウントをもっていなかったため、noteに投稿しました(すみません)。覗いてくれたら嬉しいです。


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