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どれ程いい行いをしても地獄にしか行けない世界。Can only go to hell ~第1編~

「ぁぁぁああああ!!!」
体が裂ける様な痛みで絶叫するとともに目が覚める。
なんだこれは…!!
どうなっている…!!
無数に巻きたつ炎、ゴォオーという力強く心底怖気づかせる音が耳と脳内を貫く。
体が焼かれる痛みと皮膚が溶け、肉が焼かれた焦げ臭い匂いに包まれている。
置かれている状況と目の前に広がる光景はまさに地獄と呼ばれる構図に相応しい。
裸の自分は鉄製の十字架に貼り付けられて
両手は十字の左右にそれぞれ釘打たれ
両足は十字の一番下に釘打たれている。
まさにキリストの磔状態だ。

釘で打たれてる痛みは気づいた瞬間に
込み上げてきたが
釘で打たれた体を見るまで
猛炎に体を焼かれ、皮膚がただれている痛みの方が
圧倒的に強いせいで全く気づきもしなかった。
しかし皮膚はただれてはいるが
それ以上にただれた具合が悪くなることはなく
負傷している状態は全く変わっていない。
ただ、痛みや息苦しさは常に慣れる事もなく
永遠と苦しみ続けている。
目を覚ましてから間もないが
もう死にたい、死なせてくれという感情に支配される。

なぜこんな所で磔に合っているのか
全く思い出せない。

ただ、痛みにもがき苦しみ
意識朦朧とする中、かすんだ目の前の地獄絵図に落胆するばかりだ。
目の前に広がる全ての光景が炎と
赤黒い雲に覆われた世界で
磔られた自分と無数に巻きたつ炎、
それと、自分が磔られた目の前に
何万本と思われる巨大で先が尖った棘のような物が地平線の果てまで無数に立っている。
1m~5mほどで高さはまちまちだろうか。
ちょうど無数に見える棘を見下ろす形で
燃え盛る炎の中磔にされている。

「…」

置かれている状況が全く理解できない。
「ころしてくれ…」
と、口からこぼした次の瞬間 

(ズスッ)

「!!?」

霞む景色の中、黒い何か人影の様な物が
通ったと思えば何かに刺さる様な
鈍い音が聞こえた。
残る力を振り絞り辺りを見渡す。

「みすズ!!!」

思わず大声で叫んだ途端

「ゲホッオェェ…」 

瞬時に起きた状況を理解出来た途端に
グロテスクな光景に嘔吐した。
信じられないほどの血を吐いた。

美鈴は幼馴染みであり
もう結婚10年になる立派な妻だ。
そんな愛する妻が目の前に降ってきたかと
思えば、1本の大きな棘に串刺しになっている。
巨大な棘は体の真ん中を貫き血は吹き出して
腸や内臓が体から飛び出している。
仰向けで串刺しになっているから
それが妻であるとは直ぐに分かった。

「なんで、どうなってるんだ…」
頭が混乱し気が狂いそうになる。
無惨な姿をした妻から目を背ける。

ズスッ

「!!?」
鈍く聞き覚えのある音が聞こえた。
嫌な予感がする。
恐怖からただれた皮膚でも分かるほどに
肌が粟立つ。

恐る恐る目を前にやると
「か、かあさ゛ん゛!!」
「オェェェ…」
妻の横の巨大な棘で
首から串刺しになった母親を前に
全身がぶるぶると痙攣し始めた。

丁度首の部分が無惨にも棘で貫かれ
胴体と体が首の皮一枚で繋がっている。
体はだらんとした状態で
首から真っ黒な血が噴き出している。

妻と過ごした時間、妻の笑顔
母親の手料理、遊んでくれた記憶
色々な記憶が鮮明に脳裏に浮かびあがり
思いだすほどに悲しみとぶつける場所のない
怒りが全身に込み上げてくる

「もう…もうやめてくれ…」
「俺が何をしたっていうんだ…」

(ズスッ)

「おやじぃ゛…」
頭から誰かが落ちてきたかと思えば
母親が刺さっているのと同じ棘に
頭から串刺しになった父親の姿が見えた。
頭から真っ二つに割れて
脳ミソや首の骨が入り交じりぐちゃぐちゃになっている。
その光景を目の当たりにした、弘人(ヒロト)は
ぐったりとなり息途絶える様に気を失った。








(ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…ピッ…ピッ)
静かな病室に心電図の音がリズム良く鳴り響く。
霞んだ視界の中、真っ白な天井がうすらうすら
目の前に広がる。

「ヒロ?」「ヒロ!!」
よく聞き取れないが
自分の名前が呼ばれいる事は分かる。

「ヒロ!!!目を覚まして!」
冷たく細い手で、右手をぐっと握られる。

「ぱぱぁ~ぱーばぁ゛ー!!」
子供が泣いている…

体が鉛の様に重く、顔を横にやることすらできない。
霞んだ視界が少しずつはっきりとしきてきて
輪郭と色合いが鮮明になってきたところで
目の前に妻の顔が見えた。

「みすず…」
少し横に目をやると
片手で抱き抱えられた3歳になったばかりの
陸(りく)が泣きわめいている。
陸の手には大好きなトミカが握りしめられている。

途端に胸が熱くなり
涙が込み上げてくる。
鮮明になった視界が、瞬く間にぼやけ初めた。

「りく…みすず…」
記憶を辿った弘人は自分が置かれている状況を
鮮明に思い出した。

「よかったぁ゛…うぁぁぁぁん」
陸をお腹の上に置いた美鈴は
ギュッと、弘人にかけられた布団を握りしめて
胸の辺りにそっと寄りかかった。
「よかったよぉ゛、生きててくれてよかったよぉ…」

「心配…かけてごめんな…」
右手をそっと美鈴の背中にあてて
左手で泣き続けている陸の背中を
ゆっくりさすった。

家族と再会出来た喜びと同時に
記憶を遡る2日前。




いつも通り会社から帰宅中の弘人は
最寄りの駅から降りて
徒歩5分ほどで家に着く頃だった。
片手には仕事用の鞄。
もう片手には陸へのプレゼント。

2日前に3歳の誕生日だった陸に
美鈴と「まだゲームは早いだろう」と
初めて3歳を迎える我が子のプレゼントに
心弾ませながら話し合った末に
トミカが走り回る立体駐車場をプレゼントしたところだった。
肝心のトミカが少なかったから
駅近くのオモチャ売り場で自分好みの
トミカを10台ほど買っていた。

「喜ぶだろうなぁ」

我が子が喜ぶ姿を頭に浮かべながら
いつも以上に軽い足取りで帰宅する途中
前から1人、黒づくめの男が歩いてきた。

毎日同じ時間に帰宅するだけに
見覚えのない人だと余計に気味悪く思える。

足音もなく近づいてくる男を
チラッと見た途端、フードの下から
ニヤリとうす気味悪く口元が歪んだ男と目が合った。
黒づくめの男は目だけがギラギラと
輝いており、こちらを凝視し続けたまま
ゆっくりと近寄ってきた。
不審に思い逃げようと少し後退りをしたが
思うように体が動かない。
合わせた目も離せなくなり
体から力が抜けおちた。

(ズスッ)

「う゛ッ」

そのまま躊躇いもなく小走りに近寄ってきた黒づくめの男に
刃物で腹部を突き刺さされた。

(ドサッ) 
両手の力を失い、鞄が手から滑り落ち
陸へのプレゼントが無惨にも地面に散らばる。

「ハハッ」
不敵に笑いだしかと思えば
刃物を腹部から抜き取り
背後に走り去っていった。

サーッと全身の血の気が引いていくのが分かる。
激しく震える右手を腹部に手を当てると
暗闇のせいもあるのか、赤くない
真っ黒な血が手のひらを濡らした。
それと同時に膝から崩れ落ち
人通りの少ない歩道の真ん中に横たわった。

霞んでいく目の前の薄暗い光景に
渡すはずの白と赤のトミカの箱だけが明るく照らされいた。

「り、く…」

大の字に倒れた弘人は間もなくして気を失った。



2編に続く。



お読み頂き有り難う御座います。
この先最も伝えたい人間のテーマでもある
哲学的な要素を織り混ぜ
考え深いストーリー、展開で
書き進めようと思ってます。
日頃の時間を割いて描いているので
楽しみにして頂ける方、
今しばらくお待ちください。
また、誤字脱字もあるかと思いますが
暖かい目で見てください。

GaGa











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