見出し画像

移住者ばかりで立ち上げたベンチャーがスマート水産業に挑む!

コロナ禍で自分の生活を見直し、自然や人との触れ合いを大切にしたいと、地方に移住する動きが加速しています。社会もテレワークにより場所を選ばない働き方を許容する傾向に大きく前進。国は「地方人口ビジョン」において、地方への人材還流をテーマに掲げ、移住者が地域活性化において起爆剤となることを期待しています。その移住者ばかりで、水産業という外からは閉鎖的にも見える業界でスマート養殖に挑む株式会社リブル 代表取締役 早川 尚吾さんに、なぜ縁もゆかりもない場所で起業し、何を目指しているのか、お話を伺いました。

世界一おもしろい水産業を目指して

―どんな事業内容か教えていただけますか?

リブルは「世界一おもしろい水産業」を体現するという想いで創業し、水産業界が盛り上がるような仕組みづくりを行なっています。

現在、足元の事業としては、徳島県海陽町で牡蠣の養殖を行っています。日本では牡蠣養殖の9割以上が筏から吊るす手法ですが、我々は「シングルシード生産方式」と呼ばれる、オーストラリアなどで主流の手法を採用しています。海に設置したポールの間をワイヤーでつなぎ、そこに取り付けたバスケットの中に牡蠣を入れて養殖します。この手法は、海の干満を利用することで、牡蠣が本来生活している環境に近い環境を作り出すことができます。さらには、いわゆる牡蠣の赤ちゃんである牡蠣の種苗を人工的に作る人工種苗を生産し、その人工種苗を他の養殖事業者さんに販売する事業も行なっています。これら、牡蠣の養殖における、種苗づくりから牡蠣の販売をするところまでの一連を事業として手掛けています。

もう一つは、研究開発型の養殖会社として、スマート養殖の仕組みやシステムの開発に、KDDIや徳島大学などと連携をしながら取り組んでいます。将来的には、このシステムを、新たに水産業にチャレンジする方が使うことで、牡蠣養殖で事業のベースを作りやすくなる仕組みを提供できたらと考えています。

牡蠣養殖もスマート養殖も、今後は、海外にも展開をしていきたいと考えており、今期、テスト的に海外で展開するべく準備を進めています。

―リブルが目指しているスマート養殖について詳しく教えてください。

我々が目指しているのは、失敗しにくい養殖業です。そのために、まずシステム化したいのは、牡蠣の個数や歩留まり、環境データなど、養殖に関わる情報を見える化することです。環境データとは、気温や海水温、塩分濃度、濁度、牡蠣の餌の指標となるクロロフィルの量などです。また、自力であまり動けない牡蠣は、風で揺れる海面、海流など外的な要因も非常に大きく影響を受けるということも掴めてきています。それらの情報をセンシングできちんと把握し、見える化したうえで、情報データを積み重ね、アルゴリズムで導き出すことに取り組んでいます。

それが実現できれば、システム上で、どのタイミングでどのような作業をすればよいかを提示できるようになります。それら養殖管理の行動アドバイスを、タブレットやスマホで確認できれば、新たに養殖業に取り組む方も、参入しやすくなるのではないでしょうか。

日本の水産業における養殖業の比率は約2割です。漁獲はどんどん下がっている状況に対し、もし養殖業の比率を上げることができれば、日本の水産業の発展に繋がると考えています。

―スマート養殖が実現すれば、漁師の方の負担が大きく軽減できそうですね。

その通りです。漁師の方は、時間を問わず、天候によっては漁場を見に行くこともあるので、働く時間が不規則であることが当たり前になっていますが、スマホで情報を確認できれば、そのようなことを減らすこともできます

海外では牡蠣養殖はオイスターファーミングと言われるほど大規模化されています。きちんと週休2日制で、出勤も基本は朝の9時から夕方5時までなど、普通の会社に勤めて働くことと変わらない運営をしているところも存在するのです。日本でも、そのような働き方で養殖に取り組める環境を整えたいと思っています。

情熱をかけられる事業を求めて、徳島県海陽町に移住

―移住者ばかりで立ち上げた水産ベンチャーとのことですが、創業メンバーはどのように出逢ったのでしょうか?

創業メンバーは私と共同代表の岩本、それから高畑の3名です。10年前、私は商社勤めでインドネシアに駐在中、同じく別の会社の駐在員だった高畑と出逢いました。当時、お互い20代後半で血気盛んだったので「どこまでチャレンジできるか試したい!」という想いをぶつけ合いましたね。そんな折に「地方創生」という言葉に刺激を受け、私と高畑は起業するために、日本の地方でチャレンジできる場所を探しはじめました。そこで、全国に先駆けてサテライトオフィスの誘致に力を入れていた徳島県海陽町に辿り着きました。

徳島県海陽町で起業の種を探すべく、地域の方々からお話をお聞きする中で、「日本の強みであるものづくりを自分たちで手掛け、販売する」ことに取り組みたいという想いが強くなっていきました。そして出逢ったのが創業メンバーの3人目の岩本です。岩本は民間の研究所で養殖の研究をしていましたが、なかなか事業化に至っていませんでした。僕と高畑は水産業には全く目を付けていなかったのですが、岩本の話を聴いて、非常に面白いと感じ、彼が研究していた養殖を一緒に事業化することになったのが始まりです。

―徳島県海陽町は牡蠣の養殖が盛んだったのですか?

海陽町は元々牡蠣の産地ではなく、牡蠣養殖には不向きな地域です(笑)だから、海陽町で牡蠣養殖をしていた方はいませんでした。海陽町の海は、サンゴが生息するほど温かく牡蠣が育ちづらいのです。また、とても綺麗な海でもあり、逆に言えば餌が少ないので、それもまた養殖に向いていない。おまけに、台風の通り道という、悪条件が揃ったハードな海でやっています。

これは、我々の“敢えて”の戦略です。悪条件でも、スマート養殖によるシステム化で、環境をコントロールでき、牡蠣養殖を実現した実績があれば、他の地域への展開する際に、条件などに左右されず養殖ができることを発信していけます。

―創業から4年、どんな道のりでしたか?

創業当初、僕は商社での経験値が多少活かせると思っていたのですが、正直、何の役にも立ちませんでした。それこそ「1円が1円だと理解している」レベルのように思えました(苦笑)日々、ファイナンス・採用・チーム作りなど、手探りで1つずつ進めています。

しかし、創業メンバー3人でタッグを組んで取り組むことで、それぞれの強みを活かして仕事を分担しているからこそ、チャレンジングなことに挑戦できていると思います。さらに、従業員も10名になりました。そのうち徳島県内の出身が5名です。他は東京など都市部から移住してきたメンバーもいますし、遠隔で働いてもらっているメンバーもいます。最近は、それぞれのメンバーがすごい力を延ばしてきて、日々前進してくれていますね。

スマート養殖の研究開発を進めるためにファンドから資金を調達

―創業から4年目にファンドから資金を受け入れたのはなぜでしょうか?

ファンドの資金を必要とした理由はいくつかあります。まず、キャッシュフローの問題で、活動資金を確保する必要があったからです。地元の金融機関にもご支援をいただいていますが、融資はやはり実績で決まるようなところがあります。それに対して我々はスタートアップで、実績をこれから積み上げていく状況で、融資いただける額には限りがありました。さらに、我々は牡蠣養殖をしながらスマート養殖のシステム化も進めており、設備投資が必要です。牡蠣養殖をするのに、漁具を買ったり、洗浄や出荷する場所を確保したり、ある程度まとまった資金が必要でした。加えて、研究開発型の養殖会社を目指しているので、研究開発を進める資金と人材の確保も必要です。これらの理由で、ファンドからの資金調達を進めました。

水産業はどうしても成果を出すまでには時間がかかります。テック系など、いわゆるトレンディな事業形態ではありません。そのような事業に、資金を出してくれる方がいるのかもわからない状態での資金調達だったので「資金を出していただけた」という感覚です。水産業の難題にチームで取り組むという姿勢に一定の評価をいただけたのかなと感じています。

―FVCの担当者とは日頃どんなやりとりをされていますか?

投資いただいている中で、一番付き合いが長いのがFVCの岩本さんですね。我々が資金調達を考える前から海陽町に足を運んでくださり、「また来るのでお話しさせてくださいね!」と言って通い続けてくれました。我々が資金調達をすると決めてからは、事業計画の壁打ち相手をお願いしたり、他のVCからのQ&Aについて相談をさせていただいたりしました。年齢が近いということもあり、大切な相談相手です。

新しく水産業に挑む人が「やれるかも」と思える環境を整えたい

―今後、どんなことを実現し社会をどう変えていきたいですか?

研究開発型の養殖会社であり続けたいと思っています。今は牡蠣養殖に取り組んでいますが、今後は他の品目にも展開していきたいですね。貪欲に、新しいものにチャレンジし続ける会社でありたいです。

創業の地である海陽町に牡蠣養殖の産業を作り、雇用を生むという恩返しもしていきたい想いはもちろんありますが、我々は日本全体の水産業を課題として捉えています。スマート養殖を確立し、全国に展開して、10代20代30代という若い世代や、新しく養殖に取り組もうとされる方が「このやり方だったらチャレンジできるかも」と思えるような環境を整える一端を担っていきたいと思います。

若い人が水産業をやりたいと思ってもらえるには、いろんなことを変えてい行く必要があります。我々だけでは手が届きません。多くの方々を巻き込んで、様々な取り組みや仕掛けをし、国に新しい提言を聞き入れてもらえるような存在感を持てるくらいになりたいです。

―その巻き込む力こそ、商社のご経験が活かされているのかもしれませんね。

そうかもしれませんね。「水産業がこのままだとヤバいんです!一緒に取り組んでください!」「自分たちに足りないところはここなので、助けてください!」と、正直に伝えています。今は相手にメリットを提示できるほどの企業ではないですが、将来、必ずメリットを出せるような形にしていくので信じてほしい、というスタンスでお話をしています。もちろん、門前払いで終わる話もいっぱいありますが、最近では、SDGsという言葉が浸透してきたこともあり、追い風を感じています。大企業ほど、自社の事業としては取り組みづらい分野なので、我々のプロジェクトに関わることでSDGsに貢献されたり、支援メニューを考えていただいたりなど、いろんな形の支援が増えてきました。

―世の中の消費者に対し、伝えたいメッセージはありますか?

是非、皆さんにも海の現状を知っていただきたいです。漠然とは、海や水産業に関する問題はご存じだと思います。例えば、漁師が減っているとか、高齢化が進んでいるとか。でも、水産物を買う時・食べる時、それを思い浮かべる人は多くはないでしょう。もっと簡単に取り組めることといえば、海を汚すような行動はしないようにしてほしいということと、「安いからいい」という考えを払拭してほしいです。「このサイズでこの価格」と表面的に捉えるのではなく、なぜその価格なのかの理由に少し思いを馳せてもらえると、生産者側としては作っている甲斐がありますね。


早川社長の”座右の銘”
「事上磨錬」

もともとは「実際に行動や実践を通して、知識や精神を磨き上げること」を意味します。これを私は少し異訳し「経験した以上のことはできない。何かを成し遂げたければ、まずすべからく実践せよ。経験がその先を導いてくれる。」と読み替え、僕の中で大事にしていることです。


投資担当者からひと言
リブルの経営陣は非常にエネルギッシュ且つ人間味あふれるメンバーが揃い、目指す世界観に向かって突き進む姿は、まさに「One Team」です。真剣に、世界一おもしろい水産業を目指す彼らが丁寧に育てた牡蠣は 綺麗な形をしていて、見た目にも食欲をそそります。是非、良いワインのお供にどうぞ。(岩本 直人)

インタビュアーからひと言
水産業への問題意識の強さの根底には、先輩漁師たちへの敬意を感じました。虚勢を張らず、できないことを認め、まっすぐにぶつかっていく、その潔さと強さこそ、周囲の方を巻き込んでいく早川社長の魅力なのだろうと感じます。移住者ばかりで立ち上げた水産ベンチャーが、連携先も含めたチーム力で、日本の水産業に新しい風をどう吹かせていくのか、今後を期待しています。

投資ファンド
地域とトモニ1号ファンド


株式会社リブル 
ウェブサイト
Online Shop
Instagram
Facebook
note
Twitter

#起業 #スタートアップ #ビジネス #経営 #インタビュー #SDGs #地方創生 #社会的インパクト #水産業 #VC