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ア ム リ タ 温 泉 に 浸 か る 。 2

この日の記事の続きを、今日も書いてみようと思います。
※ネタバレ多めです。これから吉本ばななさんの「アムリタ」を読もうと思っている方は読後にこの記事を読まれることをお勧めします。

アムリタの上巻の一番山場というか重要なシーンがあって、それは・・
主人公朔美の年の離れた弟が、あるときから不思議な能力をもつようになり、母が恋人と旅立つ前の日に「その飛行機は落ちる」と予知するシーン。
それでもその予言を振り切って、母は旅に出る。落ちると言われた飛行機をキャンセルせずに・・

その辺りの一連のシーン。

由男「飛行機、飛行機が落ちるんだ」「行っちゃだめだよ」
  「朔ちゃん、何とか言ってよ。止めてよ」
朔美「・・・とりあえず、やめてみたら?縁起わるいし」
(略:その後、皆が「日をずらせば?」などを母に提案し、もやもやとした空気が流れ始める。)
しかし、母はばん!、とテーブルをたたいて、
母「何なの、何だって言うの、みんな!今しか取れないから休暇なのよ。あの人忙しいんだから!もし行かなくてその飛行機が落ちなかったら、誰が責任を取ってくれるっていうのよ!」
と叫んだ。あまりの切実さにみんなが我にかえった。
母「もうチケットだって取っちゃったのよ。いい、もう。決めた。私は行くわ。飛行機が落ちたって。」
朔美「本当に?死んでも行く?」
母「ええ、いいわ。決めた。」
 「それで死んだら、それが運命なのよ。本気よ。そこまでの私だってことよ。みんなごめんね、もし死んじゃったら、忠告を聞かなかったばかな人だった、って笑って」 
そして、明るい顔でお茶をすすった。
アムリタ 吉本ばなな P173

わたしはこのシーンがとても好きだった。母の毅然とした態度。そして決意。当たるかどうか分からないものに、私の人生振り回されてたまるかという気持ち。強い気持ち。今を楽しんでやるという心意気。決して先延ばしにはせず。このシーンにぴんときたのは、おそらく自分の中にもこういった熱いものがあるから。ではないだろうか、と思った。わたしも「今を楽しむ」気持ちで生きているところがある。

そして、その後のシーンもとても好き。

母はため息をついた。
「どう思う?」
私は答えた。
「半々だと思う。」
「何と何の?」
「母親が、不安定な自分を置いて男とパリに行くのが許せないのと、本当の勘と」
「そういう年頃かしら」
「心細いのよ」
「そう・・・どう思う?」
「何が?」
「登校拒否児を置き去りに、男との休暇に走るような母親を。」
大きな目で私をじっと見据えて母は言った。こういう母にはうそがつけない。
「実は、いいと思ってる。」
アムリタ 吉本ばなな P176

私も、朔美と同じように、そんな母親っていいなと思った。
そして朔美はこの後、こう言う。

「誰かのために自分の本当に楽しいことを削って、あの子のせいでつまらない思いをしてるのを見せつけるより、きれいで幸せでいたほうが、結局はあの子のためだと思う。」

この言葉について感想を言ったりなにかを付け足すのが野暮に思えるほど「真髄」と言えるような言葉だと思った。
わたしも、親には我慢されるより好きなことをして楽しんでいて欲しい。
今恋愛中のKさんを見ていてどこか苦しくなってしまうのも、これなんだろうなって思った。Kさんは自分が楽しい嬉しいと思える事よりも、私を喜ばせることを優先させる。わたしはKさんにもっと楽しい気持ちになってもらいたい。良い気持ちになってもらいたい。でもいつもその辺りですれ違うんだよな。Kさんはいつも何かを我慢しているように見えるんだ。

朔美は、母が旅立つことを決めてからも、ずっともやもやしていた。
それは、弟の予言の的中率が高いことを知っているから。

もしも私が本気で止めたら、弟とは違って、母は耳を傾けるかもしれない。行くのを思いとどまるかもしれない。そうしたら、母は助かる。
でも、もし行かなくて飛行機が落ちなかったら、母はもう弟を信じなくなる。彼はおおかみ少年だ。今の彼にとって、それは取り返しのつかないくらいショックだろう。
それに、私は止めたくない、私も落ちる気がしないし、母の性格が好きだからだ。母は、自分で決める。誰の指図も受けない。その姿勢にどんなに救われてきただろう。
それに弟にはこんなふうにして欲しいものを手に入れるやり方を身につけてほしくない。
アムリタ 吉本ばなな P179

この朔美の想いにとても共感した。
そうだ、弟がおおかみ少年になってしまう可能性だってある。
それは絶対に避けなければいけない。
そして、誰かの生き様を見て、救われることって、ある。
弟には確かに、こんな変化球なやり方で人を思い通りに動かすような方法を身につけないでもらいたいよね・・ と、うんうん頷きながら読んだ。

その後、朔美は弟を連れて高知へ旅に出る。
7日経ったころ、ぽかりと身体の奥底から想いが浮かんでくる。
そのシーンも好きだった。

空は甘く曇っていて、ちょうど白いベールの向こうに青が透かし見えるような感じだった。
なみはざぶん、ざぶんと堤防のはるか下のほうにぶつかってはクリームのような細かい泡を水面に広げていた。
さざなみの三角にとがったもようが、たえまなくちらちらと揺れていた。
それをいっぺんに見ていた私の胸に、ふいに、
「潮時かなー」
という言葉が浮かんできた。
この美しさに突如飽きたのだった。
波音が繰り返し響いて、何かを伝えているようでもあった。
もう帰ったほうがいいよ、
もう見えるものは見たみたいだよ、
そういう感じだった。
アムリタ 吉本ばなな P204

一定の期間、なにかに熱中していても、突如「もういいかな」って思えてくる瞬間が訪れることが自分にもある。
一時期熱中していた「太鼓」も、大学祭のイベントで叩いたら「もう満足」ってなったし、「水彩画」も、たくさんの人と接するのがなんか疲れるなあ、少人数でぼちぼち描いたりしてる方がいいな。先生とマンツーマンとかもしくは一人で。なんて思ってから遠のいた。
大好きな読書も、ここ最近心地よく読んでいた江國さんの「ホリーガーデン」を読み終えたら、一旦終わり。みたいになったり。(他の本もちらちら開いて覗くものの、やはりホリーガーデンほど取り込まれる感はなかった。特別な時間だったんだなあと思う。)
今いちばん楽しめている「ピアノ」も、いつか終わりがくるのかな。来ないでほしいな・・ そんな気持ち。


アムリタはぴんとくる箇所が多すぎて、まだまだ感想を綴りたいところがたくさんあるので、また「3」へ続きを書こうと思います。

読んでくださり、ありがとうございました◎


「3」へつづく。

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