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伊東のTUKUNE 19話 やさぐれ財衣紋

▼前回

https://note.com/fuuke/n/nd1c3b74f4939

▼あらすじ

進学した僕はなんとなく不良になり、恥ずべき人生を送っていた。ある日の帰り道、僕は村上紫という少女を助けたことでお礼にしゃべるハムスター♀をもらった。果たしてハムスターとは「貰って」よいものなのだろうか。すると僕は自己の髪に宿った人形のことを思い出した。

僕が切り落とした髪は「生き物」のようなかたちを形成し、僕の手の中にいた。そしてその後僕はこれ自身にやさぐれ財衣紋(ざいえもん)という名前をつけるのだ。

あくまでそれは全体の一部だが……このような一部がかつて僕をも形成していたのだ、と思うとひた恐ろしくなる。

ひた恐ろしい、とはその時に思った「怖さ」を形容するために造った言葉だった。ひたすら怖いという意味である。僕は切り落とした自分の髪を単純に怖く感じたのだ。

それ以外の形容詞でそれを表現したら、僕は呪いにかかるんじゃないかと思った。この話は誰にもしていないが(僕の思考が読めるこのハムスターに対しては、自動的に話してしまったことになるがそれまではなかった)、当時はとても人に話せなかった。それぐらいの異彩を僕は「かつて自分だったもの」に対して感じてしまっていたのだった。

その髪の絡まり具合は芸的だった。一体どうやれば、僕が帰宅し風呂から上がり、寝て起きるというたったそれだけの間の時間内にそこまでの芸能を自動的に僕の髪がおこなうのかが、その成り立ちすら恐れてしまう、と思えるほどに意味不明だった。

髪を形容すると「胴体だけのとんぼ」である。

胴体だけのとんぼとはすなわちやごがそのままうねうねしているようなものであり、蝶にたとえるのであればあの蝶たちはかなりきれいだけど、羽を別にして考えるとまんま幼虫なので恐ろしいですね、という感じだといえば伝わるだろうか?

斯様に、僕の髪束はそのような形をしていた。

それだけではない。

とんぼであるだけならまだよいのだが、僕の髪が解けなかった理由でもあるこの「髪の特殊なからまり具合」が目を引いた。

この髪はとんぼの胴体部分つまり普通にまっすぐ生えている髪束に巻き付く別の部隊としての増援をも呼んでおり、それらが胴体に巻き付きとんぼ然とした姿かたちを形成するのに役立っている。

それだけならマジでまだいい。胴体部分というからにはその先端部分にうまい具合に髪が「目」となる部分を一本線で形成しているのも別にいい。先端部分からちょうどハートの上がわとなるように2本ぐらい飛び出していてもそういうこともあるだろう。

本当に恐ろしいのはその「目」みたいなハートの上部として飛び出して輪を書いているような髪たちが、とんぼの胴体を埋め尽くすように2本づつまたはそれ以上飛び出して輪を造っていた部分にある。

つまりこの髪束をぼくはとんぼの胴体と形容したが、詳細に云えば「上から下まで隙間なくあらゆる部分に目が生えているとんぼの胴体」が正しい。

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文字で表現すると平和なお団子みたいになってしまったが、 この「∞」が胴体部分である「 | 」に無限にまとわりついているような状態を想像してもらいたい。

髪とは、生き物の身体から離れてしまうとそれだけで威力を持つ存在であるように思える。僕はこの物体が自分の手のひらに載っていた時に、僕は一体何を生み出してしまったのだろうと後悔にも似た寂寥を覚えた。

▼次回

▼謝辞

(ヘッダ画像をお借りしています。)

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